平成21年9 戻る


                      松 室  猛

9月25日から始まる定例府議会に、またぞろWTCへの庁舎移転を提案するそうです。手続きとしては再議に付すことに問題はありません。買い取り価額が99,1億円から81,6億円となり前回の提示額から17,5億円下がっています。しかし、前回の否決は金額が高かったからではなかった筈です。しからば何がどう変わったというのでしょう。

2月議会で橋下知事は、道州制論議は依然として五里霧中で何も決まっていないのに大阪を州都にすると大声で叫んでいました。しかしそんなことを先走って言えば近隣府県はそっぽを向くと心配する声が強くかったのも事実でした。今度はアジアの中心となる港湾都市と言い出したのは、中国、韓国、バンコックなどを旅してそれぞれの華やかな発展振りに刺激を受けたからでしょう。先日の府議会議長の就任祝賀会で、アジア諸国の都市を例に出し大阪は国の意向に振り回されるのではなく独立しようとまでぶち上げたのはお笑いでした。

現実を仕切るのが首長の使命ですし、参会者の多くは議会関係者だけに、もっと現実的な大阪の未来像を語ることが出来なかったのはやはり知事の幼さそのものだと感じた人が多かったようです。数少ない海外渡航で、表面から見た街の様子を素晴らしいと感じたのでしょう。これなどは渡航経験の乏しい旅行者と同じ感覚だと言われてもしかたないでしょう。バブル時代の開発優先時代ならともかく、大阪にはアジアの諸都市にはない風格があるのも事実なのです。30年前と何も変わっていないと大阪を罵倒していましたが、高層ビルが林立するだけが近代都市では無いことすら分ってないようです。

橋下さん、あなたはもっと大事なことを忘れているのではありませんか。もし仮に府庁の移転が大阪の将来にとってかけがいのない施策だとするなら、なぜもっと地道に議会関係者と話し合って理解を深める作業をしないのか不思議でなりません。
自分の言うことが常に正しく、府民の大多数の意見だという思い込みが2月府議会で惨憺たる結果に終わったことを、もっと真面目に受け止めるべきです。
当選当初のあなたは、自公を中心とする府議会で同意が得られねば何も出来ないと発言をしていたのは束の間で、マスコミが囃し立てる虚構に乗っかり庁舎移転に反対するのは府民感覚に逆行するとまで言った傲慢さは、若さと議会運営の先見性がまったく無いことを露呈していると言わねばなりません。
自治法の規定では移転のためには議会の三分の二以上の賛成が必要なのは、庁舎の場所決定の大前提は何よりも府民の利便性を重視するためなのです。それを定例議会の追加議案として提出する手法は思い付きとしか言えなく、何でも自分の思う通りになるとの思い込みは支持率の高さに驕っていた愚挙としかいいようがありませんでした。

もう一度言いますが、2月議会の惨憺たる議決の結果、あなたはこの問題に関し府議会の各派とどんな話し合いをされましたか。仄聞するところでは、ほとんど話し合いは行なわれず相変わらずマスコミを利用してまくし立てるだけではありませんか。府議会の議決を軽く考えているあなたは、もし次も否決されれば信を問うこともあり得るとまで言っていますが、その前段で成すべきことを全くしていない態度は厳しく糾弾されるでしょう。議会との全面対決も辞さないとは何様の積りですか。
もし知事選をするとなれば20億円ほど掛かるそうですが、人件費を過酷に削りながらこんな無駄遣いをするというのですか。それとも脅しのつもりですか。いずれしろ決して賢い対応とはいえませんし、我が強過ぎる駄々っ子の対応としか言いようがないではありませんか。

2月府議会では議会側が見識を示し知事提案を葬ったことを改めて深く受け止めるべきです。その理由が移転そのものより知事の手法にあったことを知るべきです。

地方自治体のシステムについてもこの際附言しておかねばなりません。ご存知の通り、間接民主制は行政規模の拡大によって直接民主制が不可能であるため採用された代替的な機構なのです。従って間接民主制は選挙という形で、ある期間をおいて繰り返し既存の政治的決定を問い直しを行なうシステムなのです。即ち瞬間ごとに決定を問い直される政治的決定はシステムの不安定をもたらすからです。
WTCの問題を再議に伏すことなは理論的に妥当であっても、際限の無い問い直しは議会の決定を無意味なものにしてしまうのです。今回のケースはまさしくこのケースに該当し議会軽視になる可能性を秘めています。

橋下さん、あなたは二元代表性における首長なのです。したがって府民を代表する立場であることは否定しませんが、議会議員も同じく府民を代表する立場なのです。この間の乖離をどう埋めるのかは、文字通り民主主義の手法そのものとしての議会における議論であり、賛否が分かれる場合は多数決の論理で決着をつけるしかないのです。それでも知事の意に添わないから出直し選挙をして、信を問うとはどう言うことなのでしょう。仮にあなたが勝利したとしても議会の議決は変わらないのです。こんな民主制の基本的な論理が分らないはずはないと思いますが、それほどまでして移転する必然性は全くありません。
それでもそれが大阪のためだというのならもっと真面目に議会と議論をすべきです。それをせずに突っ張ることは許されるべきことではありません。

議員の皆さんにお伝えしたいことは、危機管理上安全な場所に庁舎を移転するというだけなら、府内に存在する木賃住宅の危険に対する対応はどうでもいいのですか。庁舎の移転問題など、それ程緊急性があると言えますか。移転問題に対する知事の傲慢で独りよがりの姿勢を容認することの方が、大阪にとって先行き大変不幸だということです。

こんながむしゃらな手法を許すことは議会を形骸化させる以外の何ものでもないからです。
議員が議会軽視に繋がる暴挙を容認することは自殺行為であることを自覚して欲しいのです。
次なる議会でも府民が納得する議論を展開され、議会の権威と見識を示されることを切望します。

平成21年9月14日



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