Lucky JIm


    青春物語である。コメディ小説と言える展開である。地方大学の非常勤講師を務めるディクソンの業績は、必ずしも優秀とは言えない。彼の2年間の任期も半分の1年を終えて、更に延長採用の推薦を得る準備にかからねばならない。直属の上司である歴史学科のウェルチ主任教授に取り入ろうと働きかけるが、なかなか上手く立ちまわることが出来ない。学園が舞台になる様々なドタバタは、夏目漱石の「坊っちゃん」を思い起こす雰囲気の小説である。メインは教授のウェルチ家との交流であるが、中でも若きディクソンは、さほど美人ではないが、教授家に居候中の同僚女性講師のマーガレットの存在を無視できない一方で、教授の息子バートランドのガールフレンドクリスティンの美貌にも惹きつけられて、恋慕を抱くことになる。繰り広げられるクリスティンへの心情描写はこれもまた、昔読んだ漱石の「三四郎」に登場する美禰子への恋慕や、同じく「彼岸過迄」に描かれた須永とその従妹千代子の関係が思い出されて、その相似性が興味深い。漱石の煮え切らない結末と違って、こちらの方はハッピーエンドとなるから、文字通り青春・痛快小説ではある。若き男女の間に交わされる心情描写は、洋の東西、時代を超えても変わらないのは当然か。ただ、登場人物の会話とは別に、それぞれが考えていることを、ことこまかく描写している点が判読しにくくて苦労した。事象と違って、外国語表現の心象を正確に理解することの困難さを痛感した。
 推薦度 --- 3.5



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