1.サウス・カイバブ・トレイル
(South Kaibab Trail)
サウス・カイバブトレイルは渓谷に下るコースでコロラド川が流れる谷底まで下りられ、更に対岸のノース・リムに登るノース・カイバブ・トレイルに繋がっている。しかし、出発点の標高は2213mで谷底迄の標高差は1,400mもあり、谷底に下りるほど暑さが増すので日帰りでの谷底往復はしないよう指導されている。夏は特に日中の谷の歩行には注意が必要とされています。
今回谷底にあるファントム・ランチ(Phantom Ranch)・ロッジの予約が取れなかったので途中で引き返すことにし、このコースを日帰りで歩くことにした。
このトレイルは出発点から谷底まで全く水が無い。グランド・キャニオンの谷を歩くには「1時間当たり0.5ℓから1ℓを目安に」とか「1ガロン(約4ℓ)は持っていくように」などとガイドされている。またスポーツ・ドリンクや電解液や電解質の飴などが推奨されている。

日本や海外の山歩きでは多くて1日2ℓあればと思っていたので驚いたが、ともかく電解質を溶かした水を2人分で8ℓ持って出発することにした。
シーダー・リッジにて

 歩いた日;2012年7月10日

 コース(スケルトン・ポイント往復)
; Trailheadー(22min)Ooh Aah Point(5min
休み)ー(20min)Ceder Point(10min休み)ー(50min)Skeleton Point(25min休み)ー(1h08min)Ceder Point(15min休み)ー(40min)Ooh Aah Point(10min休み)(50min)Trailhead
合計時間:4h10min
(総合計時間:5h15min)  
標高差:628m 最高標高:2,213m 

 


グランド・キャニオンの谷に下りるトレイルはサウス・カイバブ・トレイルとブライト・エンジェル・トレイルの2つがある。今日はその内のサウス・カイバブ・トレイルを歩く。
スタート点のサウス・カイバブ・トレイルヘッドへは一般自動車の乗り入れができず、無料バスでしか行くことができない。無料バスは村の中心を回る循環ルートと、その東と西のバス専用道路を走るルートの3つがある。泊まった宿はマーケット・プラザ近くなので、先ず循環バスでビジターセンターまで行き、ここでビュー・ポイントのヤキ・ポイント行のバスに乗り換えて終点一つ手前のサウス・カイバブ・トレイル・ヘッドで下車する。

グランド・キャニオンの谷は暑さ防止のため午前中に歩き終えるのが良いので朝できるだけ早く出発したい。一番バスの時間を調べると日の出の1時間前から運転開始で朝の内は30分毎とある。日の出を見るお客の為だろうが何時にバスが来るのか分からない。今日の日の出時刻は5時20分なのでその1時間前の4時20分にバス停に行く。客は3組、循環バスが4時半に来たが反対方向へ行くバスでダメ。その後長らく待つが一向にバスが来ない、客3組はイライラ。ようやく5時になってやってきたが、ビジターセンターに着くと、ここでまた乗り換えバスの発車まで待たされた。トレイルヘッドに着き出発できたのは5時半になってしまった。
ビジター・センターの駐車場への道と場所を事前に確認しておいて、車でビジター・センターに移動してからバスを待つのが正解のようです。

 トレイル・ヘッド

トレイルの出発点には立派な掲示板が立っていて、トレイルの地図や注意事項等が詳しく表示されている。既に日の出は過ぎていて明るいが、東側に展望台のあるヤキ・ポイントがせり出しているので朝日は当たらず涼しい。
平らな遊歩道を進むと直ぐに峡谷の端に出て谷に入る。



 
 朝日に輝く峡谷の壁

歩き始めは急な崖に作られたをスイッチバックの道を下る。2人とも足に不安を持っているのでゆっくりと下る。それでもあっという間に谷の絶壁を見上げる位置になり、左手に峡谷の壁が朝日で輝いて見える。バスを乗り換えたビジター・センターは左の写真の輝いている絶壁の上あたりにある。

