平成15年09月16日 戻る
これで良いのか少年犯罪の過激化と少年被害
松室猛のTMニ水会定例講演資料


これで良いのか少年犯罪の過激化と少年被害
≪少年事件の低年齢化、見えぬ動機、少年検挙の4割は中学生、殺人などの凶悪犯も≫

    =親による幼児、児童の残虐殺人の多発をどう受け止めるべきか=

警察庁の発表によると、咋年1年間に刑法犯で検挙された少年は140、775人。
このうち14~16歳の低年齢層は17〜19歳の1、8倍。
中学生は全体の4割を占め殺人などの凶悪犯223人が検挙されている。
少年法の規定上逮捕、起訴の対象にならない13歳以下の少年は20、477人が補。

平成15年の少年による重大犯罪
7月1日−長崎市で種元駿ちゃん(4歳)幼児誘拐殺人事件(裸にして立体駐車場から墜落させ殺害) 中学1年生(12歳)の少年を補導(14歳未満のため逮捕できない)
この事件は少年法以前の問題を含んでいる。何故なら犯人が14歳未満なので児童福祉法での対応となり同法では責任能力がないことを前提としており、刑事責任を問われることはない。
6月28日−沖縄における中学生複数による殺人、死体遺棄事件
沖縄県北谷(ちゃたん)町の墓地で、中2の座喜味勉君(13歳)に、高校1男子(17歳)、中3男子(14歳)、中3女子(14歳)が墓地で1時間半にわたり殴る蹴るなどの暴行を加え角材などで頭を殴打するなどして死亡させた。14少女は遺体を埋めることを共謀した。17歳少年には「未必の故意」を認定し逆送を決定。14歳の男女には初等少年院送致を決定。この際裁判官決定で14歳少年には相当長期、女子には比較的長期の処遇勧告をつけた。相当長期とは2年前後、比較的長期は1年半前後の収容となる事例が多い。

犯行にいたる兆候をなぜ家族や学校が拾い上げられなかったのかが問題である。 =6年前の酒鬼薔薇事件との同質性。今回の事件は少年法以前の問題=

[ことばのファイル]
少年法の「少年」は「20歳に満たない者」。 少年と同じような言葉に「児童」がある。
学校教育法では小学生のことを言うが児童福祉法では18歳未満はすべて「児童」。
ゼロ歳児が「乳児」、1歳以上小学校入学までが「幼児」、小学生から18歳未満が「少年」である。
児童手当法では18歳に達する日以後の最初の3月31日までは18歳を過ぎても児童扱いとなっている。
民法は「満20歳をもって成人とする」とあるが少年も児童も成年になれる。結婚によって成人に達したものとみなされるからだ。結婚が認められるのは男18歳、女16歳であるが成年前に離婚しても成年扱いが継続し、取引などが出来る。
(少年法の問題点)
 刑法にもとづく刑事裁判   刑罰を課すことが目的
 少年法にもとづく審判    犯罪はすべて「非行」であり、万引きも殺人も「非行」。
従って非行は処罰するのではなく矯正と保護が目的。

酒鬼薔薇聖斗事件とは平成9年5月24日に須磨区で起きた少年による残虐な殺人事件。

14歳の中学生が犯した小学生殺人死体遺棄事件。首を切り取り自宅に持ち帰り風呂場で洗った上、天井裏に隠し、中学校の正門横の塀の上に置くという異常な事件。
それ以前の2月10日に公園を通りかかった小6の女の子2人の頭をショックハンマーで殴った。 3月16日には小4の女の子をげんのうで殴り23日に死亡させた。
その10分後に通りすがりの小3の女の子の腹をナイフで刺し14日間の傷を負わせた。

この少年は現在20歳になっており仮退院し年内に社会復帰する見通しとなった。

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(以下の資料は平成10年3月に行った松室猛の定例講演の資料を再掲したものである)

※酒鬼薔薇事件以後毎月発行されている「家庭裁判月報」に、凶悪事件(殺人,強盗殺人、リ  ンチなどによる傷害致死)を起こした14歳以上16歳未満の再犯についてのデータを初めて公表した。
 該当者は65年以降40人、そのうち再犯者は17人で42%に達している。
 [矯正と保護が如何にいい加減かを物語っている]
※事件にみる少年法による審判結果と問題点
 三菱銀行北畠支店事件
 昭和54年、住吉区の三菱銀行北畠支店に猟銃を持って籠城した梅川昭美は無抵抗の警官や行員4人を射殺した。梅川は15歳の時に盗みに入り、その家の23歳の若妻を切出しナイフでめった刺しにし殺害した凶悪犯である。
 梅川は中等少年院に入ったが4ヶ月目に脱走し、一ランク上の特別少年院に移送された。それでも梅川は中等少年院と特別少年院に通算1年半いただけで出所した。
特別少年院でも対応できない場合は26歳まで収容可能な医療少年院に送られることになっているが、梅川には適用されなかった。
 その結果がこの事件である。

