The Untold History of the United States




  衝撃の書である。第2次世界大戦を指揮したルーズベルトから現大統領のバラック・オバマに至る歴代大統領たちとその政権を担ったアメリカの外交政策の裏面を自虐的に、これでもかと言うくらいに執拗に描写している。  ヨーロッパがナチス・ドイツに席巻されているとき、一番の犠牲を払ってドイツと戦っていたのはスターリンのソ連であり、連合国はなかなかそのソ連に協力しなかったこと。ルーズベルトがスターリンと親密になって漸く参戦し、ドイツを負かしたこと。日本への原爆投下の決断は、戦後に予想されるソ連台頭への牽制と意外にも米国の日本に対する人種的偏見によるもので、軍事的には原爆投下が無くても日本は直ぐにも降伏するというのが当時の軍部の見解であったこと、いま米国が戦争の早期終結に必要だったと主張する見解と異なって興味深いことである。  東西二大体制の冷戦時代に、増大する国防費を抑える手段として、アメリカの核開発を進めたのはアイゼンハワーであり、彼は国内や世界中から湧き上がる核兵器開発政策への非難を抑えるために、原子力は平和的な技術にも応用可能との宣伝で、核開発を正当化した。その結果で普及した原子力発電所が、今回日本で甚大被害を引き起こし人類生存の危機を再・認識させることになったのは皮肉なことである。 なお、冷戦時代の米国の軍事、外交政策担当者の対共産主義恐怖症は被害妄想的で、米ソ両国の核兵器開発競争を煽り、遂には現代の米国を支配する「軍産複合体」と「ネオコン主義」政権へとつながることになる。  アメリカの影響(支配)から逃れようとして、ソ連に支援を求めて対峙したカストロ政権のキューバ危機時のケネディとフルシチョフの駆け引きは当時のニュースが改めて思い出され、手に汗握る思いだったが、その後両者ともに双方の当時のタカ派的政策担当者から疎まれたのであろうか、ケネディは暗殺されフルシチョフが失脚したことは象徴的な事件であった。  ベトナム戦争でのアメリカの対防共政策にとどまらず、第二次大戦後のアメリカは、自由主義と民主主義を標ぼうして、世界中の共産体制や弾圧的独裁体制と戦う世界の正義の警察国家たる地位を保持してきたかのようであるが、その実態は中南米や中近東諸国、東南アジアに侵略的に軍事介入を行い、資源や企業独占の権益を手に入れてきたとの描写は、米国人には触れられたくない裏面史ではないだろうか?中国がアメリカから「人権!人権!」と言われたく無いというのも、納得できることに思える。  9・11後のテロ対応で、パキスタンやアフガニスタンに散らばる僅かなタリバン勢力に対して、何十万人もの海外派兵や最新のデジタル技術を駆使して開発した無人操作飛行機による爆撃などの成果は目に見えず泥沼化の様相である。これに要する軍事費は数兆ドルを超え、国家予算を破綻させるほどで、このことを取り上げると、米国はタリバンに滅ぼされたと言っても良いのではと思うくらいである。米国の対テロ戦争は冷戦時代以上に偏執的病状にあると言っても過言では無いだろう。  オバマもウォール・ストリートからの政治献金を沢山受けたとかで、その圧力に負けて、公約通りの「テェンジ」に全く手を付けられません。軍産複合体に投資するウォール・ストリートの金融筋と好戦的ネオコンの思うままの米国である。政治とは所詮こんなものか?  
単語の難解さに苦労した。     推薦4.0



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