Water for Elephants
老人が過去を回顧する物語である。老人ホームに暮らす93歳の老人である。車椅子がないと独力で移動ができないだけで、本人は話したり、食べたりすることには不自由のない健康体であるから、ホームでの生活に不満が多い。老人でなく、健常人として扱って欲しいばかりに、世話をしてくれる看護婦たちと、よくトラブルを起こしている。そんなある日、老人ホームのすぐ傍にサーカス小屋がやってきたのを、窓から見て、70年も前の若き日のことを思い出す。
コーネル大学の獣医学部の卒業試験の最中に、両親が交通事故で亡くなったことを知らされる。父は獣医々院を経営していて息子に跡を継がせるつもりだったが、貧しい農家の家畜を診察するので収入は少なく、息子の学費のために多額の借金をしていたことが判る。返済の目処もないことに絶望して、獣医の資格を得ねままに、目の前を通り合わせた移動サーカスの列車に飛び乗ってしまう。幸い、獣医見習いのまま、動物の世話係に採用される。多くの動物を世話をするうちに、そこに生活する人たちと寝食を共にすることになるが、親方は役に立たなくなった芸人や、労役を口減らしの目的で移動列車から追い出すことを知り、一人の不具老人をこっそりと匿って面倒を見てやることに奮闘する。また、動物のトレーナーとその若い妻とも、動物の世話を通して親しくなるが、やがてその妻を密かに恋するようになる。トレーナーは妻が獣医見習いに好意を寄せることもあって、動物や妻を凶暴に扱うようになる。実際は妄想型統合失調症のせいであるが、妻に同情するあまり、トレーナーに殺意を持つが果たせないでいるとき、サーカスから追放されていた労役たちが、サーカスに戻ってきて共謀して、こともあろうにショーの最中にすべての動物たちを檻から解き放った。観客のなかを暴走する動物たちに混じって、彼が可愛がっていた象がトレーナーに繋がれていた杭を振り上げて一撃で殺すところを見てしまう。象をいじめたトレーナへの利口な象の復讐であった。
事件の後、トレーナーの妻と結婚し、5人の子供たちに恵まれるが、今はその妻も亡くなり、一人老人ホームに暮らしている。たまに訪れてくる長男、今、彼も70歳であるが、今日も目の前のサーカスに連れていくとの約束であったが、やって来ない。待ちきれずに、ひとり車椅子を操作して、昔ほど大規模ではないが、それでも懐かしいサーカス・テントに潜りこむ。親切なマネージャーがいて、誰にも話したことのなかった、有名な事件の顛末を彼に話す。
老人ホームには戻りたくないので、マネージャーに「切符のモギリ役」なら今でもできると頼んで、受け入れてもらう。93歳の老人が最後に居心地の良い場所を見つけたところで、物語は幕を降ろした。
推薦度―3.0