・加害者の人権と被害者の人権についての議論の一例
昭和44年の春に神奈川県で発生した高校生同士の殺傷死体遺棄事件の後日報告がある。
[28年前の[酒鬼薔薇]は今] ノンフィクション作家・奥野修司(文春9年12月号)
−事件のあらまし−
東名高速川崎インターの近くで高校1年の男子が、胸部12、背中7、顔16ヶ所など合計47ヶ所を登山ナイフで刺され殺害された事件。
その後左手で頭部を押さえつけ切断した。

横浜家裁はこの少年を[分裂病質の精神障害]と認めた。しかし狭義の精神病者ではないので精神衛生法上の強制入院はさせられず栃木県の喜連川少年院に送致した。

昭和50年(事件から6年後)に少年の父親と同年代の女性の養子となり姓名を変え、新しい名前で関西の有名私大に入り卒業後、別の大学院に入り勉強を続けた。やがて少年は結婚し現在は弁護士として活躍している。

少年法の趣旨からいえば彼は間違いなく[更生]したが、彼の狂気によって奈落の底に突き落とされた遺族に対して慰謝料の支払いもなく、28年前の悲しみを癒されることもなく、悶々とした生活を続けている。

加害者の人権にはきめ細かく配慮しながら被害者の遺族には何のケア−もせずに良いのだろうか。少年法の問題点の一端がここにある。

※16歳以上の少年による刑事事件と量刑について

[家裁の審判結果は公表されない−家庭裁判月報に要旨のみ掲載]

名古屋のアベック殺人事件

 20歳、19歳(主犯格)18歳17歳の男4人と17歳の女2人の計6人は、若いカップルに因縁をつけ木刀や鉄パイプで殴る蹴るの暴行を加え、命乞いをする男性の首にロープを巻き両端を綱引きのように引っ張り絞殺した。

女性は全裸にして暴行しリンチが繰返されロープで絞殺した。

審判結果 主犯格の男は19歳6ヶ月で成人と実質変らないとして少年としては10年ぶりに死刑の判決がなされた。しかし控訴審の結果[精神的に未成熟な少年・・]の故をもって無期懲役となった。ところが少年法第58条によると[無期刑は7年]で[仮出獄を許す事ができる]となっており、主犯格の男がおとなしく刑務所に入っておれば、これほどの凶悪犯でも26〜7歳で出獄できることになる。

女子高生コンクリート殺人事件

 埼玉県の女子高生が帰宅途中拉致され、40日間も監禁、殴る蹴るの暴行と凌辱を繰返されたのち殺され、死体はドラム缶詰めにされ江東区の埋立地に捨てられた。主犯格の18歳は懲役17年、17歳は懲役5〜10年、16歳の2人は懲役3〜6年となった。

・88年8月。東京地裁
18歳少年が盗みの目的で叔母を殴り殺し強盗殺人の罪に問われた。
懲役5〜10年の不定期刑
・88年11月・東京地裁
交際中の女子大2年生を殺した16歳のアメリカ人少年は3〜7年
・89年3月・東京地裁八王子支部
 19歳の暴力団員が兄貴格の組員を殺害、多摩湖に遺棄。懲役13年
・89年7月・横浜地裁小田原支部
19歳の少年がクラクションを鳴らされたことに腹を立て運転手を刺殺。懲役7年
・89年9月・福岡地裁
19歳の露天商、19歳の大工、18歳の土木作業員、17歳の鉄筋工が20歳の工員に殴る蹴るの暴行を加え、ガソリンをかけて焼死させた。
 それぞれ無期、懲役5〜10年、4〜8年
・91年11月・宇都宮地裁栃木支部
19歳少年がガールフレンドからの別れ話に逆上して絞殺、灯油をかけて焼いた。懲役5〜10年
・93年1月・神戸地裁
17歳の高校生が路上で同級生を刺殺。懲役5〜8年
・94年6月・東京地裁八王子支部
18歳の少年がケンカの仲裁に入った消防士を刺殺。懲役5〜8年

―これで良いのか少年法― 
(以下の記載は猪瀬直樹著[少年法は少年を救うか]から引用)

懲役○〜○年と記しているのは不定期刑だが、少年法58条では[その刑期の3分の1]
で仮出獄が許される。
5〜10年の不定期刑であれば普通は最低5年と考えるが、少年法では短い方の3分
1、即ち1年8ヶ月で仮出獄できる計算になる。
犯行時に16歳未満であればどんな犯罪を犯しても刑罰は受けない。
また18歳未満であれば、何人殺しても死刑にはならず少年法による緩和規定で無期に
なり前例からして必ず仮出獄できる。 

