はずれ


 さて困った。これは一体なんだろう?

 大学から帰ってきて、日課のポスト調べをしたら、中から宛先も宛名も味も素っ気もない細長の茶封筒が出てきた。当然、差出人の名前などあろうはずもない。首を捻りながら部屋に戻り、用心しながら手紙を取り出してみて、目が点になった。これまた飾り気皆無の真っ白けな便箋の中央に、印刷でただ一言。
『はずれ』

 懸賞に応募した覚えはないし、たとえそうだとしても、こんな通知が来ること自体がおかしな話だ。小説やなんかの投稿なんて尚更するはずがないし、間違いで届いたという可能性もあり得ない。どう考えても、誰かが直接うちのポストに入れたものだからだ。
 まあ、多分ただのイタズラだろう。
『はずれ』

 さて、それからの数日間。
 階段を踏み外す、バイクのチェーンがたびたび外れる、運動していて肩をはずす、試験の山がはずれる、儲け話のあてがはずれる、宝くじをはずす、ギャグをはずす……のはよくあることだが、あごがはずれたのには驚いた。生涯初体験の出来事は、とてつもなく痛かった。
 もしやと思い、なぜだか取っておいた例の手紙をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に放ったが、期待通り外した。コンロで燃やそうと思ったら、つまみが外れた。外へ捨てにいこうと思ったら、挙句の果てに床板が外れる始末。
『はずれ』

 痛む足をさすりながら、目の前の忌々しい紙切れを睨みつけた。
 ふと、頭を掠めた考えがあった。
 ……ひょっとしたら、これは不幸の手紙か? 貧乏神とか悪魔か何かが気まぐれに送りつけた、災厄の元凶なのか?
『あたり』
 ひゃひゃひゃひゃひゃ、という笑い声を、僕は気のせいだと思いたかった。


――了――

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