3.プラフルーリ小屋からアローラ
 (Cab de Prafleuri to Arolla)

参考地図は「Bモンフォール小屋からプラフルーリ小屋経由アローラ」のぺージにあります 



このコースは2つの峠を越えるのと、ダム湖畔を通るので変化のある景色を楽しめる。

1つ目のロウ峠(Col des Roux 2804m)を越えるとディス湖が広がりその日に歩くコースの大半を見通せる。

ディス湖(Lac des Dix)湖岸のトラック道路を歩いた後、登山道に入って2つ目の峠を越える迄は、なかなか大変です。2つ目の峠は2つあって、どちらかを選ぶ。手前にあるのがリードマッテン峠(Col de Riedmatten 2919m)で、ガレ石の急な上り。その奥にあるのがシェーヴル峠(Pas de Chevres 2855m)で長い2本の鉄梯子を上る。どちらを選ぶかは好みの問題だが、私はリードマッテン峠を越えた。
2つ目の峠を越えればアローラ(Arolla)側の山になり、緑が多く歩きやすい下り道になる。
早朝のロウ峠(2804m)から見るディス湖
山はモン・ブラン・ド・シェイロン(3870m右)と
ピーニュ・ダローラ(3790m 左) 


 歩いた日;2010年7月22日
 コース;Cab de Prafleuriー(25min)Col des Roux(5min休み)ー(1h55min)Pas du Chat 2371m(10min休み)ー(10min)Cab des Dix分岐ー(10min)鉄橋ー(25min)途中(5min休憩)ー(1h30min) Pas de Chevres分岐(5min休み)−(20min)Col de Riedmatten(5min休み)−(20min)Pass合流ー(1h35min)Arolla
合計時間:6h50min (総合計時間:7h30min)  標高差: 登り合計709m 下り合計1,327m  最高標高:2,919m 


この歩きが今夏のスイス山歩きの最終日になる。今日は、荷物の置いてあるマルティニのホテルに帰り翌朝の帰国の準備をするので、アローラではできるだけ午後3時のバスには乗りたい。フランス在住のH氏より一足早くプラフルーリ小屋(Cab de Prafleuri 2657m)を朝6時半に出発した。

プラフルーリ小屋を出ると直ぐ上りになる。ガレ石の道だが整備されていて歩きにくいことはない。20分ほどで登り詰めた所がロウ峠(Col des Roux 2804m)です。
振り返って北方向を見ると、下にプラフルーリ小屋が山裾の横に辛うじて見え、向かいの山には昨日越えて来たプラフルーリ峠(Col De Prafleuri 2987m)が朝日の中に明るく見える。
                  プラフルーリ峠(2987m)↓   
ロウ峠(2804m)から
プラフルーリ小屋(下)を振り返る
ロウ峠からプラフルーリ峠を振り返る

南方向は広く展望が広がる。眼下にはまだ朝日が当らず静かにディス湖が横たわり、その奥にモン・ブラン・ド・シェイロン(Mont Blanc de Cheilon 3870m)、その左にピ−ニュ・ダローラ(Pigne d'Arolla 3790m)が見え、その下に小さくV字形をしているのが今日越えるもう1つの峠です。右手にはロシェ・ジュ・ブーク(Rochers du Bouc 3314m)の尾根が大きく前に張り出し、その上にラ・サール(La Sale 3646m)の氷河を被ったピークがちょっと顔を出している。その左・写真の中央に見えるのはラ・リュエット(La Luette 3548m)の山で、何れの山も朝日に明るく照らされていた。

                        ロウ峠から朝日に輝る南方向
湖はディス湖、湖の奥の左上に見えるV字の凹みはシェーヴル峠
山は左からビーニュ・ダローラ、モンブラン・ド・シェイロン、ラ・リュエット、山の陰からちょっとピークの出ているラ・サール


ディス湖岸よりロウ峠(左上のV字)を振り返る、
右はグランド・ディクサンス・ダム



「さあ、先は長い、頑張るぞ」、とロウ峠を越えて下りに入る。少しの間のガレ道を過ぎて草地になると穏やかな下りになる。
ディス湖岸の手前でバルマ小屋(La Barma 2458m)に分かれる道があるが、今日は先を急ぐので寄らずに真っ直ぐ道路に下りた。振り返ると、越えて来たロウ峠が見え、右手にはディス湖のグランド・ディクサンス(Dde Dixence)のダムが見える。
ディス湖の水面より30m程高い所に作られた道路を歩く。標高は2400m程度と結構高いがフラットなので歩みは快調。



