く方式 その31〜その40

その31
 

(45)数字と●を一致させよう

 の数字カード並べが出来たら、と言うように数字カードと●カードをマッチングします。まずのカードを置き、その下にお母さんがを置く見本を示しましょう。子供がそれをしっかり見たところでを手渡します。の下に置くことが出来れば成功です。そしてを加え、渡す順番、置く位置をかえても正しく置けたらを加える、と言うように増やしていきます。の数字カードと●カードをマッチングできるようになったら、「数をかぞえる」土台のそのまた基礎が出来たと考えてください。

(46)数字のかずだけ○を書こう

 次にやることは、 のように、左端にかかれた数字をみてその数だけ○を書くことです。最初にお母さんがしっかり手本を見せて理解させましょう。「これくらいわかるだろう」と思っていきなりやらせると上の例でいくと○を書くべきところに「2」と書いたり、お母さんが「1,2」と声を出しながら○を書いたにもかかわらず数字で「1」,「2」と書いてしまったり、いろいろな間違いがでてきます。まず、「2」の数字をしっかり見せ(発語のある子には「2」と言わせ)その後子供の手をもって「1」の声とともに○を書かせましょう。何度も繰り返した後、手をもたずに○を書かせてみましょう。「2」の数字を見て確実に○を2個書くようになったら、「3」に進みます。「3」の数字を見て確実に○を3個書くようになったら、また「2」に戻ってみます。このとき間違わなかったら「数字のかずだけ○を書く」ことが理解できた、と考えてよいのです。もし「2」をみても○を3個書いたりしたときはまた「2」に戻ってやり直しましょう(○を2つだけ書く)。

(47)ひらがな書字を始めよう@

  ひらがな模写はかなり出来てきたでしょうか?ひらがな同士の線つなぎは順調でしょうか?模写から書字(写すのではなく、自分で字を書く)へ進むために「」の形の模写が出来るようにしておきましょう。「」ができると「 」「 」「   」( 「 」でもOKにします。)「 」「 」( 「 」でもOKにします)ができます。では、いよいよ書字にはいりましょう。「いす」の絵カードの下に「いす」の文字カードを置き、その下に白い紙を置き、「いす」と書かせます。白い紙に「いす」と書くことが伝わらなければ、まずお母さんが「いす」(縦書きしてください)を書いてみせます。そしてまた白い紙を置いて「いす」と書かせます。「い」「す」と言いながら書く場所を指で指し示してもけっこうです。書けたら指し示すことはやめます。そして文字カードを取り除き絵カードと白紙を置いて「いす」を書きなさいと指示します。書ければOK、書けなければ文字カードを示して模写させ、再び試みます。1日1枚できれば言うことなしですが、決してあせらず、時間がかかりそうなときはきっちり模写させて終わり、翌日またやってみてください。

 

●ポイント

・お母さんと向かい合って学習することで、子供は(1)人に合わせること(2)人とやり取りをすること(3)人の言うことを理解しようとすること(4)物事にはルールがあること(5)達成した時の喜び(6)出来なかった時のくやしさ・・・などを最短距離で学べるのです。日常生活の経験から学ぶことや遊びの中で学ぶことの土台は机上学習なのです。

 


その32
 日々のトレーニング、学習はまさに「山あり谷あり」なかなか順調に進まず、子供達も際立って変化したようにも見えず、焦っておられるお母さんもおられることと思います。「山あり谷ありどころか、「深い谷底からいっこうに上がっていく気配も見えない」と感じることも多々あるのではないでしょうか。どんな気持ちで子供に接しトレーニングをしていけばよいのかを考えてみましょう。
 

