く方式 その41〜その50

その41
 「ホイッスル言語」の段階にいる自閉傾向の子供がどのようにしてそれを乗り越えるか、についてお話ししましょう
 

(61)耳を使う学習をしよう(目だけ使っていないかチェックしよう)

くれよん方式17,18、19を読み返してください。@絵と文字のマッチングに言葉をのせる。A50音の聞き取り。B言葉を聞いて絵カードを取る。C模写に言葉をのせる。D聞き書きをさせる。など「耳を使う」学習をすることで、言葉を手がかり刺激として受け取るようになります。 
 

(62)実物(実際の動作)と意味をマッチングさせよう

絵と文字のマッチングに言葉をのせるレベルまで到達していれば、実生活の中でもどんどん取り組んで行くことができます。ただ大切なのは「言葉づかいを一定にし、子供がしっかり聞分けたかどうかがはっきりわかる」ようにすることです。順を追って説明しましょう。
 机の上にボール、鉛筆、カバンを置いたとします。(他のものでもかまいません)「ボールをとってください」とってこられたとします。次は「鉛筆を取ってきてください」とってこられました。最後に「カバンをとってきてください」とってこられました。このようにスムーズにいけば並べ替えて同じように質問してください。とれるものが増えてくると今度は机上など一箇所に並べるのではなくて、手近なところに置いて「・・・をとってきてください」をいろんな物についてやります。もし出来なければ、誘導してその前までいき「・・・をとってください」でとらせます。できるもの、できないものを記録しておくことが大切です。知っているもの、知らないものだけではなく、「聞き取れる音」「聞き取りにくい音」もあるからです。物とその名前が音声を通じてしっかりマッチングしてくると次は動作にはいっていきます。「手を洗ってください」「靴をはいてください」「スイッチをつけてください(消してください)」日常のあらゆる動作をしっかり指示します。最初は水道の前で「手を洗ってください」玄関では「靴を履いてください」スイッチの前で「つけてください(消してください)」からはじめます。少しずつ距離をはなしましょう。言葉を聞いてその行動をとるまでに他の刺激(物、場所)がはいっても正しく行動できれば「意味がわかっている」のです。これも「正しく出来る動作」と「出来ない動作」を記録し出来ないものについては何度も「誘導、介助」しながらしっかり言葉をのせて根気よくパターニングしてください。気をつけなければならないのは「いろんな言い方をしない」ことです。最初の段階では指示が出ることをわかってもらう為に「・・くん(さん)」と呼びかけることに決めるとよいでしょう。そのあと「靴を履いてください」と言ったり「靴はきよー」と言ったりしてはいけないということです。言い方は一つに決めてはっきりした声でいいましょう。窮屈な感じがしますが、このやり方でしっかり耳を使うこと、言葉の意味をマッチングすることが出来てくるとあとはどんな言い方をしても意味さえ同じならきっちり理解してくれるようになります。家の中にあるもので日常生活によく使う物とその名前、家庭や学校で頻繁にする動作とその言葉がしっかり一致してくるまで頑張りましょう。

 

●ポイント

・言葉をしっかり聞けるようになるまでは、声(言葉)のかけ方を一定にしましょう。


 


