平成13年5月    戻る


再燃した首相公選制を検証する
小泉首相が就任早々に首相公選制に関して「憲法改正もこの点については国民も了承するだろう」と発言をし話題を呼んでいるが「首相公選制」が何故再燃してきたのかを含めその問題点を検証してみたい。

公選論の発端
昭和39年に中曾根康弘衆議院議員が私案として発表したのが最初ではないだろうか。
当時の政治環境は現在とは比較にならない程の長老支配があり、複数少数の政治的ボスが議員を配下として、かなりの影響カを持っており、若手の論客の出る幕がなかった時代であった。

公選論再燃の理由
最近の首相は10年間に10人も総理が誕生しては消えるといった指導力の欠如と選出過程の不透明さから、皆んなで選ぶ方が良いのでは・・との思いが出てきたのではないか。
森総理が、失言や事に当たる対応の不的確さから支持率が極端に低下し、自らの意思とは別に辞任を強いられて退陣したが、森総裁の選出過程が不透明であったことから後継総裁はガラス張りでとの思いが強かった。議員内閣制では通常最大会派の代表が院において首班指名を受けるので、自民党の総裁を準公選で選出することになった。その結果、小泉氏が国民的な人気で当初の予想を大幅に覆し圧勝したので、党内選挙であったが、衆議院議員だけではなく広く民意を問うのが良いのでは、との意見が加速された。

公選論の問題点
●憲法上の制約
憲法第6条〔天皇の任命権〕天皇は国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命する。
〃 第67条〔内閣総理大臣の指名〕内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決でこれを指名する。
(その他にも、第1条〔天皇の地位、国民主権〕第41条〔国会の地位、立法権〕、第66条〔国会に対する連帯責任〕、第69条〔内閣不信任決議の効果〕等がある)
即ち、現憲法下では明確に議員内閣制が規定されており憲法改正をしなければ首相の公選は出来ない。
●首相の独立制に開する疑念
国民の直接選挙で選ばれる首相は国会との関係で独立制が強まり、国会における不信任決議だけで総辞職に追い込めるのか。
首相の発議権と議会決議との乖離が問題化する可能性がある。
●独裁や大衆迎合に陥る危険性の問題
新しい時代は構造改革をはじめ、あらゆる分野で痛みを伴う施策が出てくる可能性が高いが、勇気を持って政策を訴える候補より大衆におもねる候補、即ち人気者が選ばれてしまう傾向は否定しがたい。その結果能カを欠く人物が選ばれる可能性がある。
●候補者要件をどうするのかによって多党化の傾向が出てくる問題
アメリカの大統領選挙は、2大政党がそれぞれの党内で予備選挙をして候補者を絞り込む作業を前置しているが、日本の首相公選は憲法の制約を除くとしても候捕者要件をどうするのか(国会議員以外は候補者になれないので良いか〕、現在のような推薦制をとるとすれば党内がまとまらず多党化傾向が助長される問題がある。(政権の不安定要素の増大)

本末転倒の公選制論議
政治不信の最大の原因は政治家の資質と選挙風土に起因するものであるが、さらに追い打ちをかけているのは政党が民意を掌握するに至っていないことである。
数々の問題がある首相公選制を議論する前に、議員内閣制とは、政党を中心に首班を選ぶ制度であることを正しく理解する必要がある。
制度を正しく機能させるために、政党がより開かれたものであり、信頼される組織であらねばならない。
まず、政党が代表を決めるのに国会議員だけで決めるという閉鎖性と議員の独善性を排除すべきである。
党員の意思を等しく聞かないのは党員の資質を患弄するものであり、これらの改善によって党員の意識と資質を高めるべきである。
現在の政冶情勢下では、まず自民党が率先して入党資格を厳格にし、党員が誇りを持てる政党に脱皮すべきであり、これらを前提として、総裁選出を党員全員による選挙(党内公選制)を実施すべきである。

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