Dreams from My Father



  アメリカ大統領選挙の民主党候補として、大本命のヒラリー女史を大接戦の末に打ち破ったオバマ氏の自伝。世界中から集まった移民による集合体の国アメリカと言えども、最近までは人種差別の壁は厚かった。60年代の公民権運動によって漸く黒人が真に市民権を得てから、まだそれほど時間が経っていない。まだまだ潜在的に差別意識を持つ有権者の多い中、どうして彼がこのような人気を博するようになったのか、11月4日の投票までに、彼の一端を少しでも知っておきたいと、白内障の手術を終えたばかりの不自由な目で、本書にチャレンジした。ケニア出身の留学生の父と米国白人女性の間に生まれた彼は、その両親が早くに離婚したために、彼は父親の記憶がないまま成長をする。長じて、黒人の被差別問題の解決を目指して、差別の無いコミュニティ作りに地域住民や教会と協同で取り組むようになる。そこで色々な不条理を経験したのち、ハーバード大学のロースクールで学ぶが、法律でも乗り越えられない限界を知るようになる。一方で彼のルーツであるアフリカへ、亡き父親の一族を尋ね、父や祖父の生き様を聞かされ、それを通じてアフリカ文化と西欧文化の歴史的背景も理解出来るようになる。父親の姿にダブらせて自らのこれからの生き方に自信が持てるようになる。この書に書かれたような世界観を実現できるなら、彼は米国の大統領のみならず、歴史が要求する偉大な世界の指導者になるかもしれない。この選挙活動を通して ”CHANGE”をスローガンに大躍進を果たしたことが納得できる。アメリカ国民は理想の指導者像を描いているのであろう。人種、民族、宗教、貧富から来るあらゆる差別を理解し、旨く調整し、彼は21世紀のいまアメリカが抱える諸問題を勇気を持って解決してくれると信じるに値する希望の星なのである。この書にある通りなら、彼には政治的野心は全く感じられない。新興宗教の開祖になるかもしれないと思わせる理想主義者である。 推薦度‐4.5


緑陰のくつろぎ | HOME > READING