その42
 「ホイッスル言語」を卒業したのではないか、と思えてもまだまだ安心はできません。
 

(63)違う人が同じ言葉かけをして、きちんと動けるかどうか調べよう

物事を認識する上で、低い方から触覚→視覚→聴覚と階段を上がっていくのですが、下位の働きだけで何年も生きてきた自閉傾向の子供が上位機能を働かせるのは容易ではありません。「まるできちんと目で見ているかのように」触覚レベルで生きる子がいます。(全く足元を見ないで階段を下りたり山道を降りたりする子達がそうです。)ですから、「まるで耳で聞いているかのように」視覚だけを使って上手くやっている子が大変多いのです。ある人が「コップを洗ってください」と指示したのに対してきちんとその通りにできるのに、別の人が全く同じことを言っても上手く伝わらないことがあります。これなどは「コップを洗ってきてください」と言う言葉ではなく指示した人の表情とか微妙な手振りとか、それこそ目じりのしわのより具合」などが弁別刺激になっている場合が多いのです。もしそうだったとしたら、根気よく、いろいろな人が同じ言葉かけで一つの動作をさせましょう。誘導介助してもよいのでとにかく「言葉を聞いて行動する」パターンをふやしましょう。パターンをふやしても意味がないと思われるかもしれませんが、そうではありません。パターンを増やすことによって「パターンの中から選択する」必要が出てきます。これが脳を活性化させるのです。このトレーニングをしばらく続ければ、上の例のような極端な場合であっても、すぐに聴覚を働かせて相手の言葉を聞き取るようになります。
 

(64)1対1対応を抜け出すことが概念形成であり、パニックの克服につながる

物の名前を言葉としてマッチングでき、動作と言葉をマッチングできるところまできたのですが、一向にパニックなどの問題行動がおさまらない、あるいはもともと物の名前はよく知っているし要求語も言えるし、身辺自立もまずまずできていて何でもわかっているように見えるのにパニックを頻発して大変だと困っておられるお母さんも多いと思います。これは「1対1対応」が原因です。「低いレベルでの1対1対応」はたとえば「絵カードと文字カードでりんごのマッチングができても、実物を見たらそれがりんごだとわからない」と言うレベルです。しかし、最初はそうであったとしてもトレーニングをしているうちに自然と絵カードと実物が同じものを表していることがわかってきますし、皮をむいたりんごも赤いりんごもどちらもりんごだ、ということを「教えなくても」わかってくれるようになるものです。使う機会さえ与えられれば、脳はどんどん発達成長してゆくからです。しかし、自閉傾向の子供にとって大きな壁が立ちはだかるのはここからです。何でもわかっているように見える子供がパニックを起こしてしまうのは「状況と行動の1対1対応」が原因であり、ここに手を加えなければいつまでもパニック魔王のままである、ということです。「・・・という場面では〜しなければならない」からパニックになるのです。「〜したい」などという生易しいものではなく、「〜しなければならない」のです。このメカニズムの説明と言語トレーニングによってどうやってそれを解消するか、が次回からのお話です。

 

●ポイント

 いろいろな人が同じ指示をしたとき的確に動ければ耳が使えています。

 パニックの原因は「1対1対応」です。

 


その43
 「1対1対応」がパニックの原因とこの前お話しました。もう少し詳しく説明しましょう。
 

(65)パターン行動は「1対1対応」の連鎖である

自閉傾向の子供が一連の行動、例えば@「帰る用意をするよ」と言われる→A立ち上がってロッカーへ行く→Bカバンを取ってくる→C机の中から筆記用具を出し、カバンに入れる→D机の横にかかっている水筒をカバンに入れる→Eカバンを閉めて机の横にかける、というような動作をスムーズに出来ていたとしましょう。この時誰かが手伝ってあげようとしたら激しくそれを阻止したり、わざわざ出してやり直したり、そこまではしなくてもカンシャクを起したり、あるいは本当にパニックを起したりというようなことがあります。また他の例では「いつも決まった道を歩き、決まった場所で3歩下がって上をしばらく見上げ10歩ほど歩くと電信柱をさわってまた立ちつくす」などを延々とやってなかなか進まないというような人もいます。ボーっとしているように見えるのに「早く行きましょう」と手を引っ張ろうとしたら体中に力が入って大地に根が生えたように動かなかったり「あっちへ行け!」とばかりに突き飛ばされたりパニックを起したり、というようなことになります。
 この奇妙なそして迷惑千万な行為はなぜ起こるのでしょう?「1対1対応」が原因なのです。「パターン行動」と言う言葉から我々は自閉傾向の人が例えば「帰る用意のパターン」の時には@(帰る用意の合図)からE(カバンを机の横にかける)までの全体の流れをきちんと把握していてその中で自分の好みの順番でやっていると考えがちです。そうではありません。1つ1つの行動が連鎖した結果「一連のパターン」に見えるだけであって自閉傾向の人にとっては「ロッカーへ行く行動の次にくるのはカバンをとる」「カバンを取る行動の次には机の中から筆記用具をとる」と言うように1対1対応しているにすぎず、「机の中から筆記用具を取り出してカバンに入れてはじめてその次の水筒を入れる行動がスタートできるということなのです。ですから「帰る用意」というものが全体像として頭にあるのではなく1つやったら次にくる行動をし、それが終わると次の行動をするだけなのです。「妙な道の歩き方」の例も「家に帰る途中」と思うのは我々だけであって彼らにとっては「3歩下がって上を見たら10歩歩く」という1対1対応を延々と続けていった結果「何かの行動→ドアに手をかけ右足から入る」と言う形で「家に帰るまでのパターン」が完結したようにみえるだけなのです。全体像(今自分は何のために行動しているか)がわかっていれば「要は帰る為にカバンに荷物を入れさえすればよい」のだし、「どの道を行こうと家に帰れればよい(普通、早く着けるほうが良い)」のですが、そうはならない理由は「Aという行動にBという行動がつづいて起こらなければならない」「1対1対応」が彼らの行動を支配しているからです。前回「〜が好き」とか「〜したい」とかのようななまやさしいものではなく「〜しなければならない」という絶対のものだとお話したのはこういうことなのです。しかしこんなことでは社会の中で生きていくのは大変難しくなります。どうすればよいのかをお話ししましょう。
 

