コラム

社員の化学日記 −第79話 「身近なものは特異?」−

昔,水の様な物質はなかなか無い珍しい物と聞いたことがあった。しかし水に対して珍しく特異な物質だという認識は生まれにくい。 それは,海に行けば当然海水という水があり,山にも川には水があり,空から水が雨となり降り,水道の蛇口を捻れば当然のように水が出てくるように, あまりにも身近にありすぎて,そしてあまりにもその存在や性質に慣れ親しんでいる為だろう。

しかし,水は大変身近でありふれている物質であるが,水に持つ性質は大変特異で珍しいものである。

まず水は何でもよく溶かす,中学時代の理科の先生は水の様に何でも溶かしてしまう物質は他にはないとい言い,水の持つ特異性を語っていた。 水には物が溶ける,さまざまの物が溶ける,海水には塩化ナトリウムをはじめ,60種類以上の元素が溶けているし,雨には二酸化炭素,硫黄化合物,窒素化合物などの気体が溶け込んでいる。

このようにさまざまな物質を溶かしてしまう働きを持った物質は,非常に珍しく,身近に触れることのできるもでは,水以外ないであろう。

この特異な性質をもった水であるが,水素2個と酸素1個が共有結合した電気的に中性な簡単な分子である。 しかし,水分子の水素は電気的にプラスに帯電し,酸素の部分はマイナスに帯電しており,電気の引力を持っている。 この電気の引力により酸,アルカリ,塩類そしてタンパク質,アミノ酸,糖類など物質自身の中に帯電した部分が引き合い結合する。 そして水分子自体が電気の引力により,引き合い結合すると常に運動,変化している塊が生まれ,他の物質を運動の中に巻き込み離しにくい性質を持つようになり,より他の物質との結合を促すようになる。 この他の物質と結合が溶けるということであり,水の何でも溶かしてしまう能力は,電気の引力によって引き起こされているである。

この電気の引力によって他の原子との結合する作用を水素結合といい,そして水分子自体が水素結合した運動性を持つ塊を水分子クラスタ−という。

水の持つ何でも溶かす力は,水の水素結合なのであり,水の持つそのほかの特異な性質(融点が高い,沸点が高い,表面張力が大きいなど)も水素結合が関係している。

あらためて,水のことを考えると,物質を溶かすこと以外にも,融ける時に収縮したり凍る時に膨張したり他の物質には無い特徴がたくさんあることに気づかされる。 身近すぎる為に特異な現象もあたりまえのようにとらえてしまっているのだろう。

水には,常識的なことや,当たり前で何も考えず通り過ぎてしまう様なことの中にも,当たり前じゃない,常識的ではない,特異なことが内在していることがあることを教えてくれた。

【白色林檎(ペンネーム)】

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