ORDINARY GRACE




 1961年の夏、アメリカ中西部ミネソタの小さな町に暮らす牧師一家の物語である。長男フランクの数十年前の少年時代の回想として語られている。ベトナム戦争の始まる前、第2次世界大戦とその後に続いた朝鮮動乱を経験した父と元部下のガスが決して語らない戦場の記憶がまだ色濃く残る時代の話である。 少年フランクが周りの大人たちと交わす会話には暖かい牧歌的雰囲気が漂っていて、私が歩んできた来た過去の日本の風景にも重ね合わされて、何かしらホッとした気分にさせてくれる珠玉の物語である。
 しかし、中味はミステリー小説である。のどかな田舎町に不可解な事件が立て続けに発生した。先ず、知恵遅れの子供の轢死体が発見される。続いて身元不明な浮浪者の溺死体をフランクが発見する。警察は事故なのか殺人なのか判然としないまま、いずれも事故であろうとして、処理をするが、フランカは納得できずに弟のジェイクと一緒に色々と詮索している。そんななか、こともあろうに姉のアリエルが川辺で不慮の死を遂げているところを発見される。検死の結果、妊娠していたことが解って、思い悩んだ末の自殺?或いは殺人?かと街中が騒然とする。殺人説では次々に犯人と思われる人物がもっともらしく描かれていくが、結末は容易に想像がつくので、ここでは最後の思わぬどんでん返しを省略する。
 文章の美しさは、小説というよりも文学作品といえる傑作である。    推薦度 − 4.5



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