(66)「はい」と「いいえ」が1対1対応を抜け出す第一歩

 絵カードや実物を見て「りんご!」とか「バス!」とか「はさみ!」とか「くるま!」とか沢山言える子供は多いと思います。しかし「りんご」の絵カードを見せて「これはみかんですか?」と質問した時「いいえりんごです」と答えられる子供は少ないのです。これが出来るようになることが第1歩です。次回そのお話をしましょう。

 

●ポイント

 パターン行動はA→B、B→C、C→Dがつながっているだけである。

 


その44
 「はい」と「いいえ」がなぜ大切かを説明しましょう。
 

(67)「はい」と「いいえ」の言えない子供は「判断」をしていない

われわれが普通に考えると、「机」というものを知ってさえいれば「いす」を見せられて「机ですか?」と聞かれた時に「いいえ、違います」と言えるのは当たり前のように思いますね。そして「いす」というものを知ってさえいれば「いいえ、違います。いすです」と訂正して答えるのも当たり前にみえます。しかし、そこにはとても重要なプロセスがあるのです。いすを前にして「机ですか?」と聞かれた時、我々は瞬時に「いす」と「つくえ」の形状記憶を呼び起こし、目の前に映し出します。その映像と目の前のある「いす」を照合し同じ(同じ特徴をそなえている)ものなら「はい」違うものなら「いいえ」を選択して返答するのです。これが「判断」です。それに対して自閉傾向の子供の多くは「これは何?」と聞かれれば「机!」「いす!」と答えることができても、いすを目の前にして「机ですか?」ときかれるとやはり「いす!」と答えるか、知らん顔をするか、「机ですか?」とオウム返しをするか、へたをするとかんしゃくからパニックになったりします。なぜ、物の名前を知っているのに「いいえ」が言えないのでしょう?それは「物」と「名前」が「1対1対応」しているにすぎないからです。いすを見たらそれは「いす」であってそれ以外どういう方向にも一切頭が働かないのです。ですから、もし「これは机ですか?」にたいして「いす!」と答えたら一見判断しているように見えますが、実際は1つの物に1つついている名前を言っているだけなのです。その子供にとっては「これは何ですか?」も「これは机ですか?」も関係なく「いす!」と答えているだけだということです。実際に目の前にあるものとその名前、質問に出てきたものとその名前を頭の中で照合し同じ時は「はい」違う時は「いいえ」を選んで答えられるようになれば、行動面でも「A→Bは絶対」と言うパターン行動から脱することができます。少なくともA→Bにならないからといってパニックを起すことは激減するのです。「これは机ですか?」に対していきなり「いす!」と答えている子供の頭の中は  つくえ(刺激)→いす(反応)  という直接的な反応が起こっているだけなのですがそれに対して「いいえ、いすです」と答えている子供の頭の中では

