Merchants od DOUBT
本書は、小説ではない。タイトルに惹かれて、初めて読破したドキュメントである。本書は、一部の大物がアメリカという大国を動かしている恐ろしい陰謀の一端を紹介した書である。マスメディアが決して取り上げない切り口から暴いたアメリカの陰部である。また、このような表現が許されるアメリカの自由に敬意を表したいものである。
冷戦時代、米国政府の中枢で旧ソ連の脅威に対抗して軍備増強、核兵器開発の政策を推進した米国を代表する有名な科学者(核物理学者)たちがいた。彼らは'80年代の後半に旧ソ連が崩壊すると、その活躍の場を別の分野に移して行った。タバコは有害で肺がん罹患の原因になるとの医学的、疫学的な実証結果に基づく禁煙運動が広がると、医学や疫学の専門家でもないのに、タバコ業界の資金援助の下、反禁煙のキャンペーンを展開し、政府の健康規制に反対し大衆を惑わせた。酸性雨が国境を超えて他国にまで被害を広げるという警告には、産業が排出する硫化ガスではなく、火山性の排出ガスの影響が大きいとのキャンペーンを展開し、産業側の擁護に努めて、これまた政府の排出ガス規制への取り組みを遅らせた。オゾンホールの原因になるフロンガスの使用規制にも反対した。そして、いままた、地球温暖化の警告を否定する側の主唱者になっているのである。自然科学には100%確かであると証明しきれないが、多くの事実、データーからその分野の大方の専門家があり得ると認める現象がある。産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度は増大し続けており、その温室効果の所為で地球は温暖化しつつあるとして、世界中の気象学者が将来の地球的危機を訴えているが、一方で僅かな科学的不確かさを大げさに唱えて、環境分野の専門家でも、気象学者でもない異分野の物理学者でありながら、保守的科学アカデミーの重鎮との立場を利用し、それが故に産業界のバックアップを得、国内の主要メディアも抱き込んで、現代では客観的に正しいとされる地球温暖化の学説に異を唱える、過去に科学者と言われた人たちがいる。米国では、地球温暖化を否定するこのキャンペーンの方が、専門分野の学者の警告よりも声高で優勢という奇妙な状態になっているから、政府の施策も依然として温室効果ガス削減に向う世界の潮流に反対したままである。
彼らに一貫する考え方は、環境保護活動は社会主義の自由主義への形を変えた謀略であるとの恐怖感である。自由経済の発展のためには、政府が業界(民間)に強い規制をかけてはならず、科学技術の発展により問題は解決されるべきだと主張している。一面尤もであるが、ここまで客観的な科学を否定していいものだろうか、社会主義が崩壊した今。これは自由主義の行き過ぎた横暴ではないだろうか。科学技術が発展途上で、問題の解決が遅れる場合には、ときに規制で急場を凌ぐのも人間の英知であると思うのだが。
推薦度―5.0