貧しさ、愛情に恵まれない生い立ちが犯罪を生むとする伝統的な考えがある。
従って一時の過ちも、反省して罪を償えば許させる。このような[性善説]は否定しな
いとしても一部には矯正不能な人格がある事実も認めなければならない。
精神病質者、サイコパス、性的な歪みを抱えた人格、彼らは精神障害者ではなく責任
能力があるとされるが故に、隣人に溶け込んで存在している。
こんな状況の中で性善説に対して新しい感覚が欧米で生まれつつある。

・アメリカの「ミーガン法」
7歳の少女を暴行、殺害した事件をきっかけに制定された。
ミーガン法は、犯人に性犯罪の前歴があり[再犯の可能性のある危険な人物]であれば、その所在を特定される。住民が請求すれば性犯罪の累犯者の住所氏名の閲覧が許される法律。
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少年法はどう変わったか

「少年法の一部を改正する法律」平成12年1月改正、同12月6日公布
主な改正点

1 少年事件の処分等のあり方の見直し

従来は16歳以上であった刑事処分可能年齢を14歳以上とし、その罪状により検察官送致決定が出来ることになった。

2 少年審判の事実認定手続きの適正化

家裁が取り扱う事件は特別な場合を除き一人の裁判官が取り扱っていたが裁定合議制を導入。 検察官および弁護士である付添い人が関与する審理の導入。

3 被害者への配慮の充実

審判が被害者などの心情や意見を聞くことにより、少年審判に対する被害者を始め国民の信頼を確保する。
損害賠償請求訴訟のために保護事件の記録を求める声が多く、一定の要件のもとにこれを認めることを明文化した。

≪少年非行等の概要・警察庁生活安全局少年課の資料からの転載≫

平成15年1月〜6月までの主な少年非行事例

殺人および殺人未遂

暴走族構成員による集団リンチ殺人事件(1月、福岡)
 暴走族構成員である有職少年3名(16、17歳)、高校生2名(いづれも16歳)
 無職少年(16歳)、中学生3名(15歳)の9名は、暴走族内の役付を巡るトラブルから有職少年(17歳)に暴行を加え、うち1名がはさみで同人の左胸を刺し、殺害した。
無職少年等によるクラクション殺人事件(2月、神奈川)
無職少年(19歳)有職少年(18歳)は、平成14年11月、交通上のトラブルから、鉄パイプで大学生(19歳)の頭部などを殴打して殺害した。
ウ  中学生による殺人未遂事件(2月、埼玉)
中学生6名(15歳5名、14歳)は、対立する中学生グループの中学生(15歳)を金属製バットで殴るなどの暴行を加え、さらに腹部などを刃物で刺し重傷を負わせた。。
高校生らによる殺人事件(2月、茨城)
女子高生(18歳)は、成人3名(ホームレス男性)とともに、ホームレス男性(34歳)に殴る蹴るの暴行を加え、さらに川に投げ込み溺死させた。
高校生による実母殺人未遂事件(2月、埼玉)
高校生(17歳)は、統合失調症の実母(53歳)と口論となり、包丁で胸部、腹部などを刺したが、傷害を負わせるに止まった。
カ 無職少年2名(16歳、男女)は、平成14年9月、二人の間に生まれたえいじの口と鼻をふさいで窒息させ殺害し、死体を公園に埋めて遺棄した。
有職少年などによる殺人事件(3月、大阪)
有職少年(18歳)は、成人と共謀の上、日頃からトラブルとなっていた隣人の無職男性(71歳)の腹部を果物ナイフで刺し殺害した。
無職少年による殺人未遂事件(3月、大阪)
無職少年(16歳)は、中学生2名(15歳、外国人16歳)と口論になり折りたたみナイフで2名の胸部や腹部を刺すなどしたが、傷害を負わせるに止まった。
無職少年による殺人未遂事件(3月、大阪)
無職少年(18歳)は、平成14年11月、有職少年(17歳)と口論となりナイフで腹部等を刺したが傷害を負わせるに止まった。
高校生による殺人事件(4月、神奈川)
高校生(17歳)は生活態度を注意した実父(45歳)に激昂し首をしめ殺した。
有職少年による殺人、死体遺棄事件(5月、千葉)
有職少年(19歳)は別れ話のもつれから交際中の女性(26歳)の首をしめ殺害した。
有職少年による殺人未遂事件(5月、長野)
有職少年3名(19,18,17歳)、無職少年3名(いずれも18歳)は15年2月、中学生(13歳)に因縁をつけ、殴る蹴るの暴行を加え、足をロープで縛りオートバイで約1,5キロ引きずり殺害しようとしたが傷害を負わせるに止まった。
無職少年による逮捕監禁、殺人、死体遺棄事件(6月、大分)
無職少年5名(19歳2名、18歳、17歳)、有職少年(18歳)成人男性3名(24,27、33歳)と共謀の上、トラブルとなっていた会社員(28歳)を金属バットで殺害し、死体をドラム缶の中にコンクリート詰めした上海中に放棄した。


