What Do You Care
What Other People Think?
前半は、学生時代に結婚し、早逝された一人目の奥さんのエピソード。不治の病と宣告されていることを、奥さんには内緒にしておこうとする奥さんの両親や肉親たちの配慮に対して、奥さんに事実を打ち明けるべきだと迫る迫力。しかし、入院生活の長い奥さんが退屈しのぎに考え出すいたずらには、逆にそれを一緒に楽しんでしまおうとするあたりに、暖かいけど決して押しつけがましくないノーベル物理学者ファインマン氏の人柄が見てとれる。若き無名の学徒の時代から既に、決して事実から目を逸らさずに全てを受け入れねばならないとの強い信念を持たれていたことが伝わるエピソードである。
中盤には、ユニークなエピソードがいくつか。日本の物理学会から招待を受けて来日した際、日本ではVIPを最高にもてなそうと各地に高級なホテルを準備しておくのだが、そんな世界の何処にでもある無機的なホテルに辟易して、ファインマン氏は宿の主人が「とても外国からの賓客をお泊めできるようなレベルの宿ではない」と宿泊を拒否するにもかかわらず、強引に田舎の鄙びた木賃宿を自ら予約して、本当の日本の姿を見ることが出来たと、ひとり悦に入る様子は愉快である。そして招待した日本側の学会事務局の慌てぶりを想像すると気の毒に思われる。文字通り”What Do You Care What Other People Think?”である。
そして後半が圧巻である。スペースシャトル「チャレンジャー号」が1986年に空中で爆発した後、大統領事故調査委員会のメンバーとして、レーガン大統領のもと原因究明した顛末が描かれている。本音で生きてきたファインマン氏にとって、政治の都ワシントンが建前だけで結論を出そうと画策する委員会でのお偉方たちとの駆け引きは、苦労の多いものであった。最後の最後になってNASAに内包していた組織的な欠陥が報告書から省かれようとした際に、委員会メンバーとしての署名削除も辞さじとした科学者としての矜持と科学に対する情熱。ファインマン氏は、最後までファインマン氏を押し通されたのである。
たまたま、福島原発事故の国会事故調査委員会の黒川委員長の1寸も妥協、隠し立てを許さじとされた報告書への並々ならぬ決意と重なって感慨深く読ませていただいた。
秀逸! 推薦度 5.0