THE MARTIAN



 米国のNASAが実施した3回目の火星有人探査隊は6人のチームで編成されていた。探査開始後6日目に大砂嵐に見舞われて、5人は無事に宇宙船にまで逃げ戻ることができたが、1人植物学者のワトニーだけが嵐で倒壊したアンテナに頭を打たれて気絶したまま行方不明となる。視界が不良で捜索もできず、強烈な嵐の中で宇宙船も脱出操作が困難になる前に火星探査基地から離陸して地球へ戻らざるを得なくなる。アンテナの倒壊で、宇宙船や地球との通信手段を失ったワトニーは、脱出できた5人のクルーはもちろん、NASAの地上基地のスタッフたちから死亡したものと判断されている。しかし、取り残された火星では、意識を取り戻したワトニーの凄まじい生存の戦いが開始されるのである。小説であるから、最終的に救出されるとの奇跡的な結末は予想されるので、彼ひとりの苦難の日々を淡々と読み進むだけではあるが、数々の難行を克服していく様は、いかにも実現するだろうと思わせる信憑性のある緻密な表現で、なかなかの出来映えである。地上ステーションには火星探査基地から通信は全くないが、ただ火星を周回する人工衛星から周回毎に火星基地の様子を写す衛星写真が自動的に送られてくる。この写真の変化から。地上ではワトニーが生存していることを確信して、救出作戦が始まる。ワトニーも超人的な知恵を働かせて、生存に欠かせない水・空気・食料から燃料の調達手段を次々に解決していく。遠くはなれた前回の探査隊の基地にまで出かけて行って、通信装置も手に入れてやがて地球との交信も可能にしてしまう。地上では、数年後に計画中の宇宙探査機の実施までは救出来る予算が捻出できない。中国が開発を進める宇宙開発ロケットの提供も受けるが、これは打ち上げに失敗するから、皮肉にも地上の懸命の救出作戦の不成功と火星でのひとりの天才の創意工夫の成功の対照も愉快でもある。最後は、地球へ帰還中の5人のクルーが火星を周回する軌道に舞い戻り、火星から脱出してくるワトニーとドッキングして目出度し目出度しとなるが、このドッキングの緊迫した描写は圧巻である。
推薦度3.0



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