2.ブライト・エンジェル・トレイル
(Bright Angel Traill)
ブライト・エンジェル・トレイルは前の日に歩いたサウス・カイバブトレイルと同じように渓谷に下るコースでコロラド川が流れる谷底まで下りられる。サウス・カイバブトレイルは主に稜線歩きで途中に飲み水が全く無いのに対し、ブライト・エンジェル・トレイルは主に谷を歩く。途中に飲み水があるせいか、ブライト・エンジェル・トレイルの方が沢山のハイカーが歩いている。
今回インディアン・ガーデンまで下りたが、殆どが谷筋なのでグランド・キャニオンの広大な景色を眺めるには不向きと感じた。日帰りでは非常にタフな歩きになるが谷筋から抜けて平坦なプラトー・ポイント(Plateau Point)まで足を延ばせば360度の展望が広がり真下にコロラド川を眺めることができるそうなので、プラトー・ポイントまで歩ければこのコースの良さが分かるのかもしれない。
インディアン・ポイントには山小屋やロッジは無いがキャンプ場があるので、ここを起点にコロラド川やプラトー・ポイントを往復するパーティーも多いようです。
ブライト・エンジェル・トレイルはインディアンが通った道で昔からあったようです。
インディアン・ポイントには1年を通して水がある。5月から9月の期間であれば1.5マイル・レストハウス(休憩所)と3マイル・レストハウスにも水があります。
沢山の水を持って行く必要はないのだが、念のため多めに1人2ℓの水を用意して出発した。
それと家内の足が昨夜のように痛くなってはいけないので、ザック無しの空身にし、小生が2人分を持って歩くことにした。
3マイル・レストハウスを過ぎて、
ブライト・エンジェル・トレイルの谷

 歩いた日;2012年7月11日

 コース(インディアン・ポイント往復)
; Trailheadー(1hr)1.5mile Resthouse-(50min)3mile Resthouse(10min
休み)ー(1hr)Indian Point(20min休み)ー(1hr20min)3mile Resthouse(10min休み)ー(1h30min)1.5mile Resthouse(20min休み,昼食)ー(1hr20min)Trailhead
合計時間:7h
(総合計時間:8h)  
標高差:933m 最高標高:2,091m 

 



ブライト・エンジェル・トレイルの出発点(トレイル・ヘッド)はビレッジ循環バス西端のハーミッツ・レスト乗換バス停(Hermits Rest Transfer)近くにある。マーケット・プラザの始発バスは前日の朝に4時半に来たのを見ていたので、その時間に合わせてバス停に行く。予想通りの時間にバスが来て10分でハーミッツ・レスト乗換バス停に着いた。バスの運転手にトレイル・ヘッドの場所を聞き数分歩くと、もうそこは大きな標識が立った出発点。まだ暗いのでヘッドランプを付けて出発。時間は4時半。谷の下には先行するパーティーのランプの明かりが何点か動いているのが見える。

 
日の出前、
2番目のトンネル手前から谷を見下ろす


最初はゆるい勾配の下りを進み、岩むき出しのトンネルをくぐるとジグザグの下りが始まる。次第に明るくなってきたのでヘッドランプをしまう。まだ太陽は登らないが景色が赤味を増し谷の様子が見えるようになって来た。

谷の中に延々とトレイルが見え、中ほどに緑の帯が見える。恐らくそこがインディアン・ガーデン(Indian Garden)に違いない。その先に平らな台地がコロラド川に向かって張り出していて真ん中にトレイルが見える。その先端がプラトー・ポイント(Plateau point)だと思う。





2番目の
トンネル
 谷に向かってどんどんと下る。ジグザグの道だが2人並んでも十分に歩ける広い道なので安心して歩ける。

2つ目のトンネルをくぐるあたりになって大分明るくなってきた。続いて太陽が顔を出す。時間は5時31分。
太陽が正面右から出ている。北に向かって下りているはずなので、太陽が上がるのが見えるのはおかしいなと思い地図を見ると、少し東に向かって下りていることが分かり合点がいく。

グランド・キャニオンは標高が約2千メートルの巨大な平地にできた峡谷なので、峡谷自体は複雑な形をしているが、峡谷の上は何処もほぼまっ平らな大地が延々と続いているだけで、何の変哲もない。日の出の写真を撮っても左の写真でわかるように地平線だけが強調されて何処で撮った写真かも分からないほどで、何の面白味もない。グランドキャニオンでは朝日に照らされた背後の景色こそが素晴らしい被写体となるように思う。

更に下って行くと、何人かが立ち止り我々に指を指して教えてくれている。見ると一目でそれと分かる大きな角を持ったビッグホーン・シープ(Desert Bighorn Sheep)が直ぐ近くの岩の上に立ている。ここは1.5マイル休憩所の手前で水道の蛇口が直ぐ近くにあるので水欲しさに寄ってきているのかもしれない。4~5mの距離を置いて逃げる様子はなかった。
日の出 
 ビッグホーン・シープ 朝日の当たるビュート(残丘)を背にしたビッグホーン・シープ

朝日に輝く峡谷の壁 

ビッグホーン・シープを見て直ぐ1番目の休憩所の1.5マイル・レストハウスに着いた。出発点から348m下りたことになる。時間は5時50分でここまで丁度1時間。ここは休まず通過した。
背後には、下りて来た壁の西側が朝日に当たり輝いている。