(48)「10分の1は大成功」

 知的障害児の療育が健常者の教育やスポーツ指導と決定的に違うのは何でしょうか?それは「われわれがいつそれを学んだのかどうやって身につけたのかわからないことを教えなければならない」ことです。自分たちはどうやって歩いたのか、どうやってしゃべるようになったのか、どうやって字を書くようになったのか、どうやって足し算や引き算を(くり下がり、くり上がりまでも)するようになったのか、誰か覚えていますか?「気がついたら既に出来ていて、」「出来ていることを前提として人生を送ってきた」のではないでしょうか?かなり知的に高いと思われる障害児でも彼らは彼らなりに「なぜそんなことがわからないのか」「なぜそんなふうに感じるのか」が我々にはわからないというところで悩んでいるのです。それが「脳の障害」なのです。「簡単な課題だ」とか「幼稚な内容だ」とか健常者の頭で考えてはいけません。「こんな簡単なこと」と思わず、「また失敗して・・・」と思うことなく、「まず目が使えるか」「耳を使っているか」「判断してから手が動いているか」「どういう刺激に反応しているか」を見きわめることに集中しましょう。どんな課題も、「1回でも出来れば大成功」です。1回模写できても、次には失敗することも多いと思います。わからないのではなく、他の刺激に左右されたり、体が勝手に余計な動きをしたり力が入ってしまったり、いろいろな理由で失敗します。しかし「出来たことは確実に1つの能力として身についた」のです。10回に1回だったものが5回に1回になり3回に1回になっていきます。ここで、少しでも多く少しでも早く成功させようと焦らないことです。聞き取りの時などついつい取ってほしいものを指し示さんばかりの手の出し方をして「・・・ちょうだい!」とやってしまうと子供はいつまでたっても耳を使わずお母さんの手の位置だけを見ていたりするものです。そうなると台無しです。少し焦ってしまうお母さんはここで「子供がどれだけのことを身につけたか」だけをゆっくりと考えてみてください。お母さんの努力はむろんのことですが子供がどれだけがんばったかということにも思いが及ぶのではないでしょうか?「1回でも出来たことは絶対にできる」のです。偶然ではありません。

(49)ひらがな書字をはじめようA

 「いす」の絵カードを見て、お母さんの声を聞いて書ければ「て」(他のものでもかまいません)を書かせます。「て」が書けた後、また「いす」に戻して「いす」と書ければ大成功です。パターンにはまってしまって「いす」の絵カードを見、声を聞いても直前に書いた「て」を書くようでは書字が出来たことにはなりません。絵カードと声で正しく書き分けられる枚数を1枚1枚増やしていきましょう。

 

●ポイント

 「1回出来たらOK」です。続けて出来なくても焦る必要はありません。

 絵(視覚)とお母さんの声(聴覚)で書き分けられる枚数を増やしていきましょう。

 


その33
 体を正しく動かせるようになる為に「静止」「ずりばい」「歩行」などの基礎トレーニングを積んでいるのですが、今回は「体の動きのコントロール」に「注視の持続」「模倣」を加えたトレーニングについてお話しましょう。
 

