かたむいたもの


「俺、ちょっとタバコ買ってくるわ」
 そう言い残して、少し(かなり?)赤い顔をした面々と別れた。
 小さな、本当にささやかな同窓会。数年ぶりに顔を合わせるが、みんな何も変わっていない。それが、何より嬉しかった。
 仕事の付き合いで飲む酒とは格段に違う旨みが、脳髄まで染み渡っている。ふわふわと心地いい浮遊感に身を任せ、あらかた寝静まっている住宅街の間を、のんびりと歩いた。酔い覚ましついでと言ってはなんだが、ちょっと一人になって考えたいこともあった。
 あの子のことだ。
 この仲間内では、当人しか知らないのではないかと思うぐらい、俺の彼女に対する気持ちは周知の事実だった(未だに当時のことを邂逅すると赤面を抑えられない)。あれから、何人かの女性と出会うこともあったが、その誰に対しても「友達止まり」という感情しか沸いてこなかった。
 今日、普段なら絶対にやらない幹事役を引き受け、この同窓会を企画・実行したのも、彼女に会って確かめたかったからだ。
 何を?
 それは聞くのも野暮というものだ。

 結局、よくわからなかった。
 好きなんだろう、と誰かに言われればそうだと思うし、友達だろうと突っぱねられても、さしてショックは受けないだろう。
 人間の感情なんて、そんなものかもしれない。

 闇夜にぼうっと浮かぶ自動販売機。既に煙草が販売停止の時間になっていることなど、とっくに承知している。隣で、缶コーヒーを買った。どんよりと夜空を覆っていた雨雲から、ぱらぱらと粒が落ちてきている。早く戻らないと。
 ごとんと音がする。しゃがんで、取り出し口に手を突っ込んだ。
 ふと、頭の上に影が差した。

「……傘、持ってなかったから」
 驚きと喜びがミックスされた奇妙な表情の俺を見て、あの子はふわっと笑った。
 少しだけこちらに傾けられたのは、傘だったのか、それとも彼女の気持ちだったのか。

 不器用に止まった時間を持て余すかのように、俺は最後の煙草に火を点けた。

――了――

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