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  SFとホラーの入り混じった物語であり、余りに現実離れした描写が続くので、情景を想い描くのに苦労した。独特の表現と特有の単語の使いまわしに慣れるのにまた苦労した。
 パソコンはヴィールスやバグに侵されると、ハードディスクが納まったただの箱に成り下がる。そんなハードディスクも初期化して、OSやバックアップしておいたプログラムを再インストールしさえすれば、パソコンを正常に再起動することが出来る。
 ところが人間の脳をパソコンのシステムに例えるとどうなるか?人知れずインターネットやメールを通してパソコンにヴィールスが侵入するように、ある日、テロリストかもしれない悪意のある何ものかが、携帯電話の電波に人間の脳に障害を与えるパルス信号を密かに忍ばせて発信したらどうなるか? 携帯電話を使用したひとは、この有害なパルス信号を意図することなく自動的に受信することとなり、パソコンがヴィールスに侵されるように、人間の脳に蓄積されていたあらゆる機能(行動力、思考力、判断力)や知識、観念を消されてしまうのである。脳のシステが破壊されて廃人となった人間は狂人と化し、破壊と殺戮を行なう暴徒と化す。元の正常な人間に戻るために失ったシステムをパソコンのように果たして再インストール出来るのか?
  現在、我が国の携帯電話の普及台数は既に1億台を超えていると言う。普及し始めの頃、携帯電話の使い過ぎは、電磁波によって脳に健康障害を与えるとの注意を喚起していたことが思い出される。今ではそんなことを言う人はいなくなっている。でも、昨今の狂気染みた凶悪事件に関する数々の報道を聞くにつけ、携帯電話の悪影響がこの物語ほどでは無いにしても、現実にも似たような事件が起こりつつあるのではと思わざるを得ない。携帯電話が普及してからまだ10年足らず、そんな悪影響を思わせるデータを現実には誰も調べていない。でも、この物語を読むと、恐ろしいことが起こりつつあるとの警鐘を与えられたような気になって、身が凍る思いになった。 こんな悪影響の発想は近未来的現実性を想起させて興味を引いたが、脳を侵された暴徒集団の異様な行動の描写が多過ぎて、物語の展開の遅くした点が難。推薦度―3.5


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