所が、黒牛が道端であちこちに沢山草を食んでいる。中には道を塞いでいる牛もいる。4年前にソルボア峠の下りで黒牛に睨まれたことがあって、それ以来黒牛のそばを通るのが恐い。道から土手の上にグルッと回ることを3回も繰り返してようやく通り過ぎた。
湖岸道路を進んで南の端で回り込み東向きに湖岸を進む。振り向くと今まで見えなかったラン・ダレー氷河(Gl de l'EnDarrey)が目に入る。

下の写真の山は
左からラ・リュエット(3548m)、ラ・プルルール(3704m)、
ラ・サール(3646m)、
路上の黒牛、土手の上に廻りこんで通過 ディス湖の南端から西を見る、氷河はラン・ダレー氷河



南東端の道の最終ポイントにパ・デュ・シャー(Pas du Chat 2371m)の標識が立っている。ネコの道ということでこれから細くなるという意味だろうか。リードマッテン峠:1h50min、アローラ:3h25minと書いてあるが、どうせこの時間では着くはずはない。
目の前には何処から引いているのか導水菅からもの凄い水量の大きな滝が轟音を上げて湖に流れ込んでいる。
道路はここまで、いよいよ上りの登山道に入る。急な上りを後ろの湖を振り返りながら登ると直ぐにディス小屋(Cab des Dix 2928m)の分岐にでる。オランダのペアーからディス小屋側からシェイロン氷河を渡ったほうが簡単だとアドバイスを受けていたが、何処から氷河を渡っていいのか皆目分からないので止めにした。

続いてシェイロン氷河から流れる深い谷川を跨ぐ鉄橋を渡る。ここからはガレ石混じりの急な上りが始まる。
湖岸の南東端からディス湖を見る 鉄橋を渡る



谷の東側の急坂を登る。直ぐに正面にモンブラン・ド・シェイロンが見え出し、シェイロン氷河の真っ白な上部も見え出す。
右手の西方面を見ると、湖岸南端の道路から見えていた山がよりはっきりと見えるようになる。ラ・プルルール(Le Pleureur 3704m)の左下にはラン・ダレー氷河が、右肩にはプルルール氷河(Gl du Pleureur)、ラ・サールの右肩にはラ・サール氷河(Gl de la Sale)、そしてポワント・ドュ・ヴァズヴェー(Pointe du Vasevay 3356m)の肩にはパンタロン・ブラン氷河(Gl des Pantalons Blancs)と言った具合に沢山の氷河が見える。

谷の東側を登る(南方向を見る
左の山はポアント・ド・ツナ・レファイアン(3500m)、
右の山はモン・ブラン・ド・シェイロン(3870m)
谷の東側を登る(西方向を見る)
左の山はラ・プルルール(3704m)
真中の山は
ラ・サール(3646m)、
右の平らに見える山はポワント・ドュ・ヴァズヴェー(3356m)



なおも登ると背後にディス湖が綺麗に見え出した。湖の西側の山並みが見えその北端近くに今朝越えて来た峠らしい凹みが見える。結構歩いてきたなーと暫く眺める。ロウ峠の位置を正確に知ろうと写真を拡大して見てみたら、ロウ峠だけでなく前日に越えたプラフルーリ峠も見えていたことが分かった。プラフルーリ峠から南を見た逆方向の写真を確認すると、この辺りがちゃんと写っている。ここからプラフルーリ峠も見えて当然ということです。

     
 


上側の尾根の中央の小山の横が
プラフルーリ峠(2987m)
ディス湖を振り返る 左の拡大 
下側の尾根のV字
がロウ峠(2804m



ガレ石だらけの足場の悪い傾斜をトラバース気味に進むとシェイロン氷河のほぼ全体が見え出す。独特の美しい形をしたモン・ブラン・ド・シェイロンの左肩から下に向けて分厚い氷河が流れ、それが更に川のようになって流れている。しかし末端の氷河の巾は狭く薄い。何時までこの川のような細長い氷河を見ることができるのだろうかと思う。
氷河の対岸にテート・ノワール(Tete Noire 2981m)という小山があり、その左肩にディス小屋(Cab des Dix 2928m)も見える。ガイド付のトレッキングでは、この小屋に一泊し、この細い氷河を渡り、シェーヴル峠を越えてアローラに抜けるコースが良く紹介されている。

            ガレの傾斜地から見るシェイロン氷河
中央シェイロン氷河、その左ポアント・ド・ツナ・レファイアン(3500m)、その右モン・ブラン・ド・シェイロン(3870m)、右肩のピークはテート・ノワール(2981m)、 
左のV字の凹みはシェーヴル峠(2855m)


川のようなシェイロン氷河の末端
右にディス小屋(2928m)が見える



シェーヴル峠(尾根の一番低い所)

