コラム

社員の化学日記 −第124話 「現代の玉手箱」−

地球上の生物はどこから来たか?

という問に 40年程前は「地球の大気に雷が当たって有機物が発生した」という事柄が実験的にも確かめられ,ほぼ間違いないと考えられていました。

時代の経過とともに,「宇宙から生物の源が飛んできたんやで」という飛来説の支持が増え,雷説を上回りつつありました。 しかし最近日本で新たな可能性が見つけられ注目されています。

【深海熱水噴出孔】と呼ばれ,深い海の底に高温の水が噴き出る穴があり,その穴の周りから生命が生まれた可能性が大であるということ。

この穴で電気が発生していることを発見したことから,一躍深海からの生命誕生説が有力になりました。 「電気エネルギーのおかげでいろんな反応が起こって命のもとが作られたんやで」ということです。

生物をつくっている有機物は炭素Cが主成分で,植物は二酸化炭素CO2から作っています(光合成)が, この炭素を実験室で作り生命誕生が海底で起きたことを証明する実験が進められています。

この反応に必要な酵素は当時の地球上にはないと考えられているため,上記噴出孔の周りに発生する金属硫化物が酵素の代わりになると考え, 硫化カドミウムCdSや硫化モリブデンMoSを触媒としてアンモニアNH3(生体分子ができます)や炭素化合物を合成しています。

この研究は日本チームが世界をリードしているらしいですが,日本発といえばもう一つ,「はやぶさ2」。

つい最近,「はやぶさ2から投下したロボットがりゅうぐうに着陸成功」と発表されました。 元祖はやぶさ(1?)は紆余曲折の末,イトカワという小惑星から地球に戻ってきました。 でも持って帰ってきたものはほとんどなく,惑星表面のチリが少しだけ。 しかしこのチリを阪大が分析した結果が,今年8月7日付けの英科学誌電子版に発表されました。 「太陽系誕生初期からの経緯が明らかになる」とされています。

「はやぶさ2」は初代はやぶさの不良部を改良して新しいものを打ち上げ, 地球からはるか遠いところを飛んでる直径900mの小さなかけらを目指し無事到着しました。

このかけらの一部を地球に持って帰ってくれることが大いに期待されています。

しかも今回は地表の物質だけでなく,太陽系誕生時の状態により近い地下の物質も採取してくれることになっています。 イトカワから持って帰ったサンプルと違って,有機物や水分子などが存在していると期待されています。

この小惑星は名前を[りゅうぐう]といい,浦島太郎の物語から命名されました。

となると持って帰ってくる予定の物質は玉手箱。

地球になぜ水があるのか?

我々のご先祖はどうやってきたのか?(前述の生命誕生)等,この玉手箱から,初代はやぶさからの研究をはるかに超える成果が期待されています。

【深海熱水噴出孔】は海の底なので,竜宮城本家,対して【はやぶさ2が到達した小惑星りゅうぐう】は,空のはての竜宮城分家と言えるでしょう。

海の底からと,空のはてからの玉手箱,生命の源はどちらから?太陽系の源は?

この研究,くれぐれも煙になって消えてしまわないことを願っています。


参考資料: 新聞,雑誌各種

平成30年10月
【今田 美貴男】

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