く方式 その21〜その30

その21
 静止トレーニング、学習など訓練場面を特別に設定しての話を今までしてきましたが、日常生活の中で「お手伝い」をしてもらうことも有効なトレーニングです。ただ一般によく言われる「家族の一員としての役割を果たさせることで責任感を養うと共に自信を持たせ、意欲的な生活をさせる」なんてことを考える必要はありません。考えない方がよいでしょう。それは最終的な目標であって大切なのは「いかにスモールステップをふんでいくか」です。

 

(26)「人に合わせる」「目と手を使う」ことだけをまず目標にしてお手伝いをさせよう

@ 食器を下げる・・・ご飯の後、自分の食べた食器を流しまで持って行かせましょう。始めは1つずつでもかまいません。とにかく流しに置けばOKです。ここでは「落とさずに持っていく」だけの意識レベルの維持が目標です。静かに置くことも大切な目標です。だんだんと重ねられるものは重ねて気をつけて持っていくようにさせます。

A 茶碗、箸などを分類して置く・・・同じ種類のものを重ねて置ければしっかり目で弁別していると言うことになります。

@A共できればお母さんがするのに合わせて一緒にしてもらうのが良いのです。慣れてきたからといって勝手にさせず、「お母さんがするように」しないとパターンが出来てしまいやすいからです。もし子供が早く食べ終わってしまう時は、お母さんの指示によって置きに行きお母さんの言うとおりに置くようにさせてください。

他にはB洗濯物たたみ(ハンカチやタオルなどの簡単なものから始めましょう)C洗濯物を干すD戸締りなどがあります。ただしできるようになったからといってまかせっきりにすると特に自閉傾向の子供の場合はさまざまなパターンを作ってしまい、お手伝いそのものが無意識(触覚レベル)のパターン行動になって「今日はいいよ」などと言おうものならパニックというようなことも起こります。お手伝いは「頼んだり頼まなかったり」すること、「順番ややり方を変える」こと、「全部やらせたり、一部だけやらせたり」することが大切です。

(27)「耳を使うことを目標にいろんな物をいろんな所から取ってこさせよう

@「・・・を持ってきてください」・・・これが一番基本です。しかしここで大切なのは子供が間違いなく知っていると思われる物を少しはなれたところからさらにいくつかの物の中から子供が選んで取ってくるということです。「その9」で述べたような、次々とヒントを繰り出し最後はその前まで行って取らせるようなことではいけません。この@がスムーズに出来れば「指示に従う」「目、耳、手を使う」という目標が達成されたことになります。沢山やらせてあげましょう。この積み重ねが脳を発達させ、いろんなことを可能にしてくれます。

A「〜から・・・を持ってきて下さい」・・・今、子供とお母さんのいる場所とは違うところから取ってくるように指示します。ただし、いきなり「2階から」というのはやめましょう。出来るだけそこから見える場所からはじめてください。ここでもし、つまずくとすれば、途中で意識がとぎれるか、場所の名前を知らないか、位置の概念が欠けているか、という原因が考えられますから、次はそこに着目してトレーニングすればよいのです。

 

●ポイント

・[お手伝い」は学習と考えて段階をふんで確実にこなしていきましょう。

・同じことを繰り返してパターン化しないように気をつけましょう。

・お手伝いをさせたときにはよく見とどけ、失敗はすぐに訂正させ、上手く出来た時はきっちりとほめ、「今のがだめだったのかOKなのか」子供によく伝わるようにして下さい。


その22
 「直立二足歩行」「親指と他の4本指との対向」が大切だということを前にお話しました。そして、特に自閉傾向でパニックの強い子供は「親指の付け根が急所である」ということもお話しました。今回は、自閉傾向の子にはパニック、奇声、独り言等の問題行動と関係が深く、一般の障害児についても健康面、そして発音に関して重要である「鼻で呼吸する」ことについてお話しましょう。

 

(28)なぜ障害児はよく口をあけているのか

 障害のある子が100人いるとすれば98.5人くらいは口が開いています。なぜでしょう?「ぼーっとしている」からでしょうか?そんなことはありません。舌に力が入っているからです。舌に力を入れた状態で唇を閉じてみてください。とても難しいですね。障害児はこういう状態なのです。そして舌に力を入れたまま何か適当にしゃべってみてください。とても発音しにくいですね。だから障害児の発音は聞き取りにくいのです。口をあけたまま口で呼吸して、そのあと口を閉じて鼻で呼吸してみてください。どちらがより多く空気をすえますか?鼻ですね。皆さんが深呼吸するとき、口をあきますか?閉じていますね。鼻から大きくすってすってやはり鼻から吐いて、頭がすっきりしますね。障害児は口で呼吸をしています。だから、いつも脳への酸素供給が少ないのです。

