すれ違い
目があった瞬間、驚いたような表情を見せた君。
「あ………」その後の言葉が続かない。僕は唇を堅くかみしめ、足早に君の横を通り過ぎた。伏し目がちに、何かを振り払うように。
足跡が遠ざかる。二人の距離がどんどん大きくなっていく。僕はようやく顔を上げた。誰もいない静かな廊下が、長く伸びている。意味もなく、拳を壁に叩きつけた。
脳裏に浮かぶ、楽しかった日々。こんな時が来るなんて、全く思いもしなかったあの日々。僕の顔を見つめて、照れるように「大好き」と言った君の笑顔が、鮮明に思い出される。
いつまでも思い出に縛られていてはいけない。それは充分に分かっている。だけど、君の声を、姿を、全てを簡単に記憶の奥にしまい込むには、二年半という年月はあまりにも長すぎた。お陰で、僕はまだ前に進めないでいる。
君にさよならを言われた、あの日から。
僕は、この短い一生の中で、紛れもなく最も君を愛していた。心から愛していた。
いつもそばにいてくれる、いてくれていると安心しきっていた。それを当たり前のように考えていた。それが君を辛くさせた。苦しめた。悲しませた。
僕が馬鹿だった。何も知らない、何も考えない愚かな子供だった。
いくら謝っても、君の心を癒すことはできない。二人の間の溝は、もう埋まることはない。二度と、永遠に。
今のこの苦しみも、君が受けたものに比べたらずっと楽なものかも知れない。僕に与えられた罰なのだろうか。それならば、甘んじて受け入れよう。
君が髪を切った。女性は失恋すると髪型を変えると言うが、君の場合は違う。多分、長い髪が鬱陶しくなったか、就職活動のためか、それともただの気分転換か。
友人と楽しそうに笑う君を、遠くからぼんやり眺めている。もう僕に向けられることのない、とびきりの笑顔。見る度に、胸が締め付けられる。
もういい。僕は疲れた。
本当はあの日から、僕はもう死んでいる。
君にさよならを言われた、あの日から。
だから、今ここで死んでも。
君の笑顔が、もう一度見たい。僕にだけ向けられる笑顔が。
君の声を、もう一度聞きたい。僕にだけ向けられる声を。
僕の想いも、もう届かない。
最期に、君に伝えたいのは、
ありがとう。そして、さようなら。
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