The Innocent Man




実際に米国で明らかになった冤罪事件に基づいたドキュメンタリーである。民主主義が発達し、取調べや裁判にあたっては被疑者に対しても手厚い人権が法的に補償されていて、手続きを誤ると、被疑者に不利な証拠や証言は無効になることもあると聞いているから、この国でこんなひどい冤罪が田舎の警察や検察官によって作られたとは信じられない。レイプ殺人犯を逮捕できないまま数年が経過し、更に類似の事件が近隣で勃発すると言う状況下で、市民から警察への非難を逃れるためか、警察は現場に残された毛髪や指紋を無理矢理に被疑者のものと断定してしまう。事件から6年後に被疑者は犯行を断固否認するが、この偽の証拠に基づいて死刑判決を受ける。それから12年後、死刑執行目前になって、DNA鑑定の結果、無罪となってめでたく釈放されたのであるが、もし刑が執行されていたらと思うと背筋が寒くなる話である。裁判が行なわれた当時はDNAの技術はまだ存在しなかったので、無罪を信じる善意の弁護士が12年後に有効になったDNA鑑定を申請し、無罪の証明に成功した。刑が確定した12年後でも、再鑑定ができるほど長期に犯罪現場の遺留品が全て保存されて居たのは驚きであり、この事件の場合には劇的な解決に結びついて幸いであった。
10数年前までは毛髪の鑑定は顕微鏡による目視検査で、その特定は非常に怪しいものであったらしい。血液型の判定も唾液や精液では不可能な人がかなりの比率で存在するそうである。今はDNA鑑定で完璧に個人を特定できるようになったから、証拠固めも確かになったが、昔はかなりいい加減に専門家の鑑定を評価していたらしい。また、米国での死刑は我が国の絞首刑と違って電気椅子によるものと聞いていたが、州によっては安楽死に限りなく近付けた薬液注射による方法もあるとのこと、また米国の刑務所での死刑囚への一般的な扱い方も詳述されていて興味深かった。推薦度―4.0



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