IMPROBABLE



未来を予知できる超能力を持つ主人公 David Caine は、彼の脳の化学成分を密かに抽出して、その超能力を利用しようと企む一味に捕らえられる。その彼を救い出すために、旧ソ連KGB育ちという数奇な運命を持つ元CIAの女性エージェントがジェームス・ボンドのように大活躍する痛快SF物語である。単純な追跡救出のストーリーが展開するなかで、主人公が未来予知能力をどうして発揮できるかとの説明に著者の薀蓄が傾けられていて、思わずなるほどと思わされてしまうところが出色である。コインを4回空に投げ上げて、表が2回出る割合は何%であるかという簡単な確率論の解説から始まり、カール・グスタフ・ユングが提唱した、人間の無意識の深層に存在する「普遍的無意識」の作用。量子力学からは「ハイゼンベルグの不確定性原理」「アイシュタインの相対性理論」、はたまた、東洋の仏教や道教の易学では古代から既に事象を物体と捉えずに、全ては移ろうもの、流れるもの即ち、エネルギーのような概念として捉えていたとの引用を土台にして、主人公が我々と違ってどのように未来が予知できるかを解き明かしてくれる。
 世界に起こる事象(出来事)は全て偶然に発生しているもので、予測不可能と思われるが、そうではない。事象は偶然ではなく、必然である。必ず起こり得る理由、原因が存在している。事前にこの原因となる全ての情報を集めることができ、その原因がどう作用するかを解析できれば、未来の予測はできるのである。人間は誰も皆この情報を集めて解析する能力を持っていて、元々、未来を予測できるのであるが、残念ながらその能力には差がある。多くの情報を集めて、それを解析する能力には差があるのである。釣鐘状の形状をした正規分布の図からも判るように、中央の大半の人はほどほどに情報を集めても、十分に解析し切れないから、結局は未来を予測できないのである。正規分布図の左側に少し偏っている人は、全く能力が無い人である。しかし、右側に偏っている人は優れた能力を持つ人である。特に一番右端に僅かな存在であるが、必ず超能力者はいるのである。その一人が、主人公であり、歴史上にはこんな超能力者が何人かはいたと思われている。妙に説得力のあるストーリーである。推薦度―4.0


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