2強 盗

無職少年による強盗致傷事件(1月、東京)
無職少年2名(18歳)は、検察官(52歳)の現金15万円等在中のバッグをひったくり逃走し、その際、金属バットで殴るなどの暴行を加え、傷害を負わせた。
高校生らによる強盗致傷事件(1月、長崎)
高校生(18歳)、有職少年(18歳)、無職少年(18歳)3名は、男性(29歳)に暴行を加え、現金約2万円を強奪するとともに、暴行により傷害を負わせた。
無職少年による援助交際名下の誘い出し強盗致傷事件(2月、大阪)
無職少年3名(16歳2名、15歳1名)、女子中学生(13歳)は、平成14年9月、中学生が車で走行中の男性(35歳)を呼びとめ、援助交際を待ちかけ公園に誘い出し、待ち伏せしていた3名が殴る蹴るの暴行を加え現金3万五千円を強奪するとともに、その際の暴行により傷害を負わせた。
中学生によるも持凶器強盗事件(2月、千葉)
中学生女子4名(15歳2名、14歳2名)は、無職女性(21歳)に果物ナイフを突き付け、現金1万5,000円を強奪した。
高校生らによる刃物使用強盗事件(3月、東京)
高校生(18歳)、予備校生(19歳)、無職少年(19歳女性)の3名は、金権ショップ店内に押し入り、従業員(51歳)に包丁を突き付け、現金やく350万円等を強奪した。
高校生による強盗致傷事件(3月、秋田)
女子高生2名(17歳)は、顔見知りの女子高生(17歳)を鉄パイプで殴るなどの暴行を加え、現金7,000円を強奪した。
高校生による強盗致傷事件(4月、茨城)
高校生(15歳)は民家に侵入し、干してあった女性用下着を窃取したが、家人(18歳、女性)に発見追跡され、逮捕を免れるため殴打するなどの暴行を加え傷害を負わせた。
高校生による強盗致傷事件(4月、東京)
高校生4名(15歳3名、16歳)は、ジョギング中の無職男性(66歳)に特殊警棒で暴行を加え、金品を強奪しょうとしたが大声で助けを求めたため未遂に終わった。
高校生による強盗致傷事件(4月、福島)
高校生4名(17歳3名、18歳)は、通行中の予備校生(18歳)に殴る蹴るの暴行を加え、現金1,500円を強奪し、その際の暴行により傷害を負わせた。
高校生らによる連続強盗事件(5月、大阪)
高校生7名(17歳6名、16歳)、有職少年(17歳)は、通行人の男性らに因縁をつけ、現金を強奪する路上強盗事件9件を敢行し、約20万円を強奪した。
無職少年による郵便局強盗未遂事件(5月、長崎)
無職少年(17歳)は郵便局に押し入り局員に包丁を突き付け現金を強奪しようとしたが通報で駆けつけた警官に逮捕されい未遂に終わった。
中学生による路上強盗事件(6月、大阪)
中学生9名(15歳5名、14歳4名)、高校生(17歳)は、「初電狩り」と称して始発電車を利用する会社員から金品を強奪する事を企て、金属バット、中国武具トンファーなどで暴行し現金を強奪するなど、強盗、恐喝5件の犯行。
高校生らによる刃物使用連続強盗事件(6月、東京)
高校生8名(16歳、2名、18歳、6名)予備校生(16歳)無職少年(18歳)は、会社員(46歳)など16名に対しナイフを突きつけあるいは殴る蹴るの暴行を加え連続して強盗致傷、恐喝などを敢行し46万円などを強奪した。
高校生らによる強盗致傷事件(6月、東京)
高校生ら8名(16歳3名、17歳4名、18歳)無職少年(16歳)は出会い系サイトを利用して金品を強奪する事を企てうち1名(女性)が24歳男性を誘い出しスパナで殴るなどの暴行を加え現金、キャッシュカードを強取し暗証番号を危機だし75万円を窃取した。


この他、傷害致死事件4件、傷害事件6件、恐喝事件4件、窃盗4件がある。

(資料作成 松室 猛・15年9月)



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