コラム

社員の化学日記 −第176話 「白金触媒利用の暖房器具」−

今年の冬はとても寒く感じた。

暖かい日も多々あったので平均気温から判断すると暖冬だったと思うが。

10代から20代の頃は(50年程前になるが)道を歩いていても(当時はアスファルト道は少なく土の道でした)水たまりが凍っているのは日常だったし、一冬に数回は雪が積もることも普通の光景であったことを考えると、気温が上昇していることは明らかなのに体感は数倍寒く感じる。

小学生が半ズボンで元気よく通学しているのを見るたびに自分の年齢を感じるが、加齢に加えて環境が良くなり快適生活に慣れたことも影響していることは明らかでしょう。

外出時での暖といえばほとんどの人が利用しているホッカイロ、密閉袋から取り出して空気中に置いておくと暖かくなるあれです。

このホッカイロも化学からの贈り物と知っている人が少ないことが意外です。

後述するハクキンカイロも含めて以前のコラムでも何度か話題にしましたが、ホッカイロは鉄Feが酸素Oとくっついて酸化鉄になるときに発せられる熱(いわゆる発熱反応)を利用しているものです。

簡単な化学式は《2Fe+O2→2FeO+熱》多くは《4Fe+3O2→2Fe2O3+熱》となります

(メーカーのホームページには、実際のホッカイロの反応は《Fe+3/4O2+3/2H2O→Fe(OH)3+熱エネルギー》になり酸化鉄ではなく水酸化鉄になると説明されていました。

この式は『化学反応式を書くときのきまりは原子、分子の数は整数で』と教えられた者にとっては納得いかない化学反応式ですが)

殆どの人が利用しているホッカイロですが50年前はもちろんそんな便利なものはありませんでした、エアコンなるものもなく各家庭では火鉢、炬燵が主流、字のごとく炭を燃やして暖を取るもの(炉)でしたが、現在の炬燵は発熱体に電気を流すものになっています。

外出するときも「カイロ灰」がありました、木の灰を燃やして暖を取るものですが、僕がはっきり覚えているのは「ハクキンカイロ」、字のごとく化学元素の白金Ptを利用した懐炉です。

白金Ptと聞くと身に着ける貴金属、金、銀、白金といわれる人が多いと思いますが 医療関係では薬(一時は「シスプラチン」として癌の特効薬になると注目を浴びました) 我々化学を生業としている者は触媒としての働きが頭の中に浮かんできます。

このカイロの仕組みは、(ホームページの初期段階のコラム記事で少し触れられていましたが) 燃やした熱だけを利用するのではなく、白金Pt触媒の発熱を利用するものです。

有機溶剤ベンジンを燃料として使いますが、ベンジンの気化ガスを白金Ptに触れさして発生する熱を利用しています。ホッカイロが出てきて需要も激減しましたが、鉄くずが出るので無駄を見直そうというエコ意識のおかげで再び脚光を浴びているらしい。

又 この触媒技術は各方面で利用されています。

軍事用やオリンピックの聖火を運ぶのに使われていたらしいですし、今も火災報知器(機)の点検道具に使われているとのこと。

問題は燃料としてのベンジンは有機溶剤なのでわずかですが二酸化炭素CO2も発生しますし、においを敬遠する人も多いということです。

なのでハクキンカイロも無臭の水を燃料にできるならと研究を重ねていると聞きます。

車もガソリンから電気、水素といったものに置き換わろうとしています。

何でもかんでもスマートホン一台あればたいていのことはできてしまう時代、そのうちに発熱機能付きスマホなるものが出てくるんじゃないかと楽しみにしている毎日です。

令和5年2月 【今田美貴男】

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