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越前海岸のヤドカリたち



ホンヤドカリ
越前海岸ではもっともよく見られるおなじみのヤドカリ。
小型で甲長は10mm程度、クボガイ、イシダタミなどをよく利用する。
岩場や護岸などのごく浅い所に群れていることが多く、活発に動き回るので見ていて飽きない。
普段は岩に付いた藻類をつまんでいるが、魚などの死骸があるといっせいに群がってくる。
ちぎれて流れ着いた褐藻の切れ端に集まっている姿も良く見かけるので、身近な緑藻より好きなのかもしれない。
寿命は3〜4年程、採集時の年齢にもよるが飼育下でも2〜3年は生きる。
餌はザリガニや魚用の人工餌をはじめ、魚肉、貝類、イカ、チリメンジャコ、煮干、干しえび、クリル、生ワカメ、塩モズクなど、およそヤドカリの餌として思いつくものは何でもよく食べる。
採集してきた個体を水槽に投入した際、まだ沈んでいる途中で餌に反応して着底した瞬間からガツガツと食べはじめたのにあきれたことがある。
体色は黒に近い暗緑色だが、飼育しているとだんだんと色あせてくる。
この場合、青みが強く出たり黄色っぽくなったりと、個体によってバリエーションが出るので面白い。
繁殖期は冬で、メスは脱皮直後にしか交尾可能な状態にならないために、オスがメスを鞄のようにぶらさげて脱皮するまで持ち歩く行動が飼育下でも観察できる。
この行動はヤドカリ好きの間では「鞄ヤドカリ」と呼ばれている。(命名者はヤドカリ研究所のyam所長)

約2年飼育した個体
退色して青みが強く出ている



鞄ヤドカリ
一般には「交尾前ガード行動」と呼ばれるらしいが・

                  




ケアシホンヤドカリ

深い緑色の体と朱色の触角の対比が大変美しいヤドカリ。
ホンヤドカリよりひと回り大きく甲長は15mmほどになる。
ヨモギホンヤドカリ、ホジゾラホンヤドカリなどよく似た仲間が何種類かいるが、夏場に越前海岸で見られるのは、ほぼ本種と思っていいだろう。
ホンヤドカリよりは少し深い所で見られ、そのような場所では優勢種。

ホンヤドカリに比べるとやや大型で、クボガイやコシダカガンガラなどの貝殻を利用することが多い。
餌はホンヤドカリ同様、何でも良く食べるが、やや植物性が強いので、時々生ワカメなどを与えてやると良いだろう。
みーばい亭では2年生きた個体が最長だが、赤い触角がよく目立つので魚に突付かれることが多く、それがストレスになるのか1年程でいなくなる個体が多い。
魚のいない水槽で上手く飼えば体が大きい分ホンヤドカリより長生きするのではないかと思う。

                     




ホシゾラホンヤドカリ
ケアシホンヤドカリによく似ているが、体色がやや暗く、白っぽい点が散在している点で区別できる。
ただし、自然下において同定するのは困難。
管理人の採集ポイントでは、何十匹かキープしたケアシホンヤドカリの中に1〜2匹混じる程度。
水槽で観察すると、体色だけではなく、触角の色もケアシホンヤドカリとは若干異なることが分かる。
同じ赤でも、ケアシホンヤドカリの触角が朱色っぽいのに対して、ホシゾラホンヤドカリは紅色に近い。
性格はやや臆病で、一度宿貝に引っ込むとなかなか出てこない。
昼間は石の下などに隠れているという報告もあるので、その辺りを意識して探せば、意外に見つかるのかもしれない。







ユビナガホンヤドカリ
内湾の砂浜や河口の干潟に多いヤドカリだが、越前海岸の磯で見かけることもある。
脚に縞模様が入るのでホンヤドカリと区別できるが、体色には変異が多く、黒に近いものから、茶色、ベージュ、青緑など、様々なバリエーションがある。
ホンヤドカリ同様、大変丈夫で飼育は容易。
我が家の飼育個体のほとんどは三重県の干潟で採集したものだが、ホンヤドカリと同じ磯水槽で問題なく飼える。
非常に活発なヤドカリで、岩組みを登るなど干潟のヤドカリらしからぬ立体的な行動も見せるが、じっくり観察しているとやはり底面にいることが多く、ホンヤドカリとはうまく棲み分けているようだ。
名前の通り歩脚の第一節が長いので、体の大きさが同じでもホンヤドカリよりひと回り大きく感じる。
そのせいかホンヤドカリと餌の取り合いになると同サイズならたいてい本種が勝つ。
食性はホンヤドカリと変らないが、元々干潟のヤドカリだけあってアサリが大好物。
ただし食べ方は雑でよく散らかすので、アサリを与えるのならしっかりとろ過の効いた飼育環境が必要かも。

