リフレイン


 ふらりと立ち寄った古道具屋で目を引かれたのは、くすんだ銀色の蛇口だった。
 店主の口上はこうだった。この蛇口は、パイプの部分を握った者の心にある、最も素直な気持ちを放つことができる。ただし、それを伝えることのできる人物は、その蛇口の栓をひねった相手に限る――と。
 頭から信じも否定もしなかったが、ただなんとなく気に入ったので、値札もついていないその蛇口を言い値で買った。
 ――口数が少なく声も小さい私にはちょうどいい。
 それが原因で喧嘩してしまった彼に会いに行った。彼の得体の知れないものを見たような表情を黙殺し、その手で蛇口の栓を開けさせる。
 思ったよりも遥かに多くの「言葉」が流れ出てきた。いつも胸の内でもどかしく消えていく、意味のない接続詞やためらいの台詞など、それらすべてを受け止めるには彼の手は小さすぎて、幾つもの「言葉」が零れ落ちる。とめどなく溢れるそれはやがて勢いをなくし、彼の手に残ったのはわずか十一文字の簡潔な一文だった。
『あなたをあいしています』
 私は目を見開いた。彼は悪戯めいた微笑を浮かべ、掌で静かにたたずむ「言葉」を包み込み両手をこすり合わせた。「言葉」は石鹸のように泡立つ。ぷく、ぷくぷく。
 彼がそっと息を吹きかける。桜色の泡が弾けるたびに、私の声が繰り返す。あなたをあいしています、あなたをあいしています、あなたをあいしています、あなたを――。

―了―


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