The Hundred-Year Marathon
ニクソン政権以降歴代の大統領の下で、対中国政策の立案に携わっていた外交、
軍事の中国専門家が著した中国脅威論である。
冷戦時代、対立する共産主義の2大国の一方ソ連の脅威を削ぐ目的で、米国は毛沢東政権の中国を
経済的にも、軍事的にも密かに援助をしていた。やがて、ベルリンの壁やソ連体制の崩壊により、
アメリカ式民主主義・資本主義の体制が世界秩序の規範となったとき、中国は共産党1党独裁の体制を
保持しつつ、ニクソン大統領時代の米国と国交を正式に開いた。やがてケ小平が主席になると近代化
した米国式の経済発展を目指して、積極的に米国と交流し、米国の文化、最新の科学技術、経済手法の
吸収に励んだ。米国も中国が急激にだないが徐々に共産主義から民主主義体制に移行していくもの、
米-中は同じイデオロギーの下で共存共栄できるものとして、積極的に広範な援助を隠すことなく
提供したつもりであった。米-中の政府間協力を推進していた親中国派専門家たちは、本書の著者も
含めて、中国は米国の繁栄に憧れを抱いて、米国から懸命に学び取っていると信じていた。
ところが、世界第2位の経済的地位を占めるほどした現中国を見直してみると、民主化どころか
共産主義体制が揺るぎなきものとなり、天安門事件等に見る通りに国内の民主化運動を抑圧したり、
政権に批判的な報道やネット情報を検閲・監視を強化して取り締まるなど、非民主的な独裁体制に
なりつつある。中国は民主化を目指していたのではないのか、一体何処を目指しているのか、
著者は懐疑的になる。19世紀から20世紀にかけて欧米諸国や日本の侵略で被った恥辱・怨念を
晴らすべく、虎視眈々と世界制覇を目論む強力なタカ派勢力に中国政権が牛耳られているようだ。
油断ならないのである。中国は直接に侵攻することはなく、紀元前の戦国時代の孫子の兵法を
戦略的に駆使して世界を支配する覇者ならんことを目論んでいる。1949年の中華人民共和国建国
100年の2049年を目指して、なんと粘り強くも「100年マラソン」と称する大プロジェクトを
密かに展開中なのである。中国は決してそのような野望は持っていない。軍事大国になrつもりは
毛頭ない。経済的に繁栄する近代国家を目指していると言いつつ、最近はこのプロジェクトが公然と
顕在化しつつあるから油断ならないと警鐘している。
もっとも、著者は米国自身が第2次世界大戦の勝利を巧みに利用して、旧来の英国や独・仏の欧州
体制の覇権を奪って、世界の超覇権国家に成り上がったことを言外に認めているようで、こうして得た
覇権を中国に同じような手法で取られたくないというエゴをあからさまに吐露しているようにも
見えていささか滑稽である。
翻って、我が日本はこの2大国に挟まれ、更には近年はロシアまでが北からの脅威になっている
ように見受けられる。アメリカのこのような身勝手なエゴに振り回されて、3国のつまらぬ覇権争いの
犠牲から、まさか国が分断されることないように、弱小国としての独自の戦略を立てるときにあると
思われる。
推薦度 4.0