コラム

社員の化学日記 −第37話 「色について」−

以前テレビで朱肉を使用した印影は長期に渡って色褪せをおこさず色鮮やかな状態を保ち,スタンプインキだと紫外線などで印影が消えてしまうとい実験を放送していた。

朱肉で捺印した印影は長期保存が可能であるという事らしい。

原料を調べてみると,硫化第二水銀(HgS)や酸化鉄(Fe)などの無機顔料を使用している。この無機顔料は,水や有機溶剤に不溶であり,有機顔料に比較して耐熱性や耐光性に優れているのである。

そのため長期保存の必要な契約書や,手形や小切手は無機顔料系の朱肉を使用するのであろう。 印影が消えてしまって手形の決済が出来ないとなれば大変である。

また,無機顔料は,油絵の絵の具にも使用されており,硫化カドミウム(CdS)や酸化アンチモン(Sb)など劇物に指定されている物が主原料な物もある。一見有害と思われる硫化第二水銀だが,ほとんど水に溶けず,酸にも熔解しないため「毒物及び劇物取締法」では,普通物として扱われる。

幼いころ油絵の絵の具を素手で触ってはいけないと,絵描きに叱られた覚えがあるが,当時は絵の具に毒が存在するとは思いもしなかった。

人間の寿命を縮めてしまう毒が,絵や印という形で長期に渡って色褪せず人の営みを記録していくとは不思議なものである。

【白色林檎(ペンネーム)】

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