急なジグザグの下りが終わると、ヤキ・ポイント下の絶壁を右にして、ゆるい下りを進む。




 
 オー・アー・ポイントから、中央はオニール・ビュート

暫く進むと、右側の絶壁が切れて前が突然開ける。丁度張り出たヤキ・ポイント展望台の真下の位置に来ている。狭い場所だが地図にあるオー・アー・ポイント(Ooh Aah Point)だ。真下にオニール・ビュートと言われる岩の尖塔が目に飛び込んでくる。
ここに立った人は皆一様にその景色の素晴らしさに言葉が出ず、思わず「オー、アー」と感嘆の声がでるのでその名がついたそうだ。前後して下りて来た数組のパーティーも我々も、入れ替わりながら此処に立って皆「オー、アー」と声を出す。言葉いらずで景色を表現できるので外国人である我々には何とも居心地の良い場所だった。
尚、オニール・ビュートのビュート(Butte)というのは残丘とか孤立した絶壁とかいう意味で、周りが崩れ落ちて岩が塔のように残った姿を言うそうで、グランド・キャニオンにはあちこちにあります。






 
 オー・アー・ポイントから下を覗く
トレイルと小屋が見える、
その先の細くなった所がシーダー・リッジの展望地

下を覗くと稜線に沿って急な下りのトレイルが見え、下に小屋がある。下りてから分かったことだが、小屋はシーダー・リッジのトイレ。
シーダー・リッジのリッジと言われる所以は平らな台地に続いてその先に張り出した岩の上の狭い展望地があるからのようです。




 
 オー・アー・ポイントを過ぎて
朝日を受けながら稜線の上を歩く

オー・アー・ポイントで小休止して出発。左に曲がりジグザグの急な坂を下りる。その後また右に曲がると稜線の上の道になり見晴らしが良くなる。しかし朝日が当たり暑さを感じる。まだ朝の6時なのにまともに太陽の光を受けるとやはり暑い。帰りの登りの暑さを気にしながら下る。





 調子よく下りてきて、上から見下ろした2番目のポイントのシーダー・リッジに着いた。ここにはトイレの小屋が建っている。まっすぐ進むと稜線の先端の細い岩の上に出る。数組が座って休んでいる。360度の展望で素晴らしい。朝日が右から当たり西方向が綺麗に見える。オー・アー・ポイントからは眼下に見えていたオニール・ビュートの尖塔が直ぐ近くに同じ高さに見える。東方向は逆光で写真にならないのが残念。
振り返ると歩いてきたトレイルの様子が良くわかる。右の写真がそれで、青字のAの辺りはバスから降りて歩き始めたサウス・カイバブ・トレイルヘッドで、黄色の□印がオー・アー・ポイント、その下の黄色の○印はシーダー・リッジのトイレの小屋、バスで行ける展望地のヤキ・ポイントは上の小山の青字のB辺りになる。
時計を見ると未だ6時半、スタートしてから1時間程、標高差は350m程下りたことになるが2人の足も特に異常はなさそうなので、この下のスケルトン・ポイントまで足を延ばしてみることにした。
 シーダー・リッジの稜線の先端から振り返る
 シーダー・リッジの稜線の先端から 西方向  シーダー・リッジの稜線の先端から 南方向 



 シーダー・リッジとスケルトン・ポイントの中間から

シーダー・リッジの展望地から一旦トイレの方向に戻って、左下のトレイルを下る。道はオニール・ビュート(尖塔)の右横を巻くようにして付いている。さほどの急な下りもなく、トレイルもきっちりと整備されていて展望もよく淡々と歩く。
左側の展望は朝日を受けて特にはっきり見える。
写真の左から中央に向かって伸びた平らな台地の上に写真では分かりにくいが一本の細い線が横に走っているのが見える。もう1つの谷底に下るブライト・エンジェル・トレイルからプラトー・ポイント(Plateau point)へ進む道に違いない。
「明日、ブライト・エンジェル・トレイルを歩くつもりだが、どこまで歩けるのかなー、今日の帰りの登りは大丈夫かなー」などと考えながら歩いていると、スケルトン・ポイントと書かれた小さな標識が目の前に現れた。大きな岩が前に広がり、ジグザグの道がその右側を急勾配で下っている。
今日の下りはこのスケルトン・ポイントまで。左手に景色が広がって見え、何組ものハイカーが三々五々休憩している。




 崖の上ながらあちこちに座れるスペースがあり絶好の休憩場所。時間は朝の7時20分、歩き出してから2時間弱、標高差628mを下ったことになる。
峡谷があまりにも広いので、谷に下りたという感覚よりは荒涼とした広大な山岳地帯に入り込んだような気がする。

