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橋下改革の評価

橋下知事が就任直後にプロジェクトチームを立ち上げ、初年度1100億円の削減計画を作成させ話題になったが、その中身は事業費は勿論人件費も大幅に切り込むものであった。
PT案を各部局や関係諸団体に示し意見聴取をした上で最終的に知事が政治判断をして予算案が作成されたが、まず何よりも評価できることはPT案を取捨選択して、総額1100億円の削減総額をそのまま踏襲したことである。
ただし、収入の範囲内で予算編成をするために府債の発行をしないと言い切っていたが、自民党などの意見を取り入れ退職金引き当て額だけは府債の発行をすることになっているが、この措置は退職金の平準化の観点からして許容されるものといえるだろう。

これから本会議が開かれ知事提案の中身が審議されるが、最終的にこの提案内容がどこまで具体化されるかは流動的であり、個別には歳入確保のための資産売却も買い手がつかねば計画倒れになる話であり、最大の問題とも言われる人件費カットに関する労使交渉も現時点では不透明さは拭えない。

議会としての改革はどうするのか

しかし、知事は自らの報酬を30%、退職金の50%カットを打ち出し、ともに痛みを分かち合う態度を明確にしているが、この状況を受けて議会はどんな対応をするのか、府民は大きな関心を寄せている。

報道によると、報酬削減を検討しているとのことだが、削減率に関して議論が輻輳し難航しているようであるが、地方議員は政治資金を独自に確保し難い制度上の問題もあり、その苦悩は理解できるが、知事の大阪復権への意欲を評価し、自らも痛みを分かちあう対応をしなければ府民は納得しないだろう。
定数削減も話題に挙がっているが、まず当面の対応として議員報酬を考えてみる必要がある。

議員報酬の決め方

議員報酬は、府庁外部の有識者10名で構成する特別職等報酬審議会に知事が諮問し答申を得て決定される仕組みになっているが、府議会議員の報酬は昭和63年から平成4年まで改定されていなかったが、前回の改正で82万円から93万円に改正された。それ以来現在まで16年間改定されていない。
かつて財政健全化のための行財政改革が声高に叫ばれた時代に、議員報酬のアップが前提ではなく報酬審議会に諮問し適正な報酬額を答申として得た上で、もし報酬額を削減すべきとの答申が出れば当然引き下げをし、その反対に現行報酬のアップが答申されたとしても、財政状況に鑑みてこのまま据え置くと決定することは報酬額の透明性を高めるためにも良いことであると議会内部で主張されたれたことがあったが、なぜか当時の各党は理解し難い理由でこの提案を退けていた。
ところで、今回の財政危機から脱却するための全庁的な取り組みに対して議会は何をするのか、議会自らの対応を明確に示さねば府民からのひんしゅくは避けられないだろう。

議員報酬の実態

現在大阪府議会議員には議員報酬と交通費等を支弁する費用弁償と政務調査費が支給されている。その詳細は次のとおりである。(期末手当も支給されている)

報 酬
議 長 月 額 117万円
副議長   103万円
議 員    93万円

費用弁償

居住地域により異なるが大阪市内の議員は7,000円、郡部の議員は居住地域により9,000〜15,000円が会議出席の度に支給されている。

政務調査費
議員個人に対して 49万円
会派に対して 10万円

政務調査費に関しては、監査請求が出され大阪府では外部監査を導入した結果多額の不適格支出が指摘され返還された額が多かったが、事後改善されて総ての支出に領収書の添付を義務付け透明化が図られている。

適正な議員報酬とは何か

この問題に関する解答は大変難しいが、特別職の報酬と比較する必要もあるだろう。

大阪府の特別職の報酬
知 事 145万円
副知事 114万円

知事は報酬月額の30%、副知事は20%削減を7月議会に提案し、8月から実施すると決めている。

そこで議員報酬の削減幅についてであるが、知事、副知事との整合性を考慮して25%削減を実施すべきことを提案したい。

93万円の25%はかなりの減収となり、支給額は697,500円となるが、このくらいの削減をしなければ府民も職員もその気概を評価しないだろう。

この金額が妥当かつ適正であるかはどうかは、誰しも直ちに判断出来ないだろうが、今必要なことは改革への決意をより明確にし、府職員は勿論のこと、府民とともに痛みを分かち合いながら一緒に汗をかく姿勢を、まず示すことが必要である。
小手先の改革案ではどうしようもない状況であることを正しく理解するなら、議会人としてもこの際思い切った改革を自ら示すべきである。

