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『衆議院選挙を顧みて
松室猛のTMニ水会定例講演資料

平成15年11月12日

衆議院選挙を顧みて



政権選択選挙の顛末は。

平成15年11月9日に第43回総選挙が施行された。今回の選挙が従来と違っていた点は「政権選択」と「マニフェスト」が話題になったことだ。また、選挙結果は今後の政局を考える上で数々の示唆を含んでいるように感じた。

連立与党は絶対安定過半数を確保し勝利

民主党が政権奪取を声高に叫んでいた選挙であったが、与野党の議席数は連立与党が284議席に対して共産党を含む野党は196議席でしかなく、政権選択選挙の結果はは完全に現政権の勝利に終わった。

民主党は躍進したが、それでも目標とされた200議席は超えられず、議席数は177議席でしかなく、前述の如く野党総数でも197で200議席を超えられなかった。

しかし、自民党も単独過半数に達しなかったが、選挙後の追加公認等で284議席を確保し単独過半数を達成した。

公明党は3議席伸ばしたが社民、共産、保守新は激減し、保守新党は解党し自民党に合流を決めた。

共産党は今後も独自路線を歩むだろうが、社民党は土井たか子党首が選挙区で敗退し、比例区で浮かび上がったが党首を辞任した。当初社民党は議案提案権を持つ21議席確保が目標であったがその敗退振りは凄まじく、12議席減の6議席しか議席確保ができなかったことから、今後どのような道を選ぶのだろうか。
後継の党首に福島瑞穂氏を選出したが幹事長が決まらず、かなりの党内不協和音があり前途は多難なようだ。
社民党の土井たか子氏は社会党時代からの闘志でカリスマ性を持つリーダーであり、自社魁政権時代には衆議院議長を務めた文字通り党の顔であったが、その彼女が選挙区で敗北したことをもってしても、社民党の今後はきわめて厳しいものと言わねばならず、また6議席ではどうしようもなく、さりとて民主党とはかなり路線が違うので合流も難しいだろうから今後どんな道を選ぶのか興味のあるところである。

ともあれ二大政党化が加速された選挙だったが、公明党を含め社民党、共産党などの弱小政党の存在が今後どうなるのかなどを含め、わが国の選挙制度が政権交代を容易にし、小選挙区制に馴染む二大政党制に順調に移行する傾向と見ることが出来るのだろうか。
私は2大政党制への移行は今後かなりの紆余曲を経ることはさけられないと考えている

マニフェスト選挙と言われたが・・・

今回の選挙が「マニフェスト選挙」と言われていたが、果たしてどの程度従来の選挙と変わったかも検証してみる必要がある。
各党のマニフェストを入手して詳細に読み比べてみたが、率直に言って従来のスローガンだけの公約とは若干の違いはあっても、これによって選挙の帰趨が決するほどのインパクトは感じなかった。
各党が発表したマニフェストは、はっきり言って実にいい加減なものであった。
選挙後に私が主催している恒例の定例講演会で50人ほどの人にマニフェストを読んだかを尋ねてみたが、誰一人読んだ人はいなかった。複数少数の人が「見たことはある」と言われたが、読んだ人はいなかった。
テーマが「総選挙の総括」だから決して関心のない人たちの会合ではないが、これが現実であり実態だろうと思う。
面白い話を選挙中に聞いたことがあった。それはタクシーの運転手さんが、私に民主党が政権をとれば高速道路の通行料が無料になるのは結構なことだと言うものであった。そこで私は、すべての高速道路ではなく都市圏の高速道路は除くのですよと言うと、それは知らなかった、全部無料になると思っていたと言うのものであった。
この程度の理解しかされてないのは、詳しく読めば判ることだが演説などではそこまで言わないからこんな誤解を生むのであり、このやり方は少しずるいし、理解不足の責任は有権者側にあるのではなく政党側の説明責任の欠如に原因があること知るべきである。
マスコミの報道にもこの辺りの解説が十分でなかったことは否定できない。
このことをもって報道が恣意的であるとまでは言わないが、報道にも正確さが欠けていたことは事実である。

もう一つ、消費税の値上げに関してマニフェストを比べてみると、はっきりと値上げを打ち出していたのは民主党だけであるが、いつ、何パーセント上げるかについては示されていなかった。
これも中途半端であり、マニフェストとは「明らかにする」との意味なのだから、実にいい加減なものであると言わざるを得ない。
自民党は小泉政権の任期中には値上げしないとしていたが、共産党は終始一貫消費税廃止を表明していた。
国防および外交に関して民主党は裏表紙の一部に少しだけ記述があったが、マニフェスト選挙と言われながらこの程度のものでしかなかったが、しかしこれからはマニフェストが定着する可能性と雰囲気は感じられたのではないだろうか。

今回選挙で浮かび上がった最大の関心事は。

最大の関心事は第3勢力公明党の存在であろう。
公明党の選挙結果を眺めてみると、3議席伸ばしたもののすべて比例代表であり、小選挙区の候補者数は9名でしかなかった。そのうち大阪が4、兵庫が2候補で関西だけで6/9候補者がおり、いかに公明党が関西で強いかがうかがえる。
この数字は公明党単独では候補者擁立が困難な選挙区が多いことを示しているが、各選挙区でおよそ2〜3万票くらいの支持者があり自民党候補が民主と競り合っている選挙区では公明票が選挙結果を左右する力を持っている現実がある。
従って大阪、兵庫では公明党の候補者が立候補している区では自民党は選挙協力と称して自派の候補の擁立を控えて協力しているのである。

