IS THE AMERICAN CENTURY OVER ?



 第2次世界大戦開始以降、特にその終戦後、ソ連との冷戦時代も含めて、20世紀の後半を半世紀以上にわたって、世界秩序の維持に強大な影響をもたらしていた米国の指導力・強権力が衰退しているのではとの疑念に、依然として、米国は衰退していないと反論している書である。
 著者は'70年代後期の民主党カーター政権で国務副次官、'90年代半ばに同じくクリントン政権の国防次官補を務めた、元政府高官であり、米国の外交と軍事政策のスペシャリストである。従って、まさに「米国の世紀」の中枢で政権運営に携わってきた自身の自信に溢れた回顧録になっている。米国、未だ衰えず、衰えるはずがないと云う願望的な表層論であり、将来の世界秩序はどうすれば保たれるかの具体論がない。もっとも、このことが現在の世界が混乱している原因であり、米国の指導力の衰退していると言われる所以であるのだから、「米国の世紀」は終わらないとの結論には納得出来ない。
 21世紀は、20世紀の冷戦構造がもたらした米国−ソ連の二極対決状況とは異なり。米国一極支配との様相を呈しているかに見えるが、あに図らんや中国の台頭がめざましく、その脅威論は不気味である。
 強大国たる資格を有する条件として、国土の広さ、人口の多さ、経済力の大きさ、軍事力の強さをあげて中国の脅威と対比させて、米国の優位性を論証している。経済力はGDPにおいて、米国に迫る勢いで世界第2の経済大国であるが、国民一人あたりの所得では遠く米国に及ばない。経済規模は大きくても、付加価値の高い生産性は相当遅れている。将来の人口傾向は一人っ子政策の影響で、今後労働力の供給が低下するという危機にも直面している。米国は移民による多国籍国家であるから、人国構成で高齢化を心配しなくても良い唯一の先進国である。むしろこうした海外から移入した人たちの活力が米国経済活性の源泉であることが強みである。また、米国は金融運営でも洗練された手法を駆使して世界の金融界をリードできている。経済成長に合わせて、中国の軍事費は増大していて、2020年にはアメリカの軍事費の半分ぐらいに、世紀半ば には同額となると予想するが、その装備は、米国に比して旧式であるから、当分は米国の軍事力には叶わない。でも、中国はこの強大な軍事力を誇示して、周辺のアジア諸国に支配を及ぼそうとの野心に溢れているが、こうした動きには米国と日本。インド、豪州等との同盟が一層強化されることとなり、逆に中国を牽制する抑止力になるとの見解を披瀝している。
 しかし、自慢の洗練された金融手法は、経済力の退潮を防ごうとする大国の奢りと、焦りから、サブプライムローンという悪徳商法まがいの手法を生み出し、リーマンショックに始まる世界的な金融危機を招いたことへの自戒が無く、米国への信頼が揺らいでいる主因になっているとの自覚が全くない。
 また、軍事の同盟強化は、単に経済力の基盤が弱まって、十分な軍事費を調達できないので、他国に負担を強要しているにすぎない。このような同盟にいつまでも拘るのは、日本だけではないだろうかと、不安を感じる。他方で、現代の世界が抱える様々な諸問題ー金融危機、気候変動、テロ、疫病、インターネットの障害になるサイバー攻撃等ーには、軍事力では対応が出来ぬことも認めているから、強大な軍事力を保持する現代的合理性の説明に欠けている。
こうした現代の諸問題への解決は従来の強大国の力量のみでは無理であり、G20のような多国間の協調が欠かせないとの結論であるが、現実の政治はこのような機関の合議で何一つ解決していないから、否、むしろ問題を拡大しているから始末に終えないのである。
 米国自身も多くの問題を抱えていることも事実である。財政赤字、中等教育のレベル、収入の格差拡大、政治の行き詰まり等である。他方でリーダたるべく長所も数多くある。地政学的独立、人口動態、科学・技術の先進性、エネルギー、起業化精神の進取性等である。これらの長所があるかぎり、米国の世紀は終わらないとの結論は、夢物語のような気がしないではない。最近の日本凋落に対して、日本はここが優れているとの話が増えているのと同じ脈絡で危険を大いに感じるところである。
 読み終えても、矢張り、米国は危ない。
 推薦度 3.0



緑陰のくつろぎ | HOME > READING