 という思考を行っているのですから違いは歴然です。これが出来るようになるとパニックになる前に「待てる」子になっていくのです。

 

●ポイント

 いすを前にして「これは机ですか?」と聞かれた時に「机ではなくていすだ」と判断できるようになると問題行動は減る。


 


その45
 なぜ「はい」と「いいえ」が大切かをお話してきましたが、今回からは「どうすればできるようになるのか」について説明しましょう。はじめから「考えさせよう」などと思っては子供が気の毒です。一歩ずつ進みましょう。
 

(68)まず「はい」と答えることをパターニングしよう

 子供が動物の名前に詳しいとしましょう。ライオンの写真を見せて「これはライオンですか?」とたずねます。おそらく子供は「ライオン!」と答えることと思います。しかしそれはお母さんがなんとたずねたかに関係なく「ライオン!」ですから、これを言わせてしまっては一歩も進みません。お母さんは「これはライオンですか?」の問いを発したらすぐに(子供に「ライオン!」と言う間を与えずに)「はい!」と言ってください。このとき、「これはあなたが言うべき言葉です」と言う気持ちが伝わらなければなりません。よく伝える為には小さく手を上げ「はい!」というと有効です。なぜなら、障害児の多くは相手が(自分に向かって)手を上げる動作とともに「はい!」と言った時は自分も同じように「はい!」と手を上げて言うものだとインプットされているからです。行動のまとまらない難しい子供でもなぜか出欠を取る時には名前を呼ばれたら「はい!」と返事をするのはこのインプットが効いているからです。これを利用することで子供は概念の世界へジャンプアップすることができます。母:「これはライオンですか?(すぐに手を上げて)はい!」子供:「(手を上げて)はい!」このやりとりをライオン→トラ→シカ→キリン・・・というように、子供がよく知っている動物をあれこれ使ってパターニングしましょう。10種類できれば十分です。そして、少しずつお母さんの手を上げる動作を小さくし、しだいに消していきます。しかし、完全に消してしまったら子供は何でも「はい!」と答えるパターンが確立しすぎてしまいあとで苦労しますから、ほんの少しちらっと手を上げる動作を見せることを残しておきましょう。
 

(69)つぎは「いいえ」と答えることをパターニングしよう

 10種類の動物に対して「はい!」ができたら、次は「いいえ」です。これも最初はパターニングです。ライオンの写真を見せて「これは象ですか?」とたずねます。「はい」をやったあとですから、子供の中には「はい!」と言う子が多いはずです。これを言わせてしまってはいけません。「これは象ですか?」の問いを発したらすぐに(子供が「はい!」や「ライオン!」を言ったり混乱する前に)「いいえ!」と言ってください。「あなたが言うべき言葉ですよ」ということを伝えるために、今度は人差し指をたてて小さくふりながら「いいえ!」と言いましょう。なぜひとさし指かというとわれわれがよくやるように手首から上を振って否定を現そうとすると時間がかかってしまい、子供の超高速パターン反応に遅れてしまうからです。そして、いずれは消す動作ですから小さいものがよいのです。ただし、最初は子供にはっきりわかるように素早く人差し指を立ててしっかり動かして「いいえ!」と言いましょう。「はい!」に比べると少し大変ですが根気良く10種類の動物の中で「これはサルですか?(トラの写真をみせて)」「(すぐに人差し指のサインをしながら)いいえ!」を繰り返しましょう。子供がスムーズに「いいえ!」と答えるようになっても人差し指の動作をチラッと見せておくことは忘れないでください。ここまでできれば「判断」と言う大脳皮質前頭前野の領域に踏み込む為の「基礎のそのまた基礎の工事の道具がそろった」ことになります。

 

●ポイント

 問いを発したら即、動作とともに答え方を示しましょう。


 