ここから西方向に見えるサウス・リムの壁を見上げると、地層が良くわかる。公園に入る時にもらった日本語のガイド新聞の説明書きによると、一番上の白っぽい地層は石灰岩で2億7千万年前にできたものだそうで峡谷の一番下の地層は18億年前まで遡るそうです。その後約7千万年前に北アメリカ西部全体が3千mほど隆起し、この地帯はコロラド川によって5~600万年前から浸食が始まり岩層を削り取って今の姿になったとあります。

しかし、ここに立つと、そんな地球の歴史などを思い描くこともなく、只々自然の壮大さと素晴らしさと造景の美しさに圧倒されるだけでした。
 
 スケルトン・ポイントにて、北方向を見る  スケルトン・ポイントから見上げるサウス・リム下の地層


 下を見ると、緑色をしたコロラド川が右から左に流れているのが見える。このスケルトン・ポイントからまだ標高で800mほど下になる。
良く見ると崩れた土が川に落込み流れ取られている様子が見える。このようにして浸食が繰り返し行なわれてきたとしても、本当にこんな大峡谷ができるとは信じがたい。

相前後して下りて来た男女6人連れのイギリス人達は、これから谷底まで下り今日の内にブライト・エンジェル・トレイルを登り返すとのこと、凄いのがいる。健闘の言葉を交わしながら手を振って別れた。

景色を眺め、写真を撮り、25分ほど休憩して来た道を戻る。往きの下りは足のトラブルも無く順調に来たが、帰りは全部登り。しかも早朝よりは大分温度が上がってくるはず。どうなることか。
 コロラド川が下に見える
 コロラド川と北(ノース・リム)方向  コロラド川の拡大


 
 引き返しの道

600m程の登りなら通常特段厳しい登りでもないが、ここは違う。直射日光の下での登りはとにかく暑い。直ぐ口の中がネバネバとなってきて水分補給が必要になる。朝の8時だが恐らく40度近くあるのではないかと思う。ゆっくり、ゆっくり歩く。シーダー・ポイントまでは登りもさほどきつくないので順調に足を運べたが、シーダーポイントから急な登りの連続で歩みは更に遅くなった。

途中、トレイルの修復作業をしている20人ほどの若い人達に出会った。作業者風ではなくどう見ても学生などのボランティアのように見える。トレイルの近くにある大きな自然石を割るのにドリルを使っているが、割った石を運ぶのもトレイルの側壁に埋め込んで石を並べる作業も全部手作業だ。1ガロン(4ℓ)入りの水の容器を銘々が持っていて水を飲み飲み作業をしている。左の写真の道の両側に見える延々と埋め込まれた石も同じような作業で作られたものだろうと思う。頭が下がる。




 
Utah Agave(ユタ・アゲ―ヴ、リュウゼンラン科)   サボテン

途中変わった植物も目に入るが、ゆっくり鑑賞する余力もなく、ひたすら登る。そのうち家内が先に進んで当方はどんどん遅れる。岩陰があると歩みを止めて小休止。日当たりの所と体感温度が全然違う。日陰の中で風があると更にほっとする。バテて歩けなくなることは無かったが、これほどゆっくりとしか歩けなかったのは始めてのこと。昨年から足の調子がもう一つで山歩きを事前にあまりしてこなかったツケだと思う。出発点のトレイル・ヘッドに着いたのは10時45分、休憩を入れて5時間15分の歩きでした。
持って行った水は最後の方で余裕が出て来たので、顔を洗ったり頭を冷やしたりしたので、飲んだ量がどれほどだったかはっきりしませんが、1人3リットル近くは飲んだのではないかと思う。

このコ―スの標準時間は案内書では一様に往復5~8時間となっています。かなり余裕のある案内になっていると思います。暑いとはいえ若い人ならはるかに早い時間で歩けるのではないかと思います。

当方の足は、歩いた後に若干の痛みがあったが、夕刻には感じなくなった。家内の足は夜に痛みが出だして心配したが、痛みどめの薬を飲んで湿布をして寝たら何とか翌朝には収まったようで、こちらも一安心。

夕刻にブライト・エンジェル・ロッジ(Bright Angel Lodge)のレストランンに行って夕食、窓から峡谷が見え鳥が何匹も空を舞っている。トンビのようだが、聞くとコンドルだと言う。自然がでかいと大きな鳥も小さく見える。