      
     




クロシマホンヤドカリ
太平洋岸の磯では普通種らしいが、越前海岸では結構レア物で、潮間帯下部の岩場でケアシホンヤドカリに混じって時折見かける程度。
垂直に近い岩肌に付いていることが多く、採集しようと手を出すとコロコロと転がり落ちてしまう。
磯の海底は転石がごろごろしているので、その隙間に落ちてしまうとちょっとやそっとでは見つからない。
天敵から逃れるには、なかなか賢い方法だと思う。
小型で身体つきはホンヤドカリによく似ているが、性格は穏やかであまりガツガツした印象はない。
水槽で飼育していてもあまり存在感を主張することなく、地味に暮らしている。
画像ではユビナガホンヤドカリとよく似ているが、体形が明らかに異なるし、第一触角がオレンジ色をしているので簡単に区別できる。
食性は、やや植物食に近い雑食で、飼育下では人工飼料もよく食べる。


クリルを食べるクロシマホンヤドカリ
おとなしい性質でホンヤドカリやユビナガホンヤドカリのように
、我先に餌を奪い合うような行動は見られない。
体が小さいこともあって、良く食べかけの餌を奪われている。
ホンヤドカリ属では珍しい癒し系キャラである。





ヤマトホンヤドカリ
潮下帯で良く見られる大型のヤドカリ。
小型の個体は岸近くでも見られるが、大型のものは水深3〜7メートル位のホンダワラやカジメなどの褐藻類がよく茂った岩礁域に多い。
このような場所は宿貝になるサザエの漁場でもあるので、よく混獲されている。
私もサザエの生簀に入っていた個体を何度か「救出」したことがあるし、漁港のスロープを歩いているのを拾ったこともある。
これなどはサザエ網に掛かった個体が漁船から捨てられたのだろう。
バーベキューコンロで焼かれている不運な個体も見たことがあるが、サザエだと思って食べようとした人はさぞ驚いたと思う。(サザエ、アワビ、ウニ、ナマコ、カキなどは漁業権がかかっているので勝手に捕るのは違法。悪質な場合は逮捕されて実名で報道されることもあるのでご注意を)
高水温に弱いようで28℃を越えるとあまり見かけなくなる。
8月に水深20メートルほどの砂地を歩いている姿を見かけたことがあるので、水温の上昇につれて涼しい深場に移動するのかもしれない。
秋になって水温が下がると昼間でも岸近くの岩の上を歩いている姿をよく見かけるが、臆病で近付くとすぐに岩の隙間に走り込んでしまう。
捕まえても宿貝の奥深く引っ込んでなかなか出てこないことが多いが、中には宿貝を捨てて裸で逃げる個体もいるので、個体によって性格はけっこう違うようだ。
重厚で堂々とした体躯とエメラルドグリーンの複眼がとても魅力的なヤドカリだが、神経質で飼育は難しく水質や水温が不安定だとすぐに自切したり脱皮に失敗して死んでしまったりする。
できるだけストレスを与えないように、しっかりとろ過の効いた大き目の水槽で、水質や水温が不安定にならないよう慎重に管理する必要があるだろう。
肉食性が強いが、人工餌もよく食べるので、それほどグルメではないようだ。
神秘的な深いエメラルド・グリーンの複眼
この魅力的な眼がヤドカリ好きをたまらなく惹きつける





ベニホンヤドカリ
ヤマトホンヤドカリによく似ているが、鮮やかな体色と鋏脚の掌底部が細長いことで区別できる。
ヤマトホンヤドカリと同じく岩礁域でよく見られるが、生息水深はやや深いようで、海藻の少ない10メートル以深の薄暗い岩場でもよく見かける。
臆病なヤマトホンヤドカリとは対照的に性格は豪胆で捕まえると体を激しく出し入れしバチバチと大きな音を出して威嚇することもある。
越前海岸の沿岸部では私の知る限り最大種。(イシダタミヤドカリの目撃報告もあるが残念ながら未確認)
大きさの割りには動きが素早く、自然下では獰猛な印象を受けるが、水槽ではけっこうお茶目。
夜行性が強く、昼間は物陰で寝ていることが多い。
肉食性に近い雑食でアサリやエビなどを非常に好むが、人工餌もこだわりなく食べるし、石に付いたコケやワカメなどの植物質を食べることもある。
水温や水質はヤマトホンヤドカリ同様、慎重に管理する必要があると思われるが、性格がおおらかなのでヤマトホンヤドカリよりは飼いやすいと思う。
ただし大型で力が強いので飼育には60cm以上の水槽とがっしりとした岩組みが必要。
岩組みに全身が隠れるくらいの隙間がない時は、植木鉢などのシェルターを入れてやると良いだろう。
大型の個体は宿貝を持っても体を伸ばすと掌まで鋏脚が届くので採集する時は注意が必要。
挟まれるとけっこう痛くて小さな子供なら絶対に泣く。