道はジグザグの繰り返し、どんどん下るが背後の壁はあまり離れない。下ってはいるが距離は稼げていないということで見える景色の変化もあまりない。

 やがて2番目の休憩所の3マイル・レストハウスに着きしばし休憩。出発点から652m下ったことになる。時計は6時40分でここまで2時間弱の歩き。昨日歩いたサウス・カイバブ・トレイルのスケルトン・ポイントより150mも低い標高になっているがコロラド川は遥か彼方。
 ガイドブックなどでは「ここで引き返すのが無理のない日帰りの歩き方」などと書いてあるのもあったが、まだ時間も早いし景色ももう一つ変化が無かったので、ここで引き返しても面白くないと次のポイントのインディアン・ガーデンまで下りることにした。
 
 3マイル休憩所から見下ろす 3マイル・レストハウス(休憩所


 ミュール(ラバ)隊

3マイル・レストハウスを過ぎるとやや道は平坦な下りとなり、距離を稼げるようになるが、相変わらず谷合の道が続く。
途中何度かミュール(ラバ)隊と出会う。谷底のファントム・ランチ・ロッジに荷物を運んだり、ラバの背にお客を乗せて谷底を往復したりしている。5~10頭くらいの隊で前後にカーボーイハットのガイドが乗っている。中には女性のガイドもいてカーボーイハットが良く似合っていて格好良い。

ゆっくり歩いて下りてきているので、出発してから今まで何組のパーティーに抜かれたことか。このコースは人気があるようで次々と下りてくる。

時々谷を上ってくるパーティーにも出会うようになる。谷の底から上がってきたにしては少し時間が早いように思うので、インディアン・ガーデンから折り返してきたのか、キャンプ場から上がってきたのだろうか。




下りの勾配が更にゆるくなってきた所で突然草が茂り木が生えた森に中に入ってきた。左に小屋があるので入ってみるとレンジャー専用の建物、元のトレイルに戻り先に進む。大きな木が茂った木陰の中に入ると休憩所の屋根が見え、三々五々沢山のハイカーが休憩している。ここがインディアン・ガーデンで、正にオアシスと言ったところ。昔インディアンが農耕をして暮らしていたそうだ。出発点から標高差で933m下りたことになる。コロラド川との標高差が400m程なので峡谷の底までの2/3以上も下りたことになる。ただ展望はさほどない。時計は7時50分、出発してから3時間。この先に素晴らしい展望が期待できるというプラトー・ポイントの見晴らし台があるが、そこまでは更に炎天下の中を片道1時間ほど歩かねばならない。残念ながら帰りを考えるとこれ以上は無理。ここで引き返すことにして休憩。
休憩所にポールが立っていて、その先端に大きな温度計が付いている。日陰100°F、陽射し110°Fと読める。摂氏に直すとそれぞれ38℃と43℃、暑いはずだ。飲み水の蛇口をひねり顔を洗い、タオルを濡らして頭に乗せ帽子を被る。水があるのはありがたい。
 峡谷の中は小さな灌木がまばらに生えているだけなのに、この場所だけ谷に沿って小さくいて細長い森になっている。川は見えないので地下水が流れているのだろうと思う。背丈程に伸びたサボテンもあり、何とも不思議な光景だ。

20分ほど休んでから出発。下りた分の933mを登り返さなければならない。下りて来た崖がやたらと高く聳えて見える。
 インディアン・ガーデン
インディアン・ガーデンの大木の下の木陰 インディアン・ガーデンから引き返す、崖上までの標高差933m  


帰りは唯ひたすら歩くのみ。ゆっくりゆっくり歩く。3マイル・レストハウスに戻って時計は9時半、ここから登りがきつくなり更に歩きが遅くなって登ってくる人に次々と抜かれる。振り向くと下りに見た谷と同じ景色が広がるが光の反射がきつくなり谷が全体に平板に見える。岩陰が有ると身を寄せて小休止をしながら登る。1.5マイル・レストハウスへ着いたのが11時半。再び水場でタオルを濡らして首筋や顔や頭を冷やす。持ってきたパンとオレンジとリンゴで昼食。
このあたりになると登る人・下る人とも大勢の人だ。
 1.5マイル・レストハウスを過ぎた所で足元にリスが出てきた。こんなところにリスがいるのかとびっくり。後で調べるとRock Squirrelと言うようだ。目元はくっきりしているが、土と同じような色をしていているせいかかわいいという感じはしなかった。
 3.5マイル・レストハウスと1.5マイルレストハウスの中間からの展望   Rock Squirrel(岩リス)


 
歩き終えて
 ブライト・エンジェル・トレイルヘッドの看板前

1.5マイル・レストハウスを過ぎても歩みは相変わらずで超スロー。家内は空身のせいか元気で大分先を歩いている。
追い抜いて行った若い男女が立ち止り何やら2人で相談しているなーと思っていたら、振り向いて数歩近づいてきて、私のザックを持ってあげようか、と声をかけてくれた。ゆっくり登るので大丈夫、と返事をしたが、よほど苦しげな歩きに見えたのだろう。ザックを持とうかと、声をかけられたのは初めての経験、いよいよ助けが必要な齢になってきたかと大ショック。
 それでもゆっくりゆっくり登ってスタート点にたどり着いた。時計は1時少し前。暑いさなかの帰還となってしまった。トータル時間は8時間、どのガイド案内も所要時間は6時間~9時間と書いてあるので、一応その範囲には入ってはいるが、かなりスローペースの歩きになったことは間違いない。
それでも、バテて動けなくなるといういうこともなく、歩き終えたあとの左の写真を見ても笑っている所を見ると、耐えて歩くコツは身についているようで、自分のペースを守ればまだまだやれると少し安心した。

夜に、二人とも多少の痛みを足に感じたが、湿布とマッサージの効果なのか、翌朝の移動日は何事もなく出発できた。