更に傾斜地をトラバース気味に少しづつ登りながら進むと目の前にシェーヴル峠がはっきり姿を現した。この辺りに来るとガレ石が次第に大きくなり登山道も不鮮明になってくるので注意が必要になる。

傾斜地の裾に近い方にも登山道が通っているように見えたが、下を歩くとシェーヴル峠に行くのは良いが、リードマッテン峠に行く場合は通り過ぎてしまう恐れがあるように思う。




なおも傾斜地を進むが、リードマッテン峠(Col de Riedmattenn 2919m)へは何処から登るのかが見えない。左上を見上げると、尾根に少し凹んだ所が見えるが大きな石がゴロゴロと転がった急斜面で、こんな所ではないだろうと思いながら進むと、突然大きな石にペイントされたリードマッテン峠への標識が現れた。やはりここを登るのかといささか驚く。

リードマッテン峠への表示 リードマッテン峠への上り

シェーヴル峠への標識
リードマッテン峠の標識の直ぐ右にハシゴのイラストが書かれたシェーヴル峠(Pas de Chevres 2855m)の標識がある。
シェーヴル峠を見ると、確かに2段に分かれた長い鉄のハシゴが見える。ハシゴの上り口はこの標識から下りになっているので、確かにシェーヴル峠を越える方が楽のようだが、ハシゴから落ちれば終い、というのは止めておこう、特に1人歩きなので何かあっては後が大変と、リードマッテン峠を越えることにした。
シェーヴル峠の長い2段ハシゴ



リードマッテン峠への登りは急な上に沢山の大きな石や岩があって登山道が隠れていて見通しが良く利かない。登山道は概ね左側にある。慌てずに踏み跡を探しながらゆっくり登る必要がある。また後ろから登ってくる人に石を落さないよう乱暴な歩きを慎む必要がある。

登りだして少し過ぎるとシェーヴル峠が下に見え出す。ちょうど1人がハシゴを登っている最中なので、どんな具合か良く見ておきたかったが、こちらの方も何時石が落ちてきてもおかしくないような登りなので、早々にカメラをしまい登りに専念した。

ハシゴを
登っている人が
下のほうにいます

リードマッテン峠の登りの途中から見下ろすシェーヴル峠 シェーヴル峠
上部の拡大



リードマッテン峠(2919m) 
ロープはクライミングをしていた人達のもの

さほど長い距離ではないが、約20分間、急坂で不規則に重なった大石やザレ場を登るので疲れる。たどり着いたリードマッテン峠は両側が岩がせりあがっていてあまり広くない。しかもこの岩でトレーニングなのか5〜6名の若い男女がクライミングをしていて、ゆっくりで休むスペースがなかった。

標識が岩に打ち付けられているが、もちろんこの矢印通り行こうとすれば空中に浮いてしまう。実際は真下に向かって道があるような感じです。




登って来た東側の方向は両側に岩が張り出しで視界は狭い。それでもラ・リュエット氷河の左下にディス小屋がはっきりと見て取れ、真下にはシェイロン氷河の末端が白い細い帯となって流れているのが良く見える。登って来た急坂は写真では日陰になって良く見えないが、登って来る人達が四つん這いのような姿勢になって登って来ていた。
リードマッテン峠から見るディス小屋(左下)と
ラ・リュエット氷河(右上)
登ってきた峠への上り、
白い流れはシェイロン氷河の末端



リードマッテン峠から見る南東方向
左のピークが雲の中の山はブクタン(3838m)、
中右寄りはモン・コロン(3637m)、右端は
ミートル・ド・レヴェック(3654m)





登って来た反対側のアローラ側は広く見える。南東方向にはアローラの主峰モン・コロン(Mont Collon 3637m)が大きく見え、イタリアの国境になるブクタン(Bouquetins 3716m)が壁のように広がっている。
東方向には手前にニョキっと突っ立ったプチ・モンジュール(Petit Mont Rouge 2928m)の右にアローラの村からも良く見える尖峰エイギューイ・ド・ラ・ツァ(Aiguille de la Tsa 3668m)が先ず眼に入る。そして左右に標高3600m前後の山が連なり、何か中央に氷河を載せた高い山が雲間に見える。地図を見るとダン・ブランシュ(Dent Blanche 4357m)だ。他にも4000m峰は見えないかと探したが、雲が多いせいか見えなかった。

<追記 2011.08.26>
直ぐ近くのシェーヴル峠からの展望で、roku69さんやおーとさんやハイジさんのHPによると、下の写真の右端のダン・ド・ベルトールの後ろからスくっとマッターホルンが聳える姿の写真と記述があります。
リードマッテン峠はシェーヴル峠より65m程高いので、雲が無ければ間違いなくダン・ド・ベルトールの背後にマッターホルンが見えるものと思います。

