A WIZARD OF EARTHSEA


  世界のベストセラー、ご存知「ゲド戦記」である。昔々アースシーの世界には街や村毎に住民の病気を治したり、悩み事を解決してくれる特別の才能を有する妖術使い(魔法使い)なるものがいた。彼らは住民と違って得異な才能を有するが、それでも使える術に差が有って優秀なもの、劣るものと様々な魔法使いが居て、必ずしも皆が万能であった訳ではない。そんな時代に生まれながらの天才魔法使いが出現した。ゲドである。幼時に早くも羊の群れを操ったり、空を舞う鷹を意のままに扱うことが出来た。ある日、村に襲いかかってきた強大な侵略者たちに対しても、魔法の霧を沸き起こすことで彼らの視界を遮り、巧みに追い上げた崖上からことごとく墜死させて、村民の命と財産を守ることに成功する。そんな彼の才能を見抜いた古老の魔法使いによって、魔法使いを育てる学校へ送り出されることになる。ここでもゲドは先輩や級友達に伍して頭角を現す。魔法使いの教授連も彼の学習能力の高さに一目置くことになる。こうして技術的には超一流の魔法使いに成長したゲドは、魔法学校からの指示で目立たぬ遠隔の寒村の魔法使いとして派遣された。一番の仕事は村民を脅かす恐竜の退治であった。ゲドは巧みな魔法の術を使って恐ろしい竜を手なずけることに成功し、二度と恐竜に村民を襲わせないよう約束させて、ここでも村民の信望を得ることとなった。彼は人々の苦しみを救うことにのみ魔法の業を使うことを信条とし、決して悪事に魔法を使うことは無かった。動物ならば全て、獣であろうが、鳥で有ろうが彼に手なずけることの出来ないものはなかった。病気で苦しむ人の治療もできた。風を起こしたり、霧を沸き起こしたりして天候も左右できた、木々や草花にも語りかけることができた。ゲドに出来ないことは無かった。欲しい食べ物、飲み物も自由に目の前に取り出すことが出来た。それでもそんな魔法の呪文で呼び出せるものは所詮は幻覚であるとして、平生はそのような無駄な魔法を使うようなことはなかった。それがゆえに住民からの信頼は一層厚いものとなった。しかし、そんな彼にもどうしても征服できないものがあった。姿、形が曖昧で得体の知れないもの、暗闇以外のところでは、陸上にいても海上にあってもいつも彼に付き纏って何処までも追いかけて来て、常に彼を脅かすのであった。完全を目指すゲドはこの影をも退治しようと決意する。追いかけてくるこの影を、逆に小舟を操って荒海を乗り越え、地の果てまで追いつめて、とうとう彼自身の影をも征服することに成功し、完璧な魔法の使い手であることを体現した。日本昔話の「桃太郎の鬼退治」を思い起こしはするけれども、知らず知らずにファンタジーな世界に引き込まれる物語である。決して日本文学には見られないジャンルと思われる。推薦度―3.5


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