その46
 「はい」と答えるパターン、「いいえ」と答えるパターンがそれぞれ確立したら、次はいよいよ判断学習にはいります。
 

(20)「はい」を3つ続けた後「いいえ」をやってみましょう

1日目は「はい」ばかり、2日目は「いいえ」ばかりやるくらいの慎重さがあるとうまくいきます。3日目にまずライオンの写真を見せて「これはライオンですか?」→「はい」。続いて馬の写真をみせて「これは馬ですか?」→「はい」。つづいてうさぎの写真を見せて「これはうさぎですか?」→「はい」。というように「はい」を続けます。ここでサルの写真を見せて「これはネコですか?」とたずねます。これで「いいえ」と正解してくれれば成功です。「はい」と答えてしまう場合は前の答えを考えることなくパターンとして言っているだけですからまだまだ判断の段階にはいないということです。この課題をやるうえで大切なことは@いきなり「はい」と「いいえ」をごちゃまぜに質問しないこと。Aダメな時はさっとあきらめてまたパターニングに戻ることです。この段階でのパターニングは「はい」を5回、「いいえ」を5回します。そして「はい」を3回続けたあと「いいえ」に挑戦します。それでもダメならその日はあきらめて翌日またやりましょう。療育で肝心なことは「必ずできると信じて取り組むこと」しかし「できない時には意地にならずに前の段階にもどる(この場合はパターニング)こと」です。
 「はい」と「いいえ」のパターニングができたあたりから、次の課題にもはいっていきましょう。同じ課題ばかりをやりつづけると脳はあまり働かなくなりますから、「発達の半歩先」を行く課題を与え続ける必要があるのです。
 

(71)動作文の絵カードを見て「〜しています。」

人が手を洗っている絵カード(ごはんを食べているカードもなんでもいいです)を見せて「何をしていますか?」とたずねてください。子供は@何も言わずに知らん顔をしているA「ごはん」と名詞だけ言うB「はい」と「いいえ」のパターンを引きずって「はい!」と言うのどれかの反応をするだろうと思います。その時お母さんは子供の言葉をさえぎり(出来れば子供が何か言う前に)「ごはんを食べています!」と言ってしまいましょう。「ごはんを食べています。」「歯を磨いています」「手を洗っています」この3つがもっともパターニングしやすいベスト3です。「はい」と「いいえ」この動作文の学習を並行して行いましょう。「はい」と「いいえ」の判断が出来るまでの間は「はい」と「いいえ」を重点に動作文は5〜6種類パターニングすれば十分です。ここまで来るとパターニングとはいえ絵を見てそしてお母さんの質問(最初は「ですか?」と「していますか?」の語尾だけしかきいていませんが)をきいて答え方を選択するだけでも1対1対応を脱していますから、課題そのものができなくても行動は落ち着いてきます。

 

●ポイント

 「はい」を5回、「いいえ」を5回パターニングしたあと「はい」の質問を3回、そして「いいえ」が出来れば成功です。

 「何をしていますか?」「・・・しています。」を5〜6種類できるようにしましょう。


 


その47
 少しずつ少しずつ判断の幅を広げていくことで行動は落ち着き、運動面でもそれまではできなかった動きが指示に応じてできるようになってきます。少しでも判断をするようになってからの運動療法(体育)的プログラムや動作面での訓練はとても効果があがります。しかし、あせりは禁物、「はい」と「いいえ」、「〜しています」をじっくりやっていきましょう。
 