(50)タンバリンのリズム打ちに取り組もう

 障害のある子が学芸会などでステージに立ち、打楽器を手にしている場面をよく目にします。多くの場合先生に手を持たれ「たたかせてもらっている」か、リズムに全く関係なくたたいたり振ったりしているか、あるいは楽器をいじくっているだけ、ということになるようです。障害児は体の各部が分化せず、連動してしまいがちですから、最初は正しいリズムで打ててもだんだん早くなり、一拍休むところが休めなくなって「タタタタ…」と小刻みに打ってしまったり、一定のリズムで打てたとしても、「一つ打って長く休む」とか「一つ打って一つ休み、次は二つ続けて打つ」などの動きが出来ずに結局やめてしまうなどなかなかきちんとできません。タンバリンを片手に持たせ、「気をつけ」をさせます。「用意」でタンバリンを体の前にかまえさせます。そして「タン、ウン(休み)、タン、ウン(休み)」のゆっくりとした規則的なリズム打ちを覚えさせましょう。体操の深呼吸の模倣が出来ている子なら、お母さんもタンバリンを持って実際に手本動作をして模倣させましょう。2回続けて打てたら成功です。それ以上はつづけません。打てたり打てなかったりして延々と続けていると子供は何を要求されているかわからず、進歩しません。「タン、ウン、タン、ウン」が定着したら「タン、ウン、タン、ウン、タン、ウン」と3回打つことを目標にし、出来たらそれで終りにします。そうやって打つ回数をふやし、20回打てれば大成功です。その間、子供は注視し続け、体の勝手な動きを「打つことに集中する」ことで自分で止めることが出来ているのです。こうなれば後は何を模倣させても、子供はしっかりとそれに取り組むようになります。勝手気ままに動いている時だけでなく、歩行中も学習中も子供達はしょっちゅう意識レベルが下がっていますが、歩行や学習だと、その時その時の声かけや手の引きなので立て直すことが出来るのであまり目立ちません。しかし、リズム打ちは意識レベルが下がったとたんに出来なくなりますから一目瞭然です。20回、一定のリズムで正しく打ち続けることが出来るようになったら学習中のとぎれも目に見えて少なくなります。こうなれば「タン、タン、ウン」や「タン、タン、タン、ウン」などにも挑戦しましょう。体操の深呼吸動作の模倣が出来ていない子の場合はまだ手本動作に反応できませんから、「タン、ウン」の声をかけながら手をもって打たせ、リズムを体に教え込むようにしましょう。

(51)数字を書かせよう

 ひらがなの書字が数枚出来たら、数字も書き始めましょう。1〜10まで模写させましょう。 カード並べや丸書きで数字にすでに親しんでいますから、そんなに難しくはありません。1〜10が終われば11〜20を書かせますが、機械的に連続して書くよりも、お母さんの言った数字を書ける、つまり「聞き書き」のほうが大切ですから、一応20まで書くようになったら「8を書きなさい」「11を書きなさい」というほうに力を入れましょう。1〜20でそういうことが確実に身につけば、あとで大きな数を覚えるのも簡単です。

 

●ポイント

・リズム打ちは「2回」「3回」「4回」というように回数を正確に決めて行ってください。

・数字の聞き書きを出来るようにしましょう。

 


その34
 くれよんでは体の力を抜く為に「腕立て静止」や「うつぶせ」に力を入れています。それらがある程度定着してきたら「鉄棒のぶら下がり」に挑戦しましょう。「腕立て静止」や「うつぶせ」、「まぐろ」などは途中で力が入って体が動いてしまっても継続できますが「ぶら下がり」は余分なところに力が入った瞬間に終りですし、力が入った状態ではぶら下がること自体が不可能になります。少しずつやっていきましょう。
 

(52)余分な力を抜き、必要な力を出し続けることを覚えるのに「ぶら下がり」をやろう

 自分で高い鉄棒に飛びついてくれればそれでよいのですが、それができないとき、小さい子供の場合はお母さんが抱えあげて、大きな子供の場合は台を用意して鉄棒につかまらせます。 この時点で「つかまろうとしない」場合、つかまらせる努力を延々とつづけるよりも、「腕立て静止」「うつぶせ」をもっともっと長時間安定してできるほうに力をそそぎましょう。 まったくグニャグニャの状態でつかまろうとしない場合でも、強い緊張が入って抵抗する場合でも同じです。上手くつかまることができたら10秒を目標に維持させましょう。 2秒出来たら3秒を目標というようにスモールステップを踏みながら10秒をめざします。このとき子供はグッと鉄棒を握り、重力という強い負荷に耐えています。ただ鉄棒に触っているだけでは重力の負荷がかかったとたん、たちまち落ちてしまいます。しっかり鉄棒を持ち重力の負荷に耐えられるのは「握り締める力を充分にだして」「それ以外の部分の力がぬけて」いるからです。 そして「落ちないようにがんばる」と言う意志をもっているからです。耐えれば耐えるだけ大脳皮質前頭前野がはたらくのです。ただし、「1、2、3・・・10」のようにカウントしてはいけません。カウントの声とぶら下がり運動がセットパターンになってしまい頭を使わなくなりますし自分で大急ぎで「1、2・・・10」と早口で言って終わることにもなりやすく、かえってパターン行動を助長することにもなりかねません。お母さんの「はい終わり」と言う声を待って辛抱することが、脳のトレーニングになります。また、ぶら下がりながら脚を大きく動かすことがありますが、これは体に力が入っている証拠ですから、それ以上続ける意味はありません。もともとの筋力が強い子供は脚を大きく動かしていてもぶら下がっていられますが、これは「腕立て静止」であちこち動く状態と同じですからこの子供が正しくぶらさがれたのは脚が動き出す直前までと考えてください。

