ついた……?


 思えば、あの時から、全ては運命づけられていたのかも知れない。
 この不況の折、早々に職に就けたのは幸運だった。面接の際の折り目正しさが、面接官の目に付いたようだ。
 しかし、あの課長の下につけられたことで、幸せな気分はぶち壊しになった。やり手のキャリアウーマンだかなんだか知らないが、俺から見ればただの嫌みなヒス女でしかない。なるべく感情を表に出さないようにしていたつもりだが、そんな態度が鼻についたらしく、つまらないことでねちねちと文句を付けられる日々が続いた。
 いつしか、この女に対する殺意が、俺の心の中に住み着いた
 その日は課長が夜勤で、かなり遅くまで会社にいることは事前に調べが付いていた。俺は同僚がみんな家路についた頃を見計らって、再びオフィスを訪れた。
 課長はやはりいた。他のものよりも一回り大きく立派な専用の机につき、何かの書類に目を通している。俺が入ってきたときに、一瞬怪訝な表情を見せたが、
「ちょっと忘れ物をしまして」
 と、平然とした顔で嘘を吐くと、いつもの人を小馬鹿にしたような目つきで俺を見た。
 それまで、冷静に事を運ぼうと考えていた俺だったが、あの高慢ちきな眼鏡の向こうからよこした視線を正面から受けた瞬間、怒髪天を突いた
 俺はつかつかと課長に歩み寄った。ただ事ならぬ俺の表情に驚いたのか慌てて立ち上がり、俺の胸を両手で突いて逃げようとしたが、腹に力一杯拳を叩きつけると、ぐう、と呻き声を上げて気絶した。
 叫び声を上げられては困るので、ハンカチで猿ぐつわを咬ませる。こんな奴でも一応女だ。陵辱してやること、これに勝る屈辱はあるまい。
 俺はとり憑かれたように、自分のモノでこの女を突いていた。行為の途中で気が付いたらしいが、精神的ショックで抵抗する気力も底をついていたようだった。
 存分に楽しんだ後、俺は用意していたアーミーナイフを取り出し、放心状態の課長の上に馬乗りになり、渾身の力を込めて心臓の辺りを何度も突き刺した。顔や服に血がついたが、気にもならなかった。
 課長が完全に息絶えたのを確認して家に帰ると、殺人という行為に対する恍惚感が沸き上がってくるのを感じた。こういうのを警察用語で『道につく』というらしいが、杜撰な犯行だったのであっさりと足がついた。警察が到着したとき、俺は抵抗もせずお縄についた
 取調室で、刑事さんが百円ライターでくわえた煙草に火を点けた。テーブルの上のライトを灯け、こちらに向けながら言った。あの日偶然なことに、俺の他にも課長を殺しに会社まで来た奴がいたらしい。俺と入れ違いでオフィスに着いたそいつは、タッチの差で殺人犯になるのを免れたわけだ。それを聞いて愕然となり、思わず俺の口をついた言葉は、


「……ツイてなかったなぁ

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