(72)動作文で「はい」と「いいえ」にすすみましょう

「ご飯を食べています」「手を洗っています」「歯を磨いています」などがパターニング出来てスムーズに出るようになったら、次は動作文での「はい」と「いいえ」に進みます。「ご飯を食べています」の絵カードを見せて「ご飯を食べていますか?」と聞きます。ここでもオウム返しをされる前に「はい!」(手のサインつきで)と言ってしまいます。物の名前の時と同じように「はい!」ばかりをやり、スムーズに「はい!」と言うようになったら今度は「ご飯を食べています」の絵カードを見せて「手を洗っていますか?」とたずねます。ここで「はい!」と言われてしまう前に「いいえ!」(指のサインをつけて)と言ってしまってください。そしてひたすらパターニングです。動作文で最初にやったもの5〜6種類で徹底的に「はい」と「いいえ」をパターニングします。パターニングができたら質問通りの絵カードで3つ、「はい!」をひきだしたあと、質問とは違う絵カードを見せて「いいえ」が言えるかどうかをやってみます。できればOK、出来なかったらまたパターニングです。動作文での「はい」と「いいえ」の判断はまだ不十分でも、パターニングはできたという段階からは次の課題を入れていきます。次の課題を少し入れることによって脳の働きが広がりをもつようになり、それまでできなかったことが突如「始めからわかっていたかのように」スイスイできて来ることがあるのです。物の名前で「はい」と「いいえ」の判断が出来ないうちから動作文をパターニングしはじめることで急にできるようになることがあるのです。ですから、同じ課題を延々とやりつづけ「それに関しては超速でできる」ようになってしまってはいけないのです。常に「半歩先」の課題と取り組みましょう。
 

(73)「動物」と「乗り物」の仲間わけをしよう

船、飛行機、ヘリコプター、自転車、自動車とそれぞれの名前は言えてもそれらがみな「乗り物」だとわからない子供がたくさんいます。ライオン、トラ、ネコ、ネズミ、ヒツジ・・・と沢山名前を知っていてもそれらがみな「動物」だとわからない子供も沢山います。これもすべて「1対1対応」で概念がないから起こってくるのです。紙に大きなマルを二つ書き、ひとつには「ライオン」、ひとつには「自転車」の絵カードをおきましょう。そして子供に「トラ」の絵カードを渡します。子供がスムーズに「ライオン」のいるマルに「トラ」の絵カードを置いたら「そう、これは動物だね」と言葉をのせてほめます。もしダメな時は間違わせることなく手を誘導して「トラは動物だよ」と言いながら正しい場所に置かせます。これを繰り返していきます。次回詳しくお話ししましょう。

 

●ポイント

 一つの課題がパターニングまでいったら次の課題に入っていきます。

 ライオンもトラもネズミも「動物」、これが概念の入り口です。


 


その48
 

(74)「動物」と「乗り物」の仲間分けができたら「はい」、「いいえ」

動物、乗り物それぞれ5種類(ライオン、トラ、ネコ、イヌ、ウシと自動車、自転車、電車、飛行機、船というように)で十分です。前回お話したやり方で、たとえば「イヌ」を「ライオン」のいるマルに置いた時は「そうイヌは動物だね」、「電車」を「自転車」のあるマルに置いたら「そう、これは乗りものだね」と言葉をのせてほめます。「イヌ」を「自転車」のマルの方に置きかけたら置いてしまう前に誘導して「イヌは動物だよ」と言いながら正しい場所に置かせます。繰り返しているとだんだん正しく置けるようになります。これが「違ったものどうしの共通する性質を取り出してひとくくりにする」いわゆる「概念の」のめばえです。5種類間違わなくなれば「オウム」や「シマウマ」、「ロケット」や「オートバイ」など新しいものを加えても正解できるものです。こうなると次はこれをどんどん増やしてもよいのですが、さらに新たな脳のはたらきを引き出すことの方が大切です。これはやはり「はい」「いいえ」です。「ライオンは動物ですか?」―「はい」、「イヌは動物ですか?」―「はい」。例によって「はい」をパターニングできたら今度は「いいえ」です。「ライオンはのりものですか?」―「いいえ」「自転車は動物ですか」−「いいえ」しっかりパターニングしましょう。パターニングできたら今度は「はい」を3つそして「いいえ」を1つ。うまくいけばまた一つ子供の脳は働きが活性化したことになります。「はい」と「いいえ」が最重要課題ですが、余裕があれば「動物」と「食べ物」、「乗り物」と「植物」なども仲間わけしていくとよいでしょう。ただいきなり「野菜とくだもの」のような高度なことは避けてください。
 