 

●ポイント

・「ブラーンとただぶら下がっている」時、子供の脳は大脳皮質前頭前野がしっかりと働いてとてもいい状態です。1秒でも長くできるようにがんばりましょう。


 


その35
 今回は「パニック」とは何か、お話しましょう。
 

(53)「パニック」は発作である

  パニックという言葉をしっかり定義しましょう。健常者の世界でよく言う「頭の中が真っ白になってパニック状態」とか「災害が起こってパニックになった」というのとは違う、というは明らかです。まず、「これはパニックだ」という特徴をあげてみます。@止めようとすると猛烈に抵抗する。A全身にすさまじい力がはいっており、近くにいる人、もの、自分の体などに打撃を与える。Bその力は常人では計り知れない強さで、パニックそのものが終わるまで延々と最大の力を出し続ける。Cいったん始まったらどんな説得も通じず周囲に関係なくその子のリズムで自然に終わる。D終わった後猛烈に抵抗していた相手に対して何もなかったかのようにケロッとして接する。代表的な5つの特徴をあげましたが、さわった感じでいうと「肩から首に恐ろしいほどの力が入っている」「親指の付け根にすさまじい力が入って親指が中に向かって曲がっておりこちらが手を握ろうとしてもにぎれない」のも良くわかる特徴です。また上半身にものすごい緊張が入っているのに伴ってその子その子に特有の「絶叫」が続くことが多く、親としては非常に辛い思いをします。脳が異常に興奮しますから「大泣き」になることも多く、これも親を苦しめます。こういった特徴をそろえていたら、これは「パニックという名の発作」と考えて感情を消してクールに対応しましょう。人間が見たもの、聞いた音、触った感触、これらすべての刺激は電気信号に変わって神経を伝わっていきます。したがって人間の神経細胞の中は電流が流れているのです。これが「放電を起こす」と考えてください。全ての刺激はそれぞれ固有の電気信号に変えられるのですが、たとえば、ある子の場合は「サイレンの音」という電気信号がうまく伝わらず放電する。ある子の場合は「3匹の子豚のほっぺの曲線」の電流が上手く流れない、などがパニックになるのです。パニック時の爆発的な力の大きさは脳の中で電気的異常が起こってコントロール出来ない状態だからであり、周囲に関係なく延々と続くのは電気的な異常が終息しない限りパニックは終わらないからです。そして、一番多いパニックが「パターンが崩れて不快を感じた時に始まる」ものですが、これはきっかけは「不快」であっても、その「不快」を伝達する神経回路の中で放電が起こり大暴れになるのです。これが「わがままによるぐずり」と決定的に違うのは、不快の原因を取り除いてやっても(たとえばこだわっているものを取り上げてパニックになった場合それをもう一度持たせてやっても)おさまらないことです。「発作」ですからしかたがありません。このパニックは脳の神経回路の編成がうまくいかず原始反射や原始運動を色濃く残している自閉症児に多いのですが「どう対処するか」「どうやってなくすのか」を少しずつお話していきましょう。

 

●ポイント

・パニックは「発作」であり、暴れたくてあばれているのではありません。

・上記の特徴がない「かんしゃく」「ぐずり」(ダウン症児が脱力してすわりこむなど)は発作ではありませんから、情緒面の対策が必要になります。


 