選挙協力とは何を意味するのかについて随分議論があるが、現状では候補者擁立しないことだけでは収まらず、自民党候補への支援を取り付けるために公明党が出ていない区でも自民党の候補者自身が選挙区は自分に、比例代表は公明党に投票してくれなどといったふざけた対応をしている者がいたが、ここまでくると何でもありで、本当の自民党支持者は自民党離れを加速させるだろう。
それなのに当の本人は選挙区だけの候補ではなく比例区にも重複立候補しているのである。
これだけのことを言うのなら比例代表との重複立候補を辞退し小選挙だけで戦うべきである。
小選挙区の候補者が、なりふりかまわず当選を目指す気持ちは判らなくはないが、こんな状態の中で日本の2大政党制+弱小政党複数の構図が進行しているのである。
連立政権によって国政運営をしている国は世界中に複数あるが、単独で政権が取れないから連立政権を組むのであって、このこと自体が2大政党制になっていない証拠である。
イスラエルでは、正確には記憶してないが10党ぐらいが連立を組んでいるが、相対する2大政党を補完する弱小政党の存在が極めて大きな役割を持つことになるのである。
連立は常にこの第3勢力が、数に象徴される力以上の影響力を持つに至ることが問題なのではないだろうか。
自民党が連立の相手であり友党関係にある公明党と袂を分かてば、衆議院では過半数があるものの参議院は与野党が逆転し、衆議院を通過した法案が参議院で葬られる可能性が出てくる
このことは現有議席を例に国会運営を考えたシュミレーションでしかないが、その前段の選挙で自公がまったく別行動をとれば自民党議席はかなり減ることも容易に予測が出来るのである。
国政の安定のために・・・を大義として自公が友党関係にあるのだが、このことは両刃の剣で、メリットもあればデメリットもある。
少数意見の尊重は大事なことではあるが、主たる政党の1/8しか議席がない政党が過ぎたる影響力を持つことはやはり問題ではないだろうか。

大阪の低投票率の原因は何か

大阪が全国比で見ても投票率が低いのは何が原因なのかも検証してみる必要がある。
今回の選挙の投票率は全国平均で56,86パーセントであった。
大阪は54,92パーセントでしかなかったが、前回は55,69パーセントながら全国ワーストワンであった。今回は埼玉が53,98で最下位、大阪はワースト2であったが、いつも大阪の投票率が低い原因は何によるものかを検証してみたが、決して選挙に関する関心が低いとは思えないのだが現実はこの通りである。

大阪の衆議院選挙は19選挙区であるが、自民党候補は総数13候補者であった。
すなわち6選挙区で候補者擁立を見送ったのである。
具体的には公明党との協力区で大阪3区、5区、6区、16区の4選挙区は候補者擁立を見送り、保守新党を推薦したために19選挙区も候補者なし、11選挙区は協力区ではないが候補者擁立を見送ったのである。
わが党候補者がいない選挙区で自民党支持者がどんな行動に出るかはおよそ察しがつくが、やはり投票に行く意欲を削がれることになるだろう。このことは我が党サイドだけの話ではあるが投票率を下げる原因になっているのは間違いないだろう。
選挙協力がもたらす副次的な結果ではないだろうか。

現行選挙制度と政党の対応はこれだ良いのだろうか

現行選挙制度にはかなりの問題点が指摘されているが、小選挙区で落選した者が比例区で蘇る制度、すなわち小選挙区比例代表並立制にかなりの不協和音が聞かれるところである。
しかし現実には重複立候補を認めているのだから選挙協力にそろそろ見切りをつけて全選挙区に候補者を擁立して、仮に選挙区で負けても惜敗率で繰り上がる道を選ぶことも検討すべき時期ではないだろうか。
そんなことをすれば小選挙区制が導入された最初の選挙のように自民党が3勝16敗の惨憺たる結果に終わると言うかもしれないが、あの時は自民党対新進党の時代、すなわち自民党1に対して、社会党、民社党、公明党に加え日本新党の4党が相手の選挙であったためであり、今日の選挙情勢とはかなり違いがある。勿論、厳しさはあるだろうが公明党とは選挙協力ではなく政策協力をする友党としての付き合い方の道を探れないものだろうか。
本来の政権与党とはそうあるべきであって、堂々と各政党が独自の政策を披瀝し合い戦ってこそ政党が選挙民から評価され、機能するものだと考えるのである。

しかし、弱小勢力の政党は単独では勝利できないだろうから自民党以外の政党ともバーターによる選挙協力をする可能性は当然あるだろう。これが問題なのである。しかし、そうなると政権与党としての友党関係とは政策協力ではなく選挙の貸し借りだけではないのかとの疑問がわいてくる。
政権を維持するために政策を中心とした友党としての信義を守ることさえ出来れば不可能ではない筈である。これが出来ないのは政党間の信頼関係が貸し借りだけで結びついていることになるではないか。こんないびつな政党間の付き合い方の原因が小選挙区制にあるとすれば選挙制度の改正を真剣に考えるべきである。

こんな2大政党+弱小政党複数の構図の中で連立が定着することは政権の不安定化を招くだろうし、本格的な2大政党の時代は到底到来しないであろう。

もっとも2大政党制だけが議会制民主主義のベストだとは思っていないが、いずれにしても価値観が多様化している現代において、人が人を選ぶ制度で完璧な制度はないだろうが、よりベターな制度を模索するか、あるいは政党のあり方を根本的に考え直さねば日本の政党政治の未来はないだろう。

無党派層の増加が選挙のたびに云々されるが、この傾向が何によって増幅されているのかも案外この辺にも原因があることを真剣に考えてみる必要がありそうだ。

 平成15年11月                   松 室  猛



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