コラム

日本の四季を化学する−第4回 お月見の化学−

9月には入り,朝晩はかなりすごしやすくなってきましたが,秋雨前線の影響であいにくのお天気が続いています。 さて今月のコラムは,9月といえば”中秋の名月”,”お月見”ですので,今回はお月見を化学しましょう。

1)お月見の起源

月 曇りの合間をぬって撮影したので満月は撮影できませんでした・・・。

秋になると夜は気温も低下し,空気も乾燥するため観月には最適の時期といわれています。旧暦の8月15日(新暦の9月)は,秋(旧暦7月〜9月)のちょうど中頃なので「中秋」といわれ,この時期の月は「中秋の名月」ともいわれます。お月見は,旧暦8月15日の夜(十五夜ともいう)に月が見える場所にススキを飾って,団子や芋などをお供えし,その年の豊作を祈る行事です。

中国でも中秋のころ,月餅(ゲッペイ)という中華饅頭をつくって月を愛でながら家族とこの饅頭を食べるという風習があり,これが平安期に日本に伝わったときに月見団子にかわったといわれています。日本でもその自然崇拝から月を愛でる習慣が縄文時代からったといわれ,平安期には貴族による月見の宴や水面に映った月を愛でる舟遊びなどが行われました。

2)月の魅力と魔力

日本,中国などの東洋諸国では昔から月を愛でることが習慣としてあったらしいが,月は陰の象徴であり,美しいものとしてとらえられていました。一方,西洋では人の狂気を誘う神秘的なものとされ,狼男伝説,魔女や黒ミサなど月は闇の世界に浮かび,一種の魔力をもった存在とされていました。ラテン語で月を表す「Luna」を語源とする英語の「Lunatic」は「狂気じみた」という意味があります。

またギリシャ神話にでてくる月の女神セレネは,原子番号34のセレン(Se)の語源となりました。これは周期表で,地球を表すTellusを語源とするテルル(Te)の真上に位置し,テルルのあとに発見されたことにちなんだためだそうです。

3)かぐや姫は月世界の犯罪者?

月といえばよくたとえられるのが「ウサギの餅つき」。月の黒い模様になって見える部分が一匹のウサギが餅つきをしているように見えます。この黒い模様い見える部分は「海」といわれる部分で,実際は玄武岩(SiO2:45〜52%)の濃い色の平原部分を指します。「海」といっても月面は空気がなく真空状態で,もちろん水も存在しないので,海水を湛えているわけではありません。

最初に月の海を発見したのは天文学者のケプラーで,天体望遠鏡で月を観察していたときに,月面に暗い部分があることを発見し,海水を湛えた地球と同じような海と勘違いして「海」と名づけました。現在,月面では静かの海,豊かの海など23の「海」が命名されていますが,米ソ冷戦時代にはアメリカのアポロ11号が1969年7月19日に初めて人類を乗せて「静かの海」に着陸することに成功し,ニール・アームストロング船長が人類として初めて月面に降り立ちました。当時,月面を歩く様子は全世界に中継され,「鷲は舞い降りた。」「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ。」などの名言を残しています。

また,日本では月は民話の世界にもよく登場します。「竹取物語」はその典型例で,年老いた竹取の翁が竹の中から女の子を見つけて育てますが,成長した女の子(かぐや姫)は実は月の世界の人間で,育ててくれた老夫婦との別れを悲しみながら月の世界へ帰っていくというお話。御伽噺として語り継がれてきた「かぐや姫」ではかぐや姫は月世界のお姫様で,大人に成長するまで人間界へ預けられていたという設定であったように思いますが,では何のために人間界に預けられていたのでしょうか? 原作の「竹取物語」には月からの使者のセリフで以下のような記述があるそうです。

「かぐや姫は罪を作りたまへりければ(現代語訳:罪をお作りになったので)、かく賤しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。罪の限り果てぬれば、かく迎ふるを(現代語訳:罪の償いのために下界に下った期間が終わったからこうして迎えるのに)、翁は泣き嘆く。」[参考文献2)より抜粋引用]

すなわち,かぐや姫は月の世界での生前の罪を生まれながらに背負ってしまい,その罪を償うために人間界へ一時追放されてしまったのです。でも,かぐや姫はどんな罪を犯してしまったのでしょうか。原作者はどのような世界を想像していたのでしょうか?まさか月世界が空気も水も存在せず,音もしない無機的な荒涼とした世界が広がっているとは想像もしなかったでしょう。

4)月より団子

グルコース
グルコースの構造

もう一つ,お月見といえばきっても切り離せないのは団子。団子は米の粉に水やお湯を加えてこねたものを蒸したりしたものを小さく丸めたもので,原料となる米の主成分であるでんぷんの性質を利用した加工食品です。

でんぷんは糖類の一種であるα-グルコースが酸素により架橋された高分子化合物で,2次元的な構造の違いによってアミロース(直鎖状の構造)とアミロペクチン(枝分かれした構造)に分けられます。もち米のでんぷんはアミロペクチンからできており,アミロースは全く含まれず,この枝分かれ構造がお餅をついたときの粘りの主要因となります。

アミロースの構造 アミロースの構造(直鎖状)

でんぷんはグルコース水酸基同士の弱い結合により結晶構造を保っているため,通常は水には溶けませんが,でんぷんの懸濁液に熱を加えるとでんぷんの結晶内に水が入り込み,最終的には結晶構造が崩壊して透明で粘性の高い液体となります。これを糊化といい,葛湯(くず粉)や中華料理で片栗粉(通常の市販品はジャガイモでんぷん)を使ってとろみをつけたり,ご飯が炊けるのも糊化現象によります。天然の結晶構造をもったでんぷんをβ-でんぷん,結晶構造が崩壊して水中に自由に分散,溶解しているでんぷんをα-でんぷんといいます。

この糊化現象は常温であってもアルカリで処理すると起こります。幼稚園や小学校で使った文房具のうち,黄色い容器の”ツボ糊”を覚えてませんか?(商品名は確か「フエキ糊」だったように思います。中身がなくなると,先生が一抱えもあるような大きな詰め替え用サイズの糊から,しゃもじのようなヘラを使って糊を補充してくれたのを覚えています。)実は半透明の糊はでんぷんを糊化させたものが主成分だそうです。

熱で糊化したでんぷんを逆に冷却すると徐々に白濁し,水を遊離して不溶性となります。この現象を老化といい,出来たてのやわらかいご飯や団子を放置しておくとだんだん硬くなってくるのもでんぷんの老化によるもので,スピードは違いますが人間が年を重ねるごとに老いていくことと似ています。

※参考文献

1)「月の魔力」アーノルド・L,リーバー,東京書籍(1996).

2)Webサイト「竹取物語の部屋」
   (http://oak.zero.ad.jp/teru/gakusyu/taketori/index.html)

3)「生物化学序説」泉屋信夫 他,化学同人(1987).

4)「生体高分子−その機能とモデル−」井上祥平,化学同人(1984).

5)「澱粉科学の事典」不破英次,朝倉書店(2003).

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