その36
 パニックの起こるメカニズムについて前回お話しました。今回は「どう対処するか」についてお話しましょう。
 

(54)起こってしまったら積極的に我慢しよう

  パニックは発作ですから、起きてしまったものをすぐにおさめる方法はありません。ただ、今後そのパニックがおきにくくなるように対処する方法はあります。パニックは脳内で放電が起こり、体が無秩序にまさに発作的な力で動きますから本人もそこら辺りのものに当たったり投げたり握り締めたりとにかく大変です。その間、親は地獄の責め苦を受けているような気分になります。大暴れだけではなく腹の底から力の入った「絶叫」やエコラリアの言葉をとてつもない声で口走り続けたり、1分が10分にも感じられる長い時間ひたすら耐えなければなりません。しかし、ただ耐えるのではなく、次につながる耐え方をすることが大切です。

@ 他傷、自傷、壊的行動はできるだけ止める
 お母さん自身、体にものすごい緊張が入り勝手に大声が出、すごい勢いで体が動いてしまって自分では止められない状況を想像してみてください。そこら中にあるものに体をぶつけたり放り投げたり人がいればつかみかかって握り締めずにはおれないと想像できるでしょう。子供達自身も地獄の苦しみを味わっているのです。その引き金の多くの場合「パターンが崩れたことによる不快」であるため、一見「わがままを通すための大暴れ」に見えてしまうところが彼らの不幸であり、親にとっても辛いところなのです。とにかく止めてあげましょう。何も考えず、手や足の爆発的な力をそのまま受け止めて子供の体から力が抜けるまで耐え切れればつぎのパニックまでの周期は長くなり、起こってもだんだん弱いものになってゆきます。しかし、「止めきるなんてどう考えても不可能」と思われるお母さんも多いはずです。

A とりあえず歩行する
  とめきれないときはその場所から連れ出してとにかく「手つなぎ歩行」です。体を折り曲げて座り込み、絶叫も続くかもしれませんが、子供は「歩行に対する抵抗」で手一杯になり、物を壊したり、人(自分も含めて)を傷つけたりすることは少なくなります。物を壊す、人に何かするといったことはパターン化しやすいのでなんとしても避けなければなりませんから「止めきれないなら、あっさり歩行が」よいのです。ただ、歩行の場合は「発作的な力」を受け止めてくれるものではありませんから落ち着くまでに時間がかかり、次のパニックまでの間隔を伸ばす効果もあまり期待できず、また同じ強さの強烈なパニックが頻発する可能性は高いと思わなければなりません。「場面を変える」ことによって「パニックそのものをなくす」ことは出来ません。しかし、「なすがままで終わるのを待つ」よりははるかに治療効果はあります。(なすがままでいるとパニックのパターンが強化されパニックの程度、回数はどんどん増大します。) 次回は「どうすれば無くしていけるか」についてお話しましょう。

 

●ポイント

 押さえ切れればベストですが、だめなときは歩行しましょう。


 


その37
 「パニックが起こったときどうするか」について前回お話しましたが、パニックは「発作」ですから、できるだけ少ないにこしたことはありません。パニックを起こさずに過ごす時間が長ければ長いほど行動は落ち着くのです。「どうすればパニックを回避できるのか」についてお話しましょう。
 