(29)口を閉じて鼻呼吸させると独り言、ひとり笑い、奇声、パニックがおさまる。

 自閉の子がよく声を出しています。「フンフン」から「アー!」まで、大きさはいろいろですが、のべつまくなしに出ていることが多いですね。あれは口から息を吐く時に音声がのっているだけです。独り言も口(舌)の常同行動と考えましょう。発語のある子でも、何かこちらが言わせようとしたときは「ムニャムニャ」と何を言っているのかわからないいいかげんな発音なのに、独り言だけはやけに鮮明にビシッといいますが、あれは常同行動だからです。言葉ではありません。(マッハの速さで手たたきは出来ても手拍子は出来ないのと同じことです)これも強く吐く息に音声をのせているだけです。それからひとりで勝手に身体を震わせて笑い転げる子も多くいます。口で息をはきながら、強く腹筋を引き締めてみてください。「ハハハ!」と2つ3つ、笑い声が出るはずです。舞台俳優はこうやって笑いますが、自然発生の筋緊張と息を吐くタイミングが一致するとき、自閉の子は笑い出します。我々ですと、手足の自由を奪われた状態で数人の人に思いっきりくすぐられた状態がこれですから、顔は笑っていても苦しいのです。全身に力が入っていますから少々たたいたくらいでは感じないので止まりません。このとき息は吐きっぱなしです。そしてパニックですが、このときこそ子供は無酸素状態で息を吐けるだけ吐いて筋肉を鉄のように締めていますから爆発的な力を発揮し、それが延々と持続してしまいます。好き勝手にわがままで暴れていると思っている人が多いのですが、無酸素状態の中なくなった息をまださらに吐きながら手足を動かす苦しさは大変なものなのです。独り言も奇声もひとり笑いも、息を吐いてばかりいますから脳は栄養不足となり行動がまとまらなくなり、パニックへと発展しやすくなります。独り言そのものを止めてあげましょう。口を閉じさせて、唇をつまみます。鼻呼吸の出来ない子は顔を強く振ってでも手を離させて口を開けようとします。唇をつまんでいる時間をだんだん伸ばしましょう。そのうち鼻を使って「スースー」と息をするようになります。こうなればしめたものです。続きは次回に・・・

 

●ポイント

・口を閉じることが子供の幸せにつながると思ってしっかりと閉じさせましょう。

・唇をつまんだら最低10秒は維持し、そこから伸ばしていきましょう。


その23
 口を閉じさせることの大切さを前回お話しましたが、「今までずっと口を開けていた」障害児がトレーニングののち、我々と同じように「口を閉じているのが普通」の状態にまで到達するのは至難の業です。ひとまず、「お口を閉じなさい」と指示した時に口を閉じることが出来、お母さんが「いいよ」と言うまで閉じていられること、そしてその間鼻で息が出来ることを目標にしましょう。

 

(30)鼻と口の間に割り箸をのせてみよう

 10秒でも口を閉じていられるようになったら、子供の鼻の下へ割り箸を持っていき、唇を突き出して落とさないようにさせてみましょう。自閉傾向で奇声、独り言が止まらない子供はその言葉が目的ではなく「口の常同行動」ですから、唇を閉じさせただけでは口の中の舌の動きが止まりません。ギュッと唇をつまんで閉じさせてもものすごい力で口を動かそうとしてくるのはそれが反射レベルの常同行動だからです。これを止めるには唇を突き出させることで舌の常同行動を封じ込める必要があるのです。

 また、思い切り力をいれて唇を閉じる子もいます(まさに「お口、ムー!!」の状態)この場合は口の中でしぶとく常同行動を続けているよりははるかに良いのですが、これだと鼻で呼吸したとしても浅い呼吸しか出来ませんので、唇を突き出させて口の周りの力を抜いてあげなければなりません。唇を思い切り閉めているよりは、突き出している方がずっと鼻で空気を吸いやすくなります。自閉傾向でない子だったら「鼻と口の間に割り箸をのせて落とさないように競争する」とかゲーム感覚で取り組むことも出来ると思います。「力を抜いて唇を閉じておく」ことを覚えさせてあげましょう。

