The Pillaras of the Earth



 極貧の放浪の果てにたどり着いた小さな村で大聖堂の再建という大仕事に雇われた石工親方のトムとその家族、荒廃した教区の立て直しを図り、一方でこの大聖堂再建の大事業に取り組むフィリップ修道院長、この敬虔な修道院長が行う大事業を良しとせず、常にその進行を妨害する強欲司教のワーレンラム、王位継承を争う陰謀の渦中で領地を奪われた伯爵の娘アリエナとその弟リチャードの数奇な運命。この伯爵姉弟を追い落とした残忍な悪党の小領主ウィリアム。偶然の出会いから石工トムの後妻となるアウトローのエレンとその息子ジャック等、物語が進行するなかで主人公がその都度目まぐるしく変わっていく壮大な叙事詩である。プロローグも含めると12世紀イギリスの暗黒時代を50年の長きにわたって描ききった架空の歴史物語である。権力追求への陰謀と裏切りを繰り返す貴族、神に仕える身でありながら赤裸々に人間としての欲望を剥き出す聖職者、そして職人気質からいつの日か世界一豪華な大聖堂の建立を夢見る石工たち庶民三者の生涯が絡み合わされた大河物語である。ハラハラ、ドキドキの戦乱絵巻がハードボイルド、あるときはロマンポルノ、と様々な表現を織り交ぜて語られている。作者大サービスの1,000ページに及ぶ長編であるが、飽ずに楽しませてくれる。最後は伯爵令嬢アリエナがトムの優秀な跡継ぎとなったジャックとの愛を実らせ、伯爵家の地位も奪回する。トムの遺志を継いだジャックも大聖堂を完成させるというハッピーエンド物語であるが、一方ではフィリップ修道院長を冤罪で貶めようとするワーレンラム司教の陰謀を阻止するために担ぎ出されたイギリス教会の大司教が暗殺されるというような大殺戮もあるものすごい筋立てである。因みにこの物語は映画化が難しいとされているが、NHKのBS海外ドラマシリーズでタイトル「大聖堂」として、読後にたまたま放映されていた。残念ながら脚色が粗雑で原作の雄大さがまったく味わえない駄作になっている。 推薦度:4.0。


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