花に想いを寄せて
その子は、生まれながらにして二つの命を宿していた。
左肩から、植物の芽のようなものが顔を出していたのだ。
両親はもちろん驚いたが、取り立てて害もなさそうなので、敢えて手術などで切除することもなく、そっと見守ることにした。
子供の成長に併せるように、その芽もゆっくりゆっくり大きくなっていった。
幼稚園ぐらいになると、茎がそこそこの長さになったので、折れてしまわないようにと小さな枕を作ってあげた。寝返り一つ打たないお陰で、芽が潰れることはなかった。
彼の服の左肩には、全てボタンホールのような通し穴が空けられた。中学の制服はもちろん特注品だ。ふざけて芽を摘み取ろうとしたクラスの悪ガキが、鼻を潰されて全治一週間の怪我を負ってからは、誰もそんなことをしようとはしなくなった。
高校になると、茎はいよいよ蕾をもたげるようになった。授業中に人差し指で撫でるような仕草をする少年。愛でる、という表現が似合う光景であった。まるで恋人同士がじゃれあうかのように。
そして、大学に入った彼は、一人の女性と出会った。
その時、誰にも触れさせようとしなかった茎の根元にそっと指をやり、払い落とすような手つきを見せた。すると、しっかり根付いていたように見えたそれは、まるで最初から何もなかったように……いや、その時そうなることが決まっていたように、音も抵抗もなく、するりと彼の指先に移動した。
「この花は、あなたに巡り合うために、僕と共に生まれてきたんだと思います。
受け取って、もらえませんか」
今まさに蕾から放たれた純白の花弁は、春の陽を浴びて、彼の心を映すようにほんのり紅く染まっているように見えた。
――了――
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