(55)まず受容しよう。しかし受容し放題ではパニック魔王になるばかり

  「受容」と言う言葉が大流行し聖句のようにまでなった時期があります。いまでも聖書の言葉のようにありがたがられているのかもしれません。くれよん方式でも受容はします。しかし、くれよん方式における「受容」は「行動観察」の意味であり、「子供が何にこだわりを見せるのか」「どんな常同行動が頻発するのか」「もっとも強い反射が現れるのはどこか」「概念レベルはどのくらいか」をみきわめる為に「受容」するのです。ですから、長くても1時間程度で十分です。上記のチェックポイントの見極めがついたら、早速療育の開始です。困る行動は次々つぶさなければなりません。もちろん、こちらの療育にその場で乗ってくれるようならば「受容」など一切必要ありません。「なれるのを待つ」とか「信頼関係を作る」とか言っているうちに「何をしても良い」「何も従う必要はない」パターンが出来てしまうのです。出会い頭に、そして1回目が終わる時には「指示に従う」パターンを作ってしまうのが療育のポイントです。そのパターンを作ってしまえば、あとはスモールステップで厳しい中にも和気あいあいとした雰囲気で楽しくやっていくことが出来るのです。ただし、これは「療育者」の立場で言えることであって「ずっと一緒にいて」「既に悪いパターンができてしまっている」場合が多いお母さんはどうしたらよいのか、ということが大問題です。しかし、お母さんの場合もやることは同じです。いちから関係を作り直しましょう。 くれよん方式1〜34で述べたことと同じことなのですが、「パニック」に焦点をしぼって書いていきます。まず、受容(=行動観察)してください。 (56)パニックが起こった状況、とくに直前の刺激がなんであったかをつかむ。 パニックの原因となる刺激はその直前にあります。時間的には(長くても)その数秒前、状況としてはその時本人を取り巻いている状況(人も物も含めて)が原因刺激です。簡単に言えば一番最後にかかわった人の言葉や働きかけが原因、と考えればよいのです。(もちろん、特定の視覚映像や音、という場合もあるのですが、これは説明するまでもないでしょう)多くの場合、人というものは「自分のせい」とは思いたくないものですから、100人いれば100人とも目の前で起こったパニックの原因を少しでも自分から遠いところに見つけようとします。「前の時間頑張った反動」から始まって「震災の時を思い出して」とか「今日は暑いから」、最後には「自分のことが好きだから」と無理やり自分のところに帰ってくるに至るまでありとあらゆる「理由付け」が行われることになるのです。しかし「子供をよくしなければならない」お母さんはそんなのん気なことに付き合っている暇はありません。クールに状況を分析しましょう。そして、もしお母さん自身の接し方が原因とわかったら、次回から接し方を変えればパニックを避けられる、という良い結論が得られます。

 

●ポイント

まず観察しましょう。

直前の刺激が何なのか把握しましょう。


 


その38
 パニックを回避するために、「まず行動特徴を観察する」ことが大切だ、とお話しました。さまざまなこだわりやパターン行動、自己刺激行動に埋め尽くされていることがわかると思います。これらの行動は無意識に近いものですから、止められると反射的に反発が起こり、延々と続く「発作」、いわゆる「パニック」へと発展します。これらの行動に対して意識レベルを上げる働きかけをしてスモールステップで少しずつ介入、制止していくのが最も大切なトレーニングです。このトレーニングによって反発反射がおきにくくなり、よく指示に従えるようになるのですが、不用意にやると反発反射そのものが強くなりより一層パニックが頻発するようになりますから慎重に行う必要があります。まず土台をつくりましょう。
 