(31)鼻をかめるようになることを目標にしよう

 障害のある子の多くは鼻をかむことが出来ません。鼻呼吸が出来ないからです。ティッシュをあて片方の鼻を押さえて「フン!」と強く空気とともに鼻水を出してすっきりできれば合格ですが、その為にはその前に少しでも鼻に空気を吸い込んでためる必要があります。風邪をひいていない時から片方の鼻を押さえてあげてもう片方で「スー」と息を吸う練習をさせておきましょう。鼻水がいっぱいたまっている不快感、ふき取りすぎて鼻や口の付近がヒリヒリするような感覚はそのあたりを触らずにはいられなくさせ、状態が悪くなります。また、鼻で呼吸すると鼻腔内フィルターの役目をするのでウィルスなどに感染することが少なくなります。(口で呼吸していると直接気道に入り込んでしまいます。)健康面からも鼻呼吸が出来るように少しずつ努力しましょう。

 

●ポイント

・お母さんの指示で10秒間、口が閉じられるようになったら「割り箸を落とさない」練習で唇や舌の力を抜くようにしましょう。

*普段から鼻をかむ(片方の鼻の穴で息を吸う)練習をしてあげましょう。


その24
 「絵と字のマッチング」「単語カードの聞き取り(絵を見てから)」「ひらがなカードの聞き取り」「―、|、=、||、○などの聞き書き」は少しずつ出来ているでしょうか?次に来るステップを説明しましょう。

 

(32)「色+名詞」で絵と文字のマッチングをしよう

絵と文字のマッチングが30枚以上になったら、「色+名詞」の勉強をはじめましょう。

「赤」「黄」「緑」の傘の絵(帽子でもカバンでもよいのですが)を用意してください。同じ形の傘で色だけ違うものにします。そして「あかかさ」「きいろかさ」「みどりかさ」という文字カードを作ってください。「あか」「きいろ」「みどり」というように語のつなぎ方が異なると混乱するのではと思われるかもしれませんが、言葉の約束をパターニングするわけですから問題はありません。赤く着色した傘の絵を「あかいかさ」という文字であらわすという約束を覚え、黄色く着色した傘を「きいろいかさ」という文字であらわすという約束をマスターするということです。今後、「おおき」「たか」「ひろ」・・・などに発展させていく準備にもなりますから「〜の」に統一する必要はありません。ただ、「赤」「青」というようにやると「」「」でまぎらわしくなり、スムーズにマッチングできないことがあるので「赤」「黄」「緑」にし、増やす時も「紫」「ピンク」のように出来るだけ文字の形が違うものにするようにしてください。そしてかなり定着した後で「青」をいれ、「白」「黒」もつづかないように注意してください。(「白」と「黒」は色としてよりも明暗としてとらえてしまう子もいるので、時間がかかることがあります)目標は12色です。

(33)ひらがな模写をしよう

いよいよひらがなを書くわけですが、まずは動作模写からはいります。今まで模写してきた図形を生かして書ける文字からやっていきます。||(い)」(こ)」(き)」(け)」(さ)」、「」(す)、「(た)」、「(て)」、「(に)」を書かせて見ましょう。

手本を上記の形に書いて示してください。「」は「」「」「」の順に書いてください。動作模写が上手くいったら次はあらかじめ書いた見本を見て模写させます。動作模写の時点から[い]、[こ]と声を出していってから手本を書くようにしてください。決してあせらず、一日一文字しかやらないくらいのペースで取り組みましょう。ただ書けるようになったからといって勝手に書かせてばかりいるとわざわざ違う筆順で書く「形遊び」になったり、鉛筆が折れるほど(紙を破るほど)強くゆっくり書いたり、少しでも自分のパターンがくずれると消しゴムで紙を破るほど必死になったり、両手に鉛筆を持って同時に動かして書いたりなど、「文字を書く学習」のはずが「自己刺激行動」になることがよくあります。必ずお母さんの監督のもと「何を書くか」「どのように書くか」をきっちりさせるようにしてください。

 

●ポイント

・言葉のパターンは常に「最も標準的な言い方」を教え込みましょう。(あかい、しろい・・・)

