きみが「ありがとう」という言葉の
本当の意味を知った頃
あのね、パパから一つ、きみにお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?
今日がなんの日か、もちろんきみは知ってるよね。パパも知ってるし、用意もしてあるよ――うんうん、あとのお楽しみ、ね。
でもね、本当は「それ」だけじゃないんだよ。ちょっと難しいかもしれないけど、聞いていておくれね。
今からちょうど、そう、ちょうどぴったり八年前だね。
あの日、ママは前の日からずっと寝ないで起きてたんだ。どうしてって? それはね、少し体の調子が悪かったからなんだ。……ご病気じゃないよ、だから心配しないで。
きみが朝起きて顔を洗う時間より、パパが朝ごはんを食べる時間よりも前、まだお日様がようやく顔を出した頃だね、ママに起こされた。おなかが痛い、ってね。パパは慌てて着替えて、ママを病院まで連れていったんだ。
それからお昼まで、そうだねぇ、学校の一時間目が始まって六時間目が終わるくらいまでの間、ママはずうっと頑張ってたんだ。とっても大変そうだったよ。きみがかけっこで運動場を十周するくらいかな。それとも、夏休みの宿題を一日でぜーんぶやってしまうくらいかな。もしかしたらもっともっとかもしれないね。痛くて、苦しくて、うーんうーんってうなってた。……泣かなくていいんだよ、大丈夫だから。
そう、きみが生まれた時の、お話さ。
パパもママも、きみの顔を見るのをとっても楽しみにしてたんだ。だからあんなに大変な思いをしてでも、ママは泣かないで一生懸命になれたんだよ。そうさ、ママはきみのために、きみに会うためにとってもとっても頑張ったんだ。
だからね。
もちろん今日でもいいし、パパが言ったことを覚えていてくれるのならもっと先でもいい、いつかきみが「ありがとう」という言葉の本当の意味を知った頃、ママに言ってあげてほしいんだ。
ママ、わたしのためにがんばってくれてありがとう、ってね。
きっとママ、すごく喜ぶと思うよ。感激して泣いてしまうかもしれないね。
さ、そろそろママが帰ってくる頃だよ。駅までお迎えに行こうか。きみの大好きなチョコレートケーキを買ってくるはずだからね。
――八歳のお誕生日、おめでとう。
Go Back To Home