今回のPT案に基づく予算案は、前述のごとく資産売却のみならず、議会審議の経過の中にもかなりの流動性を孕んでいるが、この改革は単年度だけでなく来年度以降も継続されるものであり、更に大阪府の歳入構造は法人2税に軸足をおく特有のもであるため景気の落ち込みにより多大な影響を受け減収は避けられないだろう。このような財政事情を誰よりも詳しく承知しているのは議員であるから、それなりの決意を示し、まず議会が率先垂範すべきである。

政務調査費についての考え方

監査結果に基づき不適正支出が指摘されていたが、その傾向が皆無ではなかったとしても監査委員の指摘には直ちに同意しかねる論点があった。
例えば、各界の幅広い人材と会い意見交換することなどは広い意味で政調活動であり、最初は単なる表敬訪問で終わることもあるだろうが、これらを政調活動でないと決めつけることができるだろうか。
現在の執行状況にも、かなりの偏見に基づく支出制約があるようで、こんなに使い勝手の悪い政調費なら削減しても良いと議員が感じているようであるが、本来政務調査費は府政の根幹をなす政策決定作業に支弁されるものであり、議員本来の活動原資であるから安易に削減すべきではないと考える。
支出が明確でありさえすれば良いというものではなく、真面目な政策立案のためのあらゆる作業について支出を明確にすることを前提に、もっとおおらかな対応を許容すべきである。
こんな状態になっているのは、監査結果に驚いて世評を気にするあまり慌てふためいて返還する会派があったから、みんなが付和雷同的に従う愚を犯したからであって、使途に関してもっと毅然とした対応をしなかったことが問題ではなかっただろうか。その結果、窮屈な政調費を削っても良いと考えているとすれば本末転倒である。
従って政務調査費の削減は本来すべきでないと考えるが、かなりの事業費を削減しなければならない現状に鑑みて、この際10%の削減は止むを得ないだろう。

その他の費用

費用弁償は不透明な部分が多いので廃止すべきである。支給するとすれば交通費の実費のみとすべきである。

各派とマスコミの不思議な動き・・・

今回の議会の前哨戦ともいうべきマスコミ報道を眺めていると、どうにも腑に落ちないことがある。それは議員報酬の削減幅に関して共産党を除きすべての会派がその額を提示していないことである。現実には各派内で大変な議論が繰り返されている筈だが、一切表面に出てこないのは会派内でまとまらないこともあるだろうが、自・公・民の三派が、他派に先走られることを嫌うあまり共同歩調を取ろうとしているとしか思えず、大変不明瞭である。
すべての決め事は各派の合意が前提であることは理解できるが、最大公約数を求めるに際し意見調整ができない場合はそれぞれの見解を明らかにすべきである。
このあたりのことを取材できないマスコミに対しても、府民はマスコミが機能していないと思うのではないだろうか。

議員諸氏は、今こそ、「自分はこう考える、かく信ずる」との所信を胸を張って発言すべきである。
自分達の利害に関することだけは超党派で「仲良しグループ」的に対応する愚を避けるべきである。
それぞれの会派の思いが輻輳しても良いではないか。府民は議員各位の評価につながる意見を聞きたく思っているのだから。

元来議員報酬は報酬審議会と称する外部機関が答申の形を通じて意見を述べるものであることを理解され、敢えて議会外から発言せざるを得ない心情を理解願いたいものである。

時代は大きなうねりの中で着実に変化を続けている。
今ほど、地方自治体のあり方、地方議会のあり方が問われている時代はない。大阪府は意欲的な知事を迎えて大胆な改革の第一歩を踏み出そうとしており、この機を逃がさず議会も苦しみを乗り越えて大阪再生のために立ち上がるべきである。

大阪府議会議員各位が7月臨時議会に、「選良としての矜持」をもって臨まれることを期待するものである。

平成20年6月19日
地方行政研究会 松 室  猛



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