(75)「〜です」「〜しています」まで答えさせていこう

ここくらいまで判断学習が進んできたらそろそろ「はい」「いいえ」の短い答えだけでなく、きちんと文で答えさせるようにしてみましょう。「これは馬ですか?−「はい、馬です」「これは象ですか?」−「いいえキリンです」「ご飯を食べていますか?」−「はい、ご飯をたべています。」「手を洗っていますか?」−「いいえ、くつをはいています」「ライオンは動物ですか?」−「はい動物です」「自転車は動物ですか?」−「いいえ乗り物です。」というように答えさせます。子供のこたえが「はい」、「いいえ」だけで終わったときは「馬です」とか「キリンです」をすかさず言ってください。これも「あなたが言うことばですよ」ということを伝える為に身振りを使うと効果的です。指先を相手に向け、手のひらを上にして差し出す(「どうぞ」と言う意味の格好です)とよく伝わりますし最初はなんでもパターニングですから、「はい」と「いいえ」の返答をしたあとそのしぐさを見れば「〜です」を言うのだ、というパターンが出来ればよいのです。きちんとした文で答えるようになると行動はさらに落ち着き「指示を聞いて行動する」「状況をよく見てそれに適応しようとする」姿勢が見られるようになります。

 

●ポイント

 仲間分けも「はい」と「いいえ」を練習しましょう。

  「〜です」「〜しています」まできちんと言うパターニングをしよう。


 


その49
 判断学習の大切さをお話してきましたがここでもう一度間違えやすいことを整理しておきましょう。
 

(76)「できることが増える」のと「わかることが増える」ことは違う

「身辺自立ができ作業がよくでき、計算問題が得意で漢字をよく知っている」ことと「判断ができる」ことは別です。少々難しい作業も「こんな風にしなさい」と見本を見せてあげれば自分でどんどんやれるようになり、計算が得意で人が言う文章を書かせればかなり難しい漢字も混ぜて見事に書く、という自閉傾向の人が子供にも大人にもたくさんいます。一般の人はそういう彼らを見て「これだけのことができる⇔これだけのことがわかる」と考えてしまいます。そうではありません。「わからなくてもできてしまう」これが自閉傾向の人を理解できない原因の1つです。それは「1対1対応」ですべてのことをこなしていくからです。作業でいうと、たとえば「ジャガイモの皮むき」を習得したとしましょう。自閉傾向の彼は、教えられた通りに「@ジャガイモを洗い、A皮をむきB指示された大きさに切る」作業を山のようにこなすことができます。しかし、@−Cの一連の流れなら誰にも負けないスピードと技術を身につけた彼が「ジャガイモを洗ってきて」と言われて(ジャガイモは目の前にない)、どうしてよいかわからなかったり、ジャガイモのところまで行けても洗うだけで終われずに全部むいてしまったり、「ちょっと小さめに切って」といわれてもわからなかったりするのです。これは@→A、A→B、B→@というパターンの連鎖にすぎないからです。また、「いもをむきました」と書くように指示されたら「芋を剥きました」と漢字に直して書けるほどの人が「何をしましたか?」と聞かれて「いもをむきました」とはまったく答えられなかったりするのです。これは@→Bで「イモをむいている」と意識できず@→A、A→B、B→@と寸断されていることと、「行動を言葉にして意識できない」為です。だから目の前のジャガイモがあればそれをむくことは出来ても、「ジャガイモ」と言う言葉を聞いてその視覚記憶を呼び起こすことはできません。したがって自分の行動を言葉にする、ということは全くできないのです。計算が得意な人も同じです。5+4=9で+を見れば6から始めて「6,7,8,9」と4回指を折ってかぞえるというパターンが(@+を見るA4を見て4回指を折る)ができているだけで「たし算をしている」意識はないのです。また、視覚の強い人は少々の大きい数の掛け算くらいは「始めから知っている」と言う人もいます。何年先のカレンダーまでわかっているのと同じで、掛け算に必要なの手続きが一瞬に出来てしまうのです。しかし、2×3=6が○○のかたまりが3つあって○は6個とは全然わかっていないのです。判断学習以前にやってきたマッチング、模写、聞き取り、聞き書き、などは「人に合わせる」「指示を理解して行動する」「人とやりとりする」ことを学ぶ初歩として大変重要なものですが、あくまでも「1対1対応」ですから、そこにとどまっていてはいくら熟練してはやくできるようになっても判断できるようにはならないのです。作業も同様でいろんなことができるようになる事は大切ですがパターンの連鎖をいくら太く強くしても「考える力」は育ちません。「できることをふやす」ことにのみとらわれず、「考える力」を育てましょう。そのためには何よりもまず「はい」、「いいえ」です。