(57)「指示がきけるようになる」土台作りは手つなぎトレーニング

  くれよん方式その6で手つなぎの大切さをお話しましたが、あのときは「手つなぎ歩行」について説明しました。今回は自閉傾向の強い子供に対して「すべてに優先する課題」としての手つなぎについてお話します。自閉傾向の子供の場合、新生児→乳児→幼児と成長するうちに消えていくはずの原始反射が消えずに残ります。すべての根本原因はこれなのです。さまざまな反射が困った行動をひきおこすのですが、どの子供も「手」がキーポイントです。手の動きを止めることが最重要課題です。すべての問題行動は「本人の意志とは無関係にものすごい力で(つまり反射で)動く手指によって引っ張り出されると考えましょう。5本の指の中でも特に親指の付け根です。健常者ならば何か目的を持って使う時だけ必要な分だけ力を入れる親指、その親指が自閉傾向の子供にとっては何秒かおきに強烈な力が入り奇妙な手の動きを示すのです。何秒かおきにものすごい力が入って動く(80%は内側に曲げ20%は外側に力が入ります。)のですから親指の付け根を押さえられると実に強い力で、しかも柔術の心得があるかのように上手く手首を返して抜き取ります。歩行の時だけでなく何でもない時に両手の親指の付け根をおさえるように手をつないであげることが自閉傾向の療育の最も大切なトレーニングなのです。「歩行の時には手をつなぐパターンが確立している」からといって安心はできません。2時間の山登りの間、大人しく手をつながれていた子供が部屋でなにげなく手をつないだら数秒でアウト、ということがよくあるのです。これはまさに「歩行⇒手をつなぐ」パターンにすぎないからです。不快刺激が脳内で放電を引き起こすとパニックになるわけですから、大暴れされないうちに手を離し、短い手つなぎを頻繁に繰り返しながら時間を伸ばしていきましょう。子供の中には「右手は絶対に手を離させようと抵抗するが、左手は案外平気だ。」というように、片手の反射が圧倒的に強い子も多くいます。その時は強い方に手を重点的につなぎます。どちらかの手の方が著しく強い子の方がトレーニングの効果は短時間に出てきます。両手それも親指の付け根を中心に拘束されて長い間平気でいられるようになれば、パニックは目に見えて減少します。特に自傷、他傷、器物損壊などの爆発的な動きはほぼ消滅します。

 

●ポイント

 歩行の時だけでなく、ふだんから出来るだけ手を握りこんで動きをとめましょう。

 歩行の時、同じ方の手ばかりつないでいないか確認しましょう。同じ方の手ばかりつないでいるともう片方の手に強く反射が出ることがあります。


 


その39
 手の動きを止めることの大切さ、それも親指の付け根に入る力を受け止めることの大切さを前回お話しました。なかなか素直に手をつながせてくれないと思いますが、手をつなげるようになったその先には「平穏な生活」が待っているのです。がんばりましょう。
 

(58)手(親指の付け根)のさらに根源にあるのは「肩」(首の付け根)

 さまざまな困った行動を引っ張り出す手(親指の付け根)、その手の動きを起こさせる根本は「肩」(首の後ろの付け根)にはいる猛烈な筋緊張です。ためしに今、子供の肩をギュッと押さえてみてください。肩をすくめて嫌がるか、笑い出して体を折り曲げるか、声をあげて抵抗するか、とにかく反応するはずです。もちろんここは敏感な部位ですから我々でも首の後ろをギュッとつかまれると首をすくめてしまいますが、しばらくすると慣れてしまって平気になるものです。ところが障害児特に自閉傾向の子供はずーっと抵抗します。慣れるということがありません。手つなぎを嫌がる強さに比例して首の後ろを押さえられるのを嫌がります。問題が一番目立ってあらわれるのが手であり、その根本が首の後ろということです。手つなぎと同じように折にふれて首の後ろ側を押さえてあげましょう。右手が強い子は首の付け根の右側、左手が強い子は首の付け根の左側を強く押さえます。そして強烈なパニックが起きたときは一人が左手、一人が右手、一人が首の付け根の背中側を後ろから、というように3人で押さえると早く収まり、暴れ方も軽減できます。また、姿勢保持トレーニングや学習、作業などの場面で拒否が強い場合も手の動きを止める、肩を強く押さえることで力が抜け、課題に向かわせることができます。ただ、肩は(首の付け根)は手(親指の付け根)以上の急所ですから無理に押さえすぎるとパニックを誘発したり、パニックまでいかなくてもパンチやひじ打ち、蹴りなどがくる場合がありますので注意しましょう。 次に障害児を育てるうえで「歩けるようになるか」と並んで非常に重要視される「言葉」の問題について考えてみましょう。

