Come to Grief (Sid Halley #3)




 元競馬騎手の異色作家ディック・フランシスの「競馬サスペンス」シリーズの1作。 ハヤカワ文庫の翻訳シリーズはかってよく愛読したが、原作も10年振り2冊目になる。
 主人公シッド・ハーレーは著者と同様、元障害レースのチャンピオンジョッキーだったが、 落馬事故が原因で右腕を失い、義手での生活を余儀なくされたため騎手はやめ競馬関係の 私立探偵として活躍するという筋立てである。
 放牧されている仔馬の足が一滴の血も流さず関節からすっぱりと切り落とされるという 怪奇な事件が連続して起こる。目撃情報も証拠もなく事件の再発が恐れられている。仔馬の オーナーにはもちろん大損害である。そんなオーナーの一人である白血病を患う少女から 犯人探しの依頼を受ける。難病の少女の飼い馬の被害とあってTVのワイドショーで大々的に 報道される。そのコメンテーターはエリスと言ってシッド同様に元アマチュアの競馬騎手で 今は全国的な大人気を誇る有名タレントであり、現役中はジッドと互いに好敵手であったし、 いまも大の親友である。事件を調べていくと、なんとこのエリスが自分の担当するニュース番組 を盛り上げる目的で犯したらしいと判明する。シッドはやむなくエリーを告発するが、別に同様 の手口による事件が勃発するが、エリーがその現場にいなっかとのアリバイが完璧で、過去の 犯罪もエリーであるわけがなく、新聞やテレビはかっての好敵手ジッドが現在華やかな人気を 得ているエリーを妬んでの捏造事件だとして、非難轟々のキャンペーン報道を展開する。 ジッドはそんな非難にもめげず多くの物的証拠を掴んだうえで、一部ジッドの後援者の心配を他所に エリーが犯人であると確信する。ただエリーが犯罪現場にはいなかったというアリバイだけが 崩せないために、裁判の判決は被告が無罪になると思われる。しかし、結局はエリーの父が 彼の犯した前の犯罪を別の犯人と思わせるための起こした犯行であったことがわかって、 エリー自身は逃げられないと観念して自害することとなる。後味の悪い結末である。
 容疑者が擁護され、告発者が非難されるというやりきれないストーリーであるが、 ひとり難病の少女に慕われるシッドが彼女に懸命に尽くす交流の挿話が随所に繰り広げられて、 ほっと一息いれることのできる物語にはなっている。
 推薦度 3.0



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