 

 


その50
 「はい」と「いいえ」ができる、ということは判断⇒思考ができることだ、とお話してきました。少しずつ、少しずつ判断力と思考力を伸ばしていきましょう。そうすることによって、今まで子供が繰り返してきた「理解に苦しむ行動」や、「そばにいるものにとって非常に負担となるこだわり」が減ってゆきます。物の名前、動作文、「乗り物」と「動物」の仲間わけ、で「はい」「いいえ」に取り組んできました。次のステップ、つまり「半歩先」の課題は「実際の行動を言語化し意識させること」です。
 

(77)実際の行動で「今、何をしていますか?」

動作文の絵カードで「何をしていますか?」の質問をされて「〜しています」と答えられる子供でも今、自分がやっている行動について「何をしていますか?」という問いに応答できるとは限りません。自分の体、動きは絵カードを見るように見えないからです。もし、子供がご飯を食べている時に「いま、何をしていますか?」と聞かれて「ご飯をたべています」と答えられるようなら何の心配もいりません、その子供は順調に神経ネットワークが広がりつつあり、おそらく判断⇒思考⇒概念の世界への階段をまっしぐらに駆けあがっていくでしょう。そうでない場合、つまりキョトンとしていたり、そのまま「何をしていますか?」とオウム返ししてきたり、いらいらしたりしてしまう子供の場合は慎重にステップをふみましょう。絵カードならなぜ答えられるか、というと、注視する対象があるからであり、もうひとつは絵のある部分を弁別刺激として使っていて、その部分を見たら「〜しています」が連鎖としてでてくるから、とも考えられます。自閉症の子供の場合、同じ課題を延々とやりつづけると、最初身につけたときは一生懸命判断していたものがだんだんと「ある部分の発見」⇒「応答」の連鎖が強く結びつくようになり、超速で答えられるけれども、大脳皮質を使わずに反射レベルで答えてしまうことになりやすいですから注意しましょう。絵カードでできるようになったら早くそれを卒業して実際の人間の動きに進まなければならないのはそのためです。まず、お母さんがご飯を食べている時に「今、お母さんは何をしていますか?」と聞きましょう。そして「ご飯を食べています」と子供が答えてくれればそれでよいし、だめな場合は即、「ご飯を食べています!」を言わせましょう。その方法は「その46」でお話した通りです。できれば絵カードを習得した文と同じ動作で練習しましょう。「ご飯を食べています」「手を洗っています」「歯を磨いています」がベスト3です。直接対面しているお母さんの動作で「〜しています」が言えるようになったら、次は家族の誰でもいいのですが、たとえばご飯を食べているお父さんを指さして「お父さんは何をしていますか?」に答えてもらいます。これができるようになればまた一気に子供の脳はクリヤーになって行動がまとまってきます。ただし、気をつけていただきたいことが1つあります。この段階で「お父さんは〜しています」のように主語を言わせようとしないことが大切です。対象の動きを言語化することが目的ですから、それ以上のことを要求して混乱させてはいけません。(もちろん、子供が自分で主語を言えればそれはすばらしいことです。この段階では言えなくてもOKということです。)

 

●ポイント

 お母さんの動作から他の人の動作に進みましょう。ただし主語はいえなくてOKです。


 

くれよん方式51〜60へ