* 書字学習が自己刺激行動にならないように気をつけましょう。


その25
 マッチングや模写を通じて、かなりひらがなに慣れてきたところでそろそろ数字の学習もはじめてみましょう。「買い物もできないのに数の勉強なんかしてどうするの?」と障害児をとりまく世界では言われ続けてきました。たしかに、買い物はどころか「えんぴつ3本ちょうだい」といわれて3本をわたすことすら、なかなか難しいのは事実です。しかし、数字の勉強を実際にやってみなければ何もはじまりませんし、買い物が出来なくても数字に関して1つでも2つでも身につけることが「脳を成長させる」のです。臆せず、数の世界に踏み込みましょう。

 

(34)1〜10の数字カードを並べられるようにしよう

 1、2、3 のカードをその順に並べることをパターニングします。もしすぐに出来たら、そのまま 4 から10 まで並べましょう。1 のカードをまず置いておき、2 をその右に置くように促します。何度かやったのち、まず 1 を手渡して置かせ、2 を手渡して1 の右に置くことが出来たらOKです。

次は 1、2 が置いてあるとなりに 3 を置くことをパターニングし、つづいて 1 の右に2、その右に 3 を手渡しで置かせます。このようにして 1 から10 まで置けるようになれば第一段階クリアです。

これをやったあと 1 から 5 の5枚で 1( )3( )5 のあいたところに 2 か 4を手渡されて判断して置く、という学習にはいります。いろいろなパターンで穴埋めをさせ1 から 5 ならどれを抜いても大丈夫ということになれば 6 まで増やして穴埋め、それが出来れば 7 まで増やして穴埋めという具合にしていきます。そしてカードを並べる学習のときに「いち」「に」「さん」と必ず声に出して手渡すようにします。(耳を使えるようにしなければなりません。)順調に行くようなら 11 から20 まで進んでも結構です。とてもよいトレーニングになります。

(35)ななめの線を引く動きを出させよう

ひらがなの模写はもちろん、コツコツ続けていかなければなりませんが、案外難しいのが「く」、「へ」などのななめの線を引かなければならないものです。「め」や「ぬ」も「\」の部分が難しいのです。 や のようにななめの線による2点つなぎをして「ななめ」の動きを身につけさせましょう。斜めの線がひけるようになったら\に○を重ねてで「め」が書けたことにします。だんだん書きなれてくると\がめに近づいてきます。「く」は/を模写させて、そこで鉛筆を線から離れさせないように「ストップ」と手を添えて止めてやり、そこで/につなげて\をひき「く」を完成します。子供は\を引いた位置から鉛筆を離さずに\を模写すれば「く」が書けるということです。同じように「へ」を「/」と「\」を鉛筆の先を紙につけたまま続けて引くようにさせます。このギザギザを利用して「ろ」は「 」、「る」は「 」と書くことができます。

 

●ポイント

・数字カードのパターニング、穴埋めは上の手順で慎重に進めましょう。

・斜めの線による2点つなぎをしましょう。


その26
 「お母さんがボスである」という言葉を基本に、いろいろなトレーニングについてお話していますが、学習や歩行、姿勢保持(静止)を少しずつでもお母さんの指示で出来るようになってきたことと思います。次にしなければならないことは子供のパターン行動(こだわり)に介入することです。子供たちは日常生活のさまざまなこだわりを持っていますが、いままではあまりそれに直接手を出さず、「お母さんと子供の関係作り」に重点を置いてきました。そろそろ、子供たちを不自由な生活にしばりつけているさまざまなこだわりを崩すことに挑戦しましょう。

 

