Different Seasons




  4篇のオムニバスからなる小説集。ホラーでありながら、現実にありうる心理描写がいずれも珠玉。

1.Rita Hayworth and Shawshanks redemption
   状況からのみ判断して、妻と愛人を殺害した容疑者として、終身刑の有罪判決を受けてしまった元銀行員は、長い服役期間中にレッドと呼ばれる囚人と親しくなる。物語はこのレッドが語る刑務所の様々な日常生活において、高等教育を受けた稀有の囚人アンディがいかに際立った存在であったかを描くうちに、気がつくとアンディがアッと言わせる脱獄を果たしてしまう筋立てになっている。釈放の見込みの無い絶望的な刑務所暮らしの中で、忍耐強く絶えず希望を失わず、緻密な計画を実行し目的を果たしてしまうアンディの生き方は、単なる活劇に終わらず、アンディが冤罪の囚人であるが故に、読者の心に何かほっとするペーソスを提供してくれる珠玉の短編である。

2.Apt Pupil
 13才の金髪の少年が近所に一人で暮らす老人が、昔、ドイツ・ナチスのユダヤ人収容所々長であったことを突き止める。老人は戦後しばらく南米に逃亡したあと、アメリカに潜入し、ドイツからの移民(ドイツでは戦中、自動車整備工だったと偽称)として今は市民権も得てひっそりと暮らしていた。そんな老人の秘密を暴いて、老人を脅迫し、当局に密告しないことを約束して、少年自身が有する残忍性を実現するために、この老人がナチス時代に発揮した残忍な行為を再び行なうように追い詰めていく薄気味悪いストリーである。街の浮浪者を二人が共謀して残忍に殺していく展開は心胆を寒からしめる思いをするが、結末は思いがけない人たちからの通報で、老人は自殺、少年は逮捕されるとの結末に、漸くホッと一息ついた次第である。

3.The Body
  子供時代の悪童仲間4人が、森へ野イチゴ狩りに出かけたまま行方不明になっている少年の話を聞いて、家族にはキャンプだと嘘をついて、彼を探しに出かける冒険物語。途中鉄道の長大な鉄橋の上で死にそうな思いをしたり、猛暑を癒そうと泳いだ沼地でヒルに襲われたりする苦労の果てに、行方不明の少年の遺体に辿り着く。が、そこには彼ら兄たちの不良グループも到着していて、発見の手柄争いとなるが、たまたま一人が父の金庫から持ち出していた拳銃を振りかざして兄達を撃退できた。そんな恐ろしい思い出を共有する彼らも成長するにつれてやがては別々の人生を歩まざるを得ない。今この回想を書くひとりは小説家として成功し、妻と二人の子供の家族に恵まれているが、他の三人は大人になるまでに非業の死を遂げてしまっている。子供時代に何のしがらみも無く無邪気に遊び、秘めた思い出も共有しているのに、大人になった今は、互いが別々の人生を送っている昔少年の胸に万感迫る想いを呼び覚ますメルヘンチックな秀作である。

4.The Breathing Method
   ニューヨーク、35ストリートに存在する奇妙なクラブ。ニューヨークの大きな法律事務所で働く私、Davidは、ある日上司からこのクラブに誘われた。クリスマスにはここの会員達が持ち回りで風変わりな物語を、語り聞かせることが習慣となっている。その中の一人、医師マッキャロンが語り始めたある独身妊婦との診察室を通した交流の果てに待ち受けていた恐ろしい出来事。田舎から女優を目指してニューヨークに出てきたが、目的を果たせずに貧しい生活をすごす中で、未婚のまま妊娠した彼女は、マッキャロンの患者として子供を産むことを決める。マッキャロンの指示に素直に従い、出産を楽しみにしていた彼女だが、予定より遅れてクリスマス・イブの夕刻に突然陣痛が起こる。生憎その日は、霙混じりの雪が降る天候で、タクシーがなかなか捉まらない。ようやく到着したタクシーも、交通渋滞で思うように走れず、時間ばかりが経過する。陣痛が激しくなるので、若いタクシードライバーは慎重に運転していたが、病院の前まで来て激しい衝突事故を起こしてしまう。事故で、彼女は身体から頭部がちぎれるという悲惨な状況になるが、それでも離れ々れになった口と肺が、それぞれに呼吸を続けており、来合わせた医師マッキャロンはまだ赤ん坊は生きているはずだと、事故の現場で男の子を取り出すことに成功する。それを見届けた彼女は身体と分離した頭部の口で医師に向かって「thank you!」と言って、ようやく息を引き取ったかに見えたのである。 ― 4篇まとめて  推薦度4.5



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