平成10年8月      戻る     

議員定数を考える

行政改革の断行が叫ばれ、行政システムの簡素化の取組が各分野で始まっているが、議会改革も当然議論されねばならない。思い返せば土光臨調の際に議員定数に論及したことがあったが、行政改革は行政に関する取り組みであり、三権分立の建前からも行政が立法府である議員の定数を議論するのは僭越ではないかとの異論があった。

それ以来、行革論議の中では議会改革は議論されなくなったが、議会改革は勿論、議員定数が妥当かどうかの議論は議会自らが発議し、取り組まねばならないのは当然である。
議会改革の一つの論点として議員定数はどうあるべきかを考えてみたい。

★我が国議会制度と議員定数制定の沿革
 我が国の地方自治制度は明治21年に市町村制、23年に府県制が施行された。施行に当たってはフランスの議会制度の形態を見倣って施行された部分が多く、議員定数はフランスの地方議会の規模をほぼそのまま採用している。

★議員定数は何によって決められているか?
 昭和22年に制定された地方自治法90条および91条において都道府県ならびに市町村会議員の定数が定められている。

●都道府県会議員の定数〔地方自治法90条〕
人口70万人未満は40人、人口70万人以上100万未満は5万人、100万人以上は7万人を加える毎に議員1人を加える。定限は120名とする。
●市町村議会の定数
人口30万人〜50万人までは人口20万人を加えるごとに議員4人を増し100名を定限とする。

人口2千人未満の町村 12名
2千人〜5千人未満 16名
5千人〜1万人未満 22名
1万人〜2万人未満 26名
2万人以上の町村、5万未満の市 30名
5万〜15万未満の市 36名
15万〜20万未満の市 40名
20万〜30万未満の市 44名
30万人以上の市 48名

参考)常任委員会の設置数に関する規定

都は12委員会
250万以上の府県は8以内
250万未満の府県と、100万未満の市6以内
100未満の府県と30万未満の市は4以内

上記の如く地方自治体の人口規模に応じて最大定数が地方自治法で定められている。この法定定数は上限を示すものであり、同法90条および91条の3項および2項の規定により自治体の条例で必要と思われる数字に減少することができる。

全国地方自治体の議員総数
減数条例の制定
減員率
都道府県 3,090人
70.2%
4.8%
市町村  82,996人
97.3%
25.0%

★大阪府下の各自治体の議員定数は別表の通りである。

市町村
人口
(H7.4.30現在)
(A)単位人
議員定数
(H7.5.1)
議員一人
りの人口

A/B
議員報酬(H7.4.1現在単位千円 事務局職員数(H7.5.1現在) 平成年度決算額調
(C)単位千円
平成6年度
歳出総額
(D)単位千円
C/D
法定 条例(B) 議長 副議長 議員
大阪府 8,589,127 120 113 76,010 1,170 1,030 930 84 3,917,401 2,544,442,326 0.15
大阪市 2,485,348 96 90 27,615 1,200 1,060 970 20 3,305,929 1,808,681,528 0.18
堺市 795,799 60 52 15,304 800 750 680 34 1,172,751 247,089,882 0.47
岸和田市 194,086 40 30 6,470 660 630 600 14 557,063 62,497,331 0.89
豊中市 394,832 52 40 9,871 765 725 665 20 802,922 119,075,298 0.67
池田市 102,377 36 27 3,792 700 640 600 12 574,355 30,029,807 1.91
吹田市 332,219 48 36 9,228 740 700 650 17 690,403 104,055,671 0.66
泉大津市 68,467 36 22 3,112 610 580 550 8 316,986 25,525,179 1.24
高槻市 361,179 48 40 9,029 750 710 660 17 761,695 96,368,302 0.79
貝塚市 83,363 36 22 3,789 560 540 500 7 342,146 24,675,839 1.39
守口市 155,005 40 30 5,167 690 655 610 15 552,787 45,899,354 1.20
枚方市 395,903 48 36 10,997 720 685 630 20 706,324 103,834,164 0.68
茨木市 252,832 44 36 7,023 760 710 665 14 658,922 77,841,355 0.85
八尾市 269,617 44 34 7,930 640 600 560 14 577,041 82,281,429 0.70
泉佐野市 91,877 36 28 3,181 590 550 520 7 404,397 45,734,631 0.88
富田林市 120,140 36 24 5,006 630 590 550 9 375,621 36,468,803 1.03
寝屋川市 256,503 44 36 7,125 700 660 620 16 669,254 68,892,935 0.97
河内長野市 117,642 36 24 4,902 630 590 550 8 375,507 30,982,127 1.21
松原市 132,749 36 20 6,637 690 610 570 10 363,433 37,497,686 0.97
大東市 126,146 36 22 5,734 630 590 560 8 353,460 33,471,032 1.06
和泉市 155,195 36 26 5,969 610 580 550 10 407,477 44,911,613 0.91
箕面市 123,281 36 27 4,566 660 610 570 10 443,141 48,701,681 0.91
柏原市 77,500 36 22 3,523 560 520 500 6 318,044 22,526,603 1.41
羽曳野市 117,151 36 22 5,325 560 530 500 7 316,167 29,814,683 1.06
門真市 139,755 36 28 4,991 690 955 910 11 489,334 44,225,619 1.11
摂津市 85,770 36 28 3,063 620 570 535 9 394,226 31,284,655 1.26
高石市 63,785 36 23 2,773 580 550 520 8 382,862 21,500,794 1.78
藤井寺市 66,334 36 22 560 520 500 535 7 295,104 22,929,638 1.29
東大阪市 496,054 56 52 9,540 730 680 640 21 1,042,411 159,649,008 0.65
泉南市 61,587 36 26 2,369 540 490 470 7 323,612 18,201,739 1.78
四条畷市 53,212 36 18 2,956 570 530 510 5 250,406 18,034,348 1.39
交野市 72,271 36 20 3,614 645 590 555 8 320,027 24,084,149 1.33
大阪狭山市 56,582 36 20 2,829 540 480 460 5 255,492 20,093,468 1.27
阪南市 56,156 36 24 2,339 490 440 420 6 260,366 22,351,352 1.16