(36)「奇妙だ」と思える行動を尊重してはいけない

 障害児、特に自閉傾向の子供は感覚レベルの世界にとどまっていますから、触覚、視覚、聴覚の自己刺激行動が強烈にパターン化してしまいます。水や砂をいじくりまわすのは触覚の感触あそび、水の流れや指の間からサラサラこぼれる砂に見入るのは目の常同行動、電車が走り去るところを見るのも電車に乗ったとき窓にピッタリ顔を近づけて外を見るのも目の常同行動です。目の常同行動と言うのは眼球の細かく速いリズムの運動のことで、彼らはけっして「田園地帯はのどかでいい」とか「きれいな町並みだ」とか思っているのではなく、車輪の回転とか、目の前をどんどん過ぎていく緑の葉1枚1枚を見たりしていることが多いのです。換気扇をみることや自転車のタイヤ回しに熱中しているのと同じ奇妙な行動なのです。耳ふさぎも最初は確かに音に対して過敏だった場合が多いのですが、いつのまにか「耳を強く圧迫する感触あそび」、「耳をふさいだ時のゴーッと響く音を聞く聴覚あそび」などになってしまっています。(もし、音が不快というだけの場合、大きい音や特定の嫌いな音がしたときだけ耳をふさぐ、不安な時だけ耳をふさぐ、というようにまわりにもよく解ります)何かをいつも持っていないといけないというのもその「何か」が触覚的なこだわりを満たしていて、それがパターン行動になってしまったものです。
 「情緒の安定が大事だから、させてあげましょう、そして信頼関係を作りましょう」と言われたことを守り続けて大変な思いをされたお母さんも多いと思います。問題は「それが本当に情緒を安定させているか」ということです。水遊びを充分にやって「さぁ〜するよ」と声をかけられて「ハイ」と気持ちよく応じる子が何人いるでしょうか?お気に入りの品物を素直にお母さんに渡し、指示にしっかり従ったあとでまたごほうびに渡してもらって嬉しそうにしたなんてことは聞いたことも見たこともないというのが正直なところではないでしょうか。どんどんエスカレートし、下手をすれば一日中でもこだわり行動を続けたり、自分で勝手に終わって動いたり手放したりすることはあっても、人に言われてやめることは絶対にないというようなことになってしまうことがほとんどです。こだわりはやめましょう。ただ自閉傾向の子供の場合は、「こだわりが全くなくなる」というのは大変困難だということも知っておかなければなりません。目標は「やめさせる必要が生じた時には素直にやめて指示に応じられる」ことです。
 次回はこだわりの崩し方をお話しましょう。

 

●ポイント

・「奇妙」と思える行動が一つなくなれば(ましになれば)そのぶん脳が成長します。「どうしたら減らせるか」をいつも考えましょう。


その27
 「こだわりをくずす」これは知的障害児の必須課題です。自閉症児がその代表ですが、自閉に限らず、さまざまなことにこだわり、不自由な生活をしている子供はたくさんいます。全ての療育の大原則は「スモールステップ」ですから、「こだわりくずし」もあせってはいけません。地道に一歩ずつ進みましょう。

 

(37)今日は1秒なら明日は2秒、今日1回なら明日は2回の精神で

 こだわりにはいろいろな種類がありますが、1つの例として「いつもある物を手に持っていなければならない」こだわりとしましょう。何をするときも手ばなさず、何かするときもそれを持ちながらするので上手くいかず、結局は出来ることが限られてしまう。といった場合、それを持たずにすむようになる方法を考えなければなりません。強引に取り上げてパニックを起こされてしまうと何にもなりません。1秒から始めましょう。指示の通る子なら「それをよこしなさい(もしくは、ここに置きなさい)」の指示でお母さんに渡し、お母さんが返してあげるまで我慢させます。指示の通りにくい子ならグイッと取り上げて敢然と取り返しに来る手を「一瞬」止めてから返してあげます。どちらの場合も「パニックになる前に」返すこと大切です。その返してあげるまでの秒数を1秒ずつ伸ばしていきます。回数で言うなら今日1回試みたら明日は2回というように増やしていきます。こんなことで変わるはずがないと思われるかもしれませんが、1人の障害児の頑固なこだわりは種類が多くても行動のメカニズムは同じですから、1つのこだわりをほんの少しずつ地道に軽減していくことで他のこだわりもなくなっていくのです。そして「お母さんによこしなさい」と言われて渡せるようになった子は「ここで待っていなさい」と言われて待っていられるようになるのです。

(38)ターゲットは1つに絞る

 子供のマイペースな行動にいちいち反応し、すべてをこちらのペースでやろうとして反発されることがパターン化していませんか?「これだけは」というようにターゲットをしぼりましょう。今の時点で全ての面で子供に普通の生活を強いるのはかえって遠回りになります。砂場で砂をいじくることを何時間もやめないパターンの子を砂場から強引に引きずり出すことをいきなりやってはいけません。砂をいじくる手をすっと握って止めましょう。強い抵抗がはいりそうになったら離します。それをほんの数秒、数回から始めて少しずつ増やすことだけに絞ってみましょう。いつしかお母さんの「行くよ」という指示にしたがって砂さわりを切り上げる子になります。道順やスケジュール、日常の動作などでかたくななパターンを守る子にはきまった道を行く途中、お決まりの手順で動作をしている途中、その手をちょっと握ってみましょう。握ることでそのパターンに少しずつ介入していくのです。着がえの途中に手を握ってほんの少しずつ手順を中断していけば、そのうち歯磨きの途中に介入しても平気になります。要は歯磨きも着がえも食事のマナーも体の洗い方も全て何とかしようとせず、まずは着がえのシャツの着方なら着方だけをすればよいということです。それができれば、他のことも言うことを聞かせられるようになるのです。