ケブカヒメヨコバサミ
水深1〜5メートルくらいの明るい海底に多い。
石灰藻に覆われた開けた岩の上でよく見られる。
オオコシダカガンガラやイボニシなどの貝殻をよく利用するが、あまり動かないので上から見ると貝なのかヤドカリなのか分からない。
一見地味な印象を受けるが、ストライプの眼柄や櫛状の第二触角など細部のディテールはけっこう凝っている。
体の割に大きな貝殻を背負っているので、動きはゆっくりでのんびりとしているが、性格は開放的で常に明るい所に出ていてあまり物陰に隠れることはない。
反面、食性にはやや気難しいところがあって、人工餌にはあまり手をつけないが、魚肉やアサリ、クリルなどはよく食べる。
ただ動きがゆっくりなので、食べてる途中でホンヤドカリやユビナガホンヤドカリに横取りされてしまうことが多い。
ヤドカリの仲間は右の鋏脚が大きいホンヤドカリ科と両方の大きさが同じか左が大きいヤドカリ科に大きく分けられるが、この2つのタイプのヤドカリは同じ先祖から枝分かれしたのではなく、同じ異尾類ではあるが系統の違う別々の生き物が貝殻を背負う習性を獲得したことのよって起こった収斂進化だという説もある。
本種は両方の鋏脚が同じ大きさのヤドカリ科に属するが、水槽で同居しているホンヤドカリ科の連中と比べてみると、共通するのは貝殻を背負っているということくらいで、性格や動き方、体つきなどはまったく別の生き物のような印象を受ける。(ヨコバサミ類に限ってだが)
ちなみに一般にヤドカリ科は南方系、ホンヤドカリ科は北方系といわれるが、本種もヤドカリ科の一員らしく水温の上がる夏場に多く見られる。
ただし、水温の安定した潮下帯(越前海岸の真夏の最高水温は28℃程度)のヤドカリなので、飼育する場合は極端な高水温にならないように注意する必要があるだろう。
繁殖期は夏で、採集した持ち腹の個体が水槽内で幼生を放出することがあるが、プランクトン生活を送る幼生を育てるのは難しく、私も挑戦したことがあるが2週間生かすのがやっとだった。
一見、地味な印象を受けるが、眼柄は赤褐色と白の派手なストライプ。
この色分けにも何か意味があるのだろうが、
見れば見るほど不思議な顔つきのヤドカリだ。






ブチヒメヨコバサミ
ケブカヒメヨコバサミとよく似ているが、歩脚の関節部分に黒いブチ模様があるので区別できる。
小型で地味なヤドカリだが、良く見るときれいなブルーの眼柄やふさふさと揺れる櫛状の第二触角が華やかな美人顔。
ケブカヒメヨコバサミとは対照的に陰性が強く、明るい場所ではまず見られない。
やや深場の石の下などを丹念に探すと見つかるが、捕まえると宿貝に固く引っ込んでしまって、ちょっとやそっとでは出てこないので確認には根気と忍耐が必要。
素潜りしながら待っていると宿貝から出てくる前に溺死するので、とりあえずバケツなどに入れて陸上で観察した方が安全だろう。
おとなしくのんびりとした性格だが、ひっくり返ったまま何日も転がっていたりすることもあるので、実は意固地で頑固なのかもしれない。
水槽でも普段は石組みの奥に隠れてあまり姿を見せないが、時折前面に出てきて2〜3日意味もなく(あるのかもしれないが)うろうろしているかと思うと、貝組みのてっぺんで立ち上げパイプから吐出される気泡をジャグジーのように浴びていたり、他のヤドカリの貝殻に乗って執拗に踏みつけたりと、なんともつかみ所のない行動を見せてくれるので観察していて楽しい。
餌は生の魚肉やエビなどを好むようで人工餌には興味を示さない。
牡蠣殻に付着した藻類をつまんでいることもある。
小さな鋏脚を顔の前に揃えてガラス越しにこちらを見ている顔も愛嬌たっぷりで、個人的にはとても好きなヤドカリである。



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