リードマッテン峠から東方向を見る
手前の山の左はモン・ドラン(2974m)、中央のドーム状はプチ・モンジュール(2928m)
後ろの山の左はダン・ド・ペロック(3676m)とポワント・デ・ジュヌヴォワ(3674m)、尖った山はエギューイ・ド・ラ・ツァ(3688m)
中央の背後の山はダン・ブランシュ(4357m)



越えて来た峠を振り返る(アローラ側から見る峠)
左のV字はシェーヴル峠(2855m)
右のV字はリードマッテン峠(2919m)



アローラ側の下りは安心して歩ける。岩場を過ぎガレ道を過ぎると草地の登山道になり快適な下り道になる。振り返ると、越えてきたリードマッテン峠ともう1つのシェーヴル峠が見える。見た感じは岩だらけで簡単には越えられそうに見えないが、ちゃんと2つの峠とも道はしっかりついている。




ピーニュ・ダローラ(3790m)とツィジオール・ヌーヴ氷河

シェーヴル峠から下ってくる道と合流し、尚も快調に下っていくと、暫くの間見えなかったピーニュ・ダローラ(Pigne d'Arolla 3790m)の山が右手に見え出す。その右肩にツィジオール・ヌーヴ氷河(Gl de Tsijeore Nouve)の崩れ落ちる凄まじい姿が目の前に現れる。
12時半を過ぎて昼時だが持っているサンドイッチを食べるのをやめることにした。午後3時のバスに充分余裕がありそうなのでアローラのレストランで昼食を食べることにする。



ツィジオール・ヌーヴ氷河のモレーンの横を下る
左の山はブクタン(3838m)、
右奥はモン・コロン(3637m)



右側にはツィジオール・ヌーヴ氷河の高いモレーンが続いていて、その横を下る。大分標高は低くなったがまだブクタンの山も見え、モン・コロンの山も絶えず姿を見せている。道は穏やかな下りで気持ちの良い歩きができる。



次第にモレーンから離れて、アローラの村に向かった下りに入る。今回の1ヶ月弱のスイスの山歩きもこの歩きが最後、長いようでもアッという間に過ぎた。整備された綺麗な登山道を一歩一歩かみしめながら歩く。見える景色はアローラの村から見る景色に次第に近づき、モン・コロンも雄大な姿に変わる。

アローラの村に向かって下る モン・コロン(3637m左)とレヴェック(3716m右)



アローラの村の少し手前から樹林帯に入り、ようやく家が現れると直ぐにアローラの村のバス停のある広場に着いた。午後2時、今年のスイスの歩きは全て終わった。怪我も無く体調も天気も良く、ほぼ予定通り歩きとおせた。4年前に来た時と同じようにホテル・グレーシャーの窓やテラスにはゼラニュームやペチュニアなどの花がいっぱいだ。私のフィナーレを祝ってくれる花のように思えた。
広場のミネラルウォーターの蛇口で身体を拭いてレストランのテラスに入る。昼時を過ぎているのでオムレツしか頼めなかったが、大ジョッキを飲みながら花を楽しみ、モン・コロンの雄姿を眺めて3時のバスを待った。
食事が終わる頃、プラフルーリ小屋で一緒だったグループが次々とやってきた。ここが最後の歩きで明日日本に帰ることを告げると、皆気持ちよく別れの挨拶をしてくれた。
2つの小屋で一緒だったフランス在住の日本人のH氏ともバスが出る直前に出会えて別れを告げることができた。帰国後暫くして、彼が予定通りツェルマットまでのオートルートを、ゴンドラ等の乗り物に一切乗らず、完歩されたとの連絡があった。

アローラのホテル&レストラン          レストランのテラスから見るモン・コロン(3637m)

 夕刻に荷物が置いてあるマルティニ(Martigny)のホテルに着いた。翌朝7月23日に目を覚ますと雨、シトシトと降っている。何とここ1ヶ月間、雷雨はあっても朝から雨という日は一日も無く、帰る日になって始めての雨天。ブリーク(Brig)とベルン(Bern)を経由してチューリッヒ(Zurich)に着いても雨で、飛行機が飛び立つ時も雨が降っていた。
そして関空に着いて夕刊を買って驚いた。出発した同じ日の7月23日に氷河特急列車が転覆事故をおこし日本人客が被害に遭っているとのニュースが大きく載っている。事故のあった路線は通っていないが、近くを通ったので、事故前でなく事故後なら列車ダイヤが混乱し、うまく飛行機に乗れなかったかもしれない。




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