 

●ポイント

・1つの行動を一瞬から1秒、1回から2回というように取り組んでいきましょう。


その28
 文字の学習(言葉の学習)の鉄則は「絵と文字のマッチング」→「絵を見てから文字の聞き取り」→「絵を見ずに文字の聞き取り」の手順を守ることです。目を使い耳を使うようにしていくには、面倒がらずにやらなければなりません。視覚のみに頼る学習が多くなりがちですから、注意しましょう。

 

(39)色がわかったら「大小」にすすもう

 「あかいかさ」「きいろいかさ」などの、12色で「絵と文字のマッチング」が定着したら、色については「絵を見てからの聞き取り」にすすみ、それが軌道にのり出したところで「おおきいかばん」「ちいさいかばん」というように「大小」の学習をはじめましょう。「絵と文字のマッチング」から始めます。これは全く同じ形で大きさがはっきりと違う絵を用意します。カバン、車、机、ボール・・・5〜6種類の大小の絵を使ってください。カバンならカバン車なら車だけで絵と文字をマッチングし全てできるようになったときに「おおきいかばん」「おおきいつくえ」「ちいさいかばん」「ちいさいつくえ」の2種類計4枚でマッチングさせるようにします。「色」と「大小」はゆっくりと、あせらず少しずつやっていきましょう。「色」も「大小」も「絵を見てから文字の聞き取り」が出来るようになるまで新しい概念は入れずにこの2つに専念してください。

(40)文字を使って同じものの線つなぎをしよう

 ひらがな模写がある程度進んできたら、同じひらがなどうしを線でつなぐ学習を取り入れましょう。まだ「ひらがな」という認識はできなくとも、形の識別をしっかりさせておくと書字の習得がはやくなります。まず、練習している形の文字、つまり子供の書いている文字の形と同じようなもので始めます。

 しだいにきちんとした形の文字にしていきます。

 数字カードを並べる学習をしていれば、これもとても良い勉強になります。例題は3対3ですが、5対5を目標にしていきましょう。

 

●ポイント

・「絵と文字のマッチング」→「絵を見てから文字の聞き取り」→「絵なしで文字の聞き取り」の段階を確実に踏んでいきましょう

・ひらがなと数字の形の識別を早めにさせておきましょう。


その29
 くれよん方式の重要なポイントの1つに「歩行」があることは以前からお話していますし、くれよんの活動の中で常に「歩行トレーニング」に取り組んでいますから、「平地を歩きつづける」ことについてはかなり出来てきたのではないかと思います。しかし「バランスを崩しやすい(転倒しやすい)」「速く歩けない」「山道や階段が苦手」「全力疾走できない(ジョギング程度しか出来ない)」などいろいろな問題があることでしょう。今回は「歩行の為のトレーニング」についてお話しましょう。

 

(41)しっかり歩いたり、走ったりするために必要な「体のひねり」

 ためしにお母さんがしっかり速く歩いてみてください。当然、手をしっかり振りますね。ここで肩と腰の関係に注意してください。右手を前に出した時、左足が前に出るのですが、そのとき右の肩が前に出ると同時に腰の左側も前に出ます。つまり、上半身と下半身が逆の動き、いわば「身体をひねる動き」をしています。これがランニングになると、一層強くなり、体を前に運ぶ推進力になり、左右のバランスがとれ、転倒しにくくなるのです。これが障害児には難しいのです。自閉症児が自然発生的筋緊張によって手を高い位置に上げて歩いているのはその代表的なものですがその他の障害児も「なんとなくぎこちない」歩き方をしており、また少しのことで転倒したり、歩くのも走るのもゆっくりだったりするのはこの「体のひねり」が出来ないためです。全く腰をひねらず、上体を動かさず足だけで歩いてみてください。知的障害児達とよく似た歩き方になるはずです。手を握っているように見えても肩と腰がひねれていないと非常に歩きにくいことがわかります。この歩き方で急な上り坂や険しい山道を行くのは至難の業です。意識レベルを維持し手足の分化を促す為の山登りも「体のひねり」が出来ていない子供は介助が多くなることで逆に意識レベルが下がってしまったり、歩くのが嫌になったりしてしまいます。ではどうすれば「体のひねり」を身につけることが出来るのでしょうか?

