コラム

社員の化学日記 −第12話 「日本刀と化学」−

日本刀は,日本が誇る文化財のなかでも,特に価値の高いものとして位置づけられています。虎徹,菊一文字などは,素人の私でも聞いたことがあります。
   刀にもよりますが,一般的なもので刀身はおおよそ70cmほどあり,手に持ったことのある方ならご存知かもしれませんが,意外に重たく,扱いにくいものです。考えてみれば刀とは鉄の塊ですから,切れ味は無くとも振り下ろせば十分に凶器となりえます。その昔,サムライの時代にはこれを振り回し,真剣勝負をしていたのですから恐ろしい話です。

さて,この日本刀ですが,どのようにして生み出されるかご存知でしょうか?そこには「化学」が隠れています。主成分はもちろん鉄(Fe)です。これを熟練の刀匠が熱し鍛え形成し研磨し,気の遠くなるような工程を経て,一振りの魂が生まれます。
   原料として使用される鉄(Fe)も,含有される炭素量(C)により,刀に適すもの,適さないものがあるそうです。

炭素が0.03%以下のもの    一般的にいう鉄(Fe)です。柔らかく常温で伸ばすことがで
                                          き,刀の背骨部分(心鉄:しんがね)に使用
   炭素が0.03〜1.7%          鉄よりも強度があり,鋼と呼ばれます。熱することで伸ばす
                                          ことができ,刀の刃の部分(皮鉄:かわがね)に使用
   炭素が1.7%以上           強度があるが,脆い。熱しても伸ばすことが出来ず,刀の原
                                          料としては適さない。

日本刀の性能で重要な点は、\泙譴梱曲がらずよく切れるということが言われます。これらの性質を、すべて一度にかなえる金属があったなら、日本の造刀技術は今日ほど進歩しなかったでしょう。

\泙譴梱曲がらずよく切れる,これらは一見,硬い金属であれば条件を満たすように思いますが,実はそうではありません。

想像してみて下さい。目の前に,ガラス製とゴム製の刀があるとします。
   折れないのはどっち?と聞かれたら,どう答えますか?
   もちろん,刀の太さや折る条件にもよりますが,普通ゴムは折れません。でもガラスは叩きつけると折れてしまいます。すなわち,折れないためには柔らかさが必要になります。

逆に,曲がらないのはどっち?と聞かれた場合,ガラスと答えますよね。当然ゴムは曲がりますから,曲がらないためには硬さが必要なのです。

よって,折れない,曲がらないを実現するためには「柔らかさ」と「硬さ」という矛盾する性質を兼ね備えた物質が必要になるわけです。

そこで,刀匠は「柔らかい鉄」と「硬い鋼」を貼り合わせることを思いつきました。
   刀の背骨の部分には,打ち込んだ衝撃で折れないように柔軟性のある鉄を使用し,刃の部分には硬い鋼を使用しました。そうすることで刀は折れず曲がらず,鋭い切れ味を維持することが出来るようになりました。

また,刃に使用する鋼にも,工夫がされています。それは鍛錬と呼ばれる工程で,鋼を赤熱させて溶かし,刀匠が火花を散らしてハンマーでガンガンやるあれです。
   一枚の鋼を板状に伸ばし,二つ折りにしてから,また溶かして叩いて板にして二つ折りにして…,という作業を15回ほどするそうです。すると,はじめは1層だった鋼が,2層になり,4層になり,8層になり,15回後には33000層という層になり,より強靭な鋼になります。また鍛錬には,鉄に含まれる硫黄(S)などの不純物や,余分な炭素(C)を除去する働きもあります。

刀に刃をつけたら,次は焼入れという工程に入ります。熱して赤熱した刀を,水に入れてジュッとやるあれです。鋼は高温の状態ではオーステナイト組織という状態を取っており,それを水に入れて急冷することで,マルテンサイト組織という硬い状態に変化します。刃の部分はより強度を増し,切れ味鋭くなるのですが,このままでは硬いが脆いという欠点が残ります。そこで,ここから焼き戻しという工程に入ります。一定時間熱をかけて赤熱した刀を,今度はゆっくりと冷ましていきます。
   こうすることで,硬さを保ちつつ,ある程度の柔軟性を得た刃が出来上がるわけです。それから研磨等々の工程を経て,やがて刀が生まれるわけです。

今でこそ,インターネットでこれらの情報は簡単に調べられますが,昔の刀匠はこれらノウハウを経験則だけで築き上げたのですから,すごいですよね。刀には魂が宿っているという話をよく聞きますが,それも納得できます。

以前,日本刀と拳銃,どちらが強いか?という番組をテレビで見ました。固定した日本刀に拳銃で弾を撃ち込むというものでした。結果は,日本刀の勝ち。弾丸は真っ二つに分断され,しかも日本刀には刃こぼれなしというほどの圧勝でした。その後,刀匠は「日本刀とはそういうものです。」というセリフをサラッと残していました。あまりにカッコよくて鳥肌が立ったのを覚えています。

日本の技術が世界中で認められることは,大変誇らしいことです。しかし,日本刀も今でこそ文化財としての価値が認められていますが,本来は争いの道具として開発された武器ですから,切れてナンボの代物だったはずです。ダイナマイトを開発したノーベル然り,技術の進歩,発展の影には多くの犠牲や争いがあるようで,複雑な気持ちでもあります。
   これからの化学技術が,争いの上に発展していくのではなく,人々の平和のために発展していくことを祈っています。
   さあ日本の技術者の皆様!!化学技術の発展には実験は欠かせませんよね。「三津和」の製品をたくさん購入して,どんどん実験して,世界平和のためにがんばりましょう。

【くぼてつ(ペンネーム)】

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