Rust: The Longest War




   人類は紀元前から鉄器に馴染み、身の回りの様々な生活用の器具・機器、車、 建設資材、電気・通信ケーブル、石油や水道の輸送管、航空機、戦艦等、生きていく上で欠かせ ない有益な金属材料として利用している。しかし、その重大な欠点は宿命的な「錆」である。 錆は当然のことと受け止められ、日常の生活では大きな関心を持って錆に取り組むことはない。 学術的にも土木、建築、電気、機械、化学などという大きな分野に分類されているわけではない。 それぞれの分野の材料学の一分野としてごく少数の研究者が錆のメカニズムや防食手段の開発に 地味に取り組むニッチな研究テーマである。本書は、そんな鉄の「錆」にスポットライトを当てて、 科学的知識のない一般読者を興味深く引き込んでくれる。
 ニューヨークの自由の女神の修復事業での防食技術。ステンレス鋼開発秘話、国防総省では戦艦、 戦闘機、ミサイル、等の武器が錆による被害で毎年数兆円も無駄にしているため、防食の維持管理 に懸命に取り組まねばならないこと。飲料水等の食品用のアルミ缶の腐食防止に使う樹脂コーティ ングが、環境ホルモンとして重大な害毒が疑われること。北極圏のアラスカで採掘された石油を 長いパイプラインで輸送するに際しての錆びによる漏洩を防ぐためのメンテナンスの苦労話など、 普段我々の目に触れないエピソード幾つも詳しく書いて、興味が大きく膨らむ。もっとも、それぞれ の話題が本題と異なるところまで冗長に拡がる部分もあるが、著者の資料探査の精度をの証左で ご愛嬌としておこう。
 私が一番興味をひいたのは、飲料水(コカ・コーラ)は長らくガラス瓶詰めであったがために、 よく破裂して失明等の重篤な障害を引き起こし、その欠陥が故に裁判で高額の賠償金を要求されて いた。軽くて丈夫な素材としてアルミ缶が開発されるが、内容物の性状でアルミ缶は腐食する。 これを防ぐために、内面を樹脂でコーティングする技術が開発されるのであるが、この樹脂の主原 料であるビスフェノールA(BPA)が有害な環境ホルモンであるが、そのリスクを製缶・缶詰メーカー は認めていないということ。ここでは著者は少なくとも妊婦は肝飲料水は飲むべきでないとはっきり 警告している。自動販売機から手軽に入手できる清涼飲用水を愛用するものとして、背筋が寒くなる 話である。
 推薦度 4.0



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