(42)「体のひねり」は「ずりばい」で獲得できる

 「ずりばい」をしてみてください。右の前腕(ひじ)を前に出し、その分だけ腹ばいで前進しようとするとき、腰の左側が床にギュッと押し付けられるはずです。次に左ひじを前に出せば腰の右側が床に着きます。これが「体のひねり」なのです。知的障害児は立って歩くまでの「ずりばい」「高ばい」の量(経験)が絶対的に不足しており、そのために「体をひねらずに足を前に出すだけで歩く」スタイルになってしまいやすいのです。山登りや上り坂の苦手な子供には「ずりばい」をさせてください。何をいまさらと思わず、赤ちゃん時代に足りなかった部分を補ってあげましょう。「ずりばい」を充分にやったら「高ばい」(よつばい)もさせましょう。ただし、「高ばい」は腰のひねりが足らなくても速く動かせば前に進みますから、歩行と同じで間違ったことを習得してしまうことがあります。まずは「ずりばい」を毎日やってみてください。「ずりばい」がとても速くなってから「高ばい」に進んでください。

 

●ポイント

・「歩けない」のは意識レベルや精神力だけが原因ではなく、「体のひねり」を習得していないのが最大の原因です。

・「ずりばい」を毎日させましょう。


その30

 

(43)「うつぶせ寝」の静止トレーニングを取りいれよう

 前回、歩行に必要な「体のひねり」を身につけるための「ずりばい」についてお話しました。今回はさらにその基本としての「うつぶせ寝」についてお話します。一時期、赤ちゃんをうつぶせにして寝かせることが流行しました。「突然死」につながる場合があるということで今はまたあおむけになっていますが、実はこの「うつぶせ寝」こそ歩行を確かなものにする基本姿勢なのです。健常児ならばどちらの向きに寝ても勝手に「ずりばい」をしてあちこち動き回ります。障害児の場合、うつぶせにされた時の手足のバタバタ動きが「ずりばい」へとつながっていきますから、とても重要なのです。

 今から「ずりばい」をさせようとしてもなかなかやってくれない子供の場合、まず「うつぶせ」で静止させましょう。「うつぶせ」で静止することが定着した時に腕の動きで身体を移動させる「ずりばい」を教えるとスムーズに行きます。また、あおむけで静止する「まぐろ」に比べて、「うつぶせ」の方が身体に入る力を床面が受け止めてくれますから子供にとっても力を抜くことを覚えやすいという効果もあります。秒単位から始めて1分、2分と「うつぶせ静止」を伸ばしていきましょう。さらに、正座の出来ない子にとってもこれは有効です。なぜなら、立った状態から正座させようとしたら強烈な反発反射が出る子でも、うつぶせから立ち上がる途中、よつばいに必ずなりますからそこで正座に移行させれば正座してくれるからです。まず、「うつぶせ」でのんびりしてもらいましょう。

(44)動作文の学習をはじめましょう

 そろそろ動作文にはいりましょう。ご飯を食べているところ、歯を磨いているところ、テレビを見ているところ、などいろいろな動作を表す絵カードとそれに対応する文字カードを用意してください。今までやってきたカード学習と同様、「絵カードと文字カードのマッチング」→「絵を見てから文字の聞き取り」→「絵を見ずに文字の聞き取り」の手順でやっていきます。ただ、動作を表す文字カードを「ごはんを食べる」より「ごはんを食べています」のように「進行形」「ていねいな言葉使い」にした方が今後の学習の発展に都合が良いので、現在「〜する」の形でされている方も少しずつ変えていかれた方が良いと思います。

 コミュニケーションの中に出てくる「動作文」は進行形が多いこと、「何をしていますか?」の問答練習に進みやすいこと、「はしっています」なども早くから視覚刺激を入れて、聴覚刺激と統合しやすくすること、「です。ます。」で表現する習慣をつけておいた方が場に応じた話し方を選択するのが難しい障害児には今後役立つ、などがその理由です。動作文の学習は比較的子供達にとって取り組みやすい課題ですから「色」や「大小」と並行してやっていきましょう。

 

●ポイント

・「うつぶせ」は力を抜くずりばい正座、に有効です。

・動作文はできるだけ「〜しています」の形でやっていきましょう。

 

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