Jurassic Park




  近年著しく発展した最先端の遺伝子工学を活かすべく、野心家が世界中の投資家から 基金を募って財団を設立する。中米コスタリカの孤島を手に入れ、遺伝子工学、コンピューター技術、 古生物学者、動物園管理者、獣医師、数学者等の叡智を集結させて、古代の恐竜を蘇らせた「テーマ・パーク」を建設した。
 財団設立者の持論は、遺伝子工学は医学・医薬の分野で貢献するべく様々な研究が進められているが、 この成果を確実にするには、生命への安全基準に照らしていろいろと制約があり、これをクリアしよう として、多大の投資と長年の研究が必要になるから、その利益を享受するのは困難である。ところが この遺伝子技術を使って古代の恐竜をクローン(生きた標本)化できれば、テーマパークとして公開 して、投資に見合う多大な利益を得られると信じて、見事に実現させたのである。様々な種類の恐竜 が我々の目の前を生きた状態で、サファリパークのごとくに電動自動車から観察できるのである。 各個体は中央管理室で遠隔にその状況が監視されていて、万一の危害も予知できるようになっていた。 素晴らしい出来栄えで、投資家も満足で、公開間近と準備万端整った矢先であった。主だった専門家 たちが招待されて公開準備中の場内を見学しているときだった。ひとりカオス理論が専門の数学者が、 このようなテーマパークが目論見どおりに成功するはずはなく、必ずなにかしら問題を引き起こす だろうと予測する。その予想が的中したが如く、招待客が場内を見学中に、にわか嵐が島を襲ってきて 全ての電源が喪失する。見学用の電動自動車は停まり、監視室のコンピューターシステムも作動停止。 完全にコントロールが失われた中で、恐竜を囲っていたフェンスの電流ショックも切れて、恐竜は場外 に自由に出歩くこととなり、雷鳴の轟・閃光の衝撃から凶暴化し、次々に見学者や一部従業員に襲い かかる大惨事となった。凶暴化した恐竜から逃げ惑う人たちの危機一髪の逃亡惨劇がアクション・ドラ マさなながらに繰り広げられ、はらはらドキドキする活劇担っている。
 凶暴化した恐竜と対峙するSF活劇が主テーマではあるが、これは技術革新の進化する現代への警鐘 である。遺伝子技術を誤用すれば大惨事を引き起こすし、コンピューターが作動しなくなれば、我々の 活動はコントロール不能になる。本書では以下のような含蓄を数学者に語らせている。「科学の力を 安易に利用するのはは駄目だ。手っ取り早く稼げるとか、人に先んじて名声を得たいとの考えだけで 利用するのは邪道だ。新しい試みが悪用ではなく、害も及ぼさないということが明らかになるくらい にまで長年苦労して成熟させるのが肝要だ。いままでの方式を無視してはならない、自然の摂理に謙虚 で逆らってはならない。科学は十分に熟達してから活用されねばならない。」「自然(世界)は予測 できない様々な要素が影響しあって複雑なシステムを形成している。単純化したイメージを創造して 複雑なシステム(世界)を理解したと勘違いしては行けない。我々は、先ず予想だにできないことが 起こることを常に理解していなくてはならない。」「我々の世界は何十億年を経て、自然に緩やかに 変遷してきた宇宙である。急激な変動というものが度々あってはならない。パラダイム・シフトなる ものは1世紀に1度もあれば十分である。」
 推薦度 4.0



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