 (59)「話せる」とはどういうことか

  「この子は言葉がない」、「あの子は言葉がある」、「最近言葉がでるようになった」など「言葉」についてはいろいろ言われます。でも「言葉がある」=「話せる」と言えるのか、「話せる」とはどういうことを意味するのか、まず考える必要があります。治療教育の考え方からいくと、次のようになります。

「話せる」とは

@言葉で自分の思いを伝えることが出来る。
A相手の話した言葉で相手の思いを理解することができる。
B言葉で考えてから行動することができる。

 したがって「しゃべれない」人でも「身振り」や「サイン」で@〜Bの役割を果たすものを身につけていれば「話せる」ということになります。逆にいくらしゃべれても@〜Bの役割を果たさない言葉は「音声」に過ぎないということです。コミュニケーションがとれて始めて「言葉がある」と言えるのであり、次回からはそのことについて考えていきましょう。

 

●ポイント

手の動きの根本は「肩」(首の付け根の背中側)にある。

「声を出してしゃべれる」=「言葉がある」ではありません。「コミュニケーションが出来る」=「言葉がある」ということです。

 

 


その40
 「言葉を使える(話せる)=@自分の思いを伝えることができる。A相手の言葉を理解することが出来る。B言葉で考えてから行動できる」であると前回お話しました。今回はまず「言葉を理解する」ためのトレーニングから始めましょう。
 

(60)「ホイッスル言語」になっていないかチェックしよう

  言語理解(聞いてわかる)と表出(話す)とは別の回路ですから、発語がないからと言って言葉がわからないとは限りません。理解さえ出来ていれば発語トレーニングにすごく時間がかかる子供でも、その間、マカトン法などサイン言語で代用することもできるのです。また、相手の言葉とその意味がマッチングさえすれば、わざわざサイン言語を覚えなくても、「なんとなく」コミュニケーションがとれるようになっていくものです。しかし、「指示したことが出来たからといって言葉(音声)とその意味がマッチングしているとは言い切れない」ことを忘れてはなりません。自閉傾向の強い子供は視覚優位ですから、音声に関係なく「目で状況を判断する」能力に長けています。ですから、玄関に行けば「靴をはく行動」、水道のあるところへ行けば「手を洗う行動」、トイレの前に行けば「小便をする行動」がマッチングします。そして家庭生活でも学校生活でも1度行った行動は視覚と運動パターンで強くインプットされ大きな変更がなければなんとなくスムーズに生活できるようになるのです。そして周囲の人は「この子はよくわかっている」と思うのですが、次のようなことが往々にして起こります。

○玄関で「手を洗いなさい」と言われると立ち往生する、または靴をはいてしまう
○水のみ場で「靴をはきなさい」と言われると立ち往生する、または水を飲んでしまう。
○登校時に自分のカバンを机の横にかけ、帰る時にはそこからカバンを取って帰るが教室の中で他の子のカバンといっしょに置いてあると自分のものがわからない。

など、視覚と運動パターンで行動し、そこに「言葉」が介在していないことがよくあるのです。一度試してみましょう。上のような例になるのを「ホイッスル言語」といいます。言語が「用意!ピッ」というスタートの合図でしかないと言う意味です。玄関で靴をはく前に「手を洗っておいで」と言ったときに洗面所へ行って手を洗ってこられれば第一段階クリアです。もし子供が「ホイッスル言語」の段階にいる場合は、計画的段階的に音声と行動、音声と物の名前をマッチングさせていかないといつまでたっても視覚と運動に頼ってしまいパターン化して変更がきかなくなります。(パターン化した行動はどんどん正確迅速になりますが) 次回は「ホイッスル言語の段階にいる自閉傾向の子供がどのようにしてそれを乗り越えるか」についてお話ししましょう。

 

●ポイント

・玄関で「手を洗いなさい」と言われて洗面所へ移動して手を洗って来られる子供はコミュニケーション獲得の入り口に立っているといえます。


 

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