※参考資料 地方課発行 大阪府市町村機構・役職員一覧  自治大阪95-10
※人口:住基人口

★議員定数を考える基本的な前提

〔1〕代議制民主主義と議員

近代国家においては民主主義が政治の基本原理とされている。民主主義とは国民が政治の主導権を持たねばならず、国民の参政権はできるだけ広く認めようとする原理でもある。しかし、国民が一堂に会して政治を行うことは不可能であり社会分業の観点から立法や政策決定に関して、代表を選出し国民がその選定権を有する方式は積極的な合理性を有すると考えられている。「代表民主制」もしくは「代議制民主主義」と言われる法理の淵源がここにある。 ・我が国においては憲法の前文に「権力は国民の代表者がこれを行使し・・・」と明文化し代議制をとることを規定している。

〔2〕代表とは何か?
論点〔1〕でいう「代表」とは、代表機関の行為が法的に国民の行為と見なされるという法的意味ではなく、代表機関は国民の意思を反映すると見なされる政治的な意味と解されている
具体的には、以下の如く解されている。

議員は選挙区ないし後援団体など特定の母体の代表ではなく、国民の代表であること。
議員は議会において自己の信念に基づいてのみ発言、表決し、選挙区や後援団体などに拘束されない。従って議員の考え方は国民の意思と必ずしも一致することを要しないが、国民の代表者である議員との思想の事実上の類似性が重要視されるようになり、国民の多様な思想をできるだけ公正かつ忠実に議会に反映すべきとする社会学的な観点を加えて代表の観念を構成しようとする考え方が有力になってきている。

★議員の法的な立場は?
特別地方公務員[非常勤で、兼職は認められているが他の公務員および当該自治体と請負契約を行う法人の取締役もしくは監査役になれない]

★議員定数を考える論点

(1)日本国民で、その区域に住所を有するものは選挙権を有するが、住民登録をしている人口のみで議員定数を考えて良いか。? (2)行政区(自治体の面積)の大小と人口とは必ずしも一致しない。議員一人の守備範囲としての面積は不問でよいか。昼間人口と夜間人口(住民登録人口)との極端な乖離に対して不問でよいか。? (3)自治振興の度合いや、町の成熟度は議員定数と無関係でよいか?
※定住外国人に対して地方参政権を付与すべきかどうか、について賛否両論がある。

※フランス、イタリアの議員定数は現在の日本とほぼ同じ数だが、アメリカなどは日本の1/2〜1/4程度の議員定数となっている。この違いは地方自治制度の生成発展の経過と状況が違うことによるものであり、単純な比較はできない。従って議員定数は国、地方公共団体の地域および特性、社会情勢、住民の意向などにより異なってくるものであり一律に決定することはできない。

※重要なことは議員数の多少と審議内容の充実は必ずしも関連があるとは言えないことと、住民からの議員定数の削減の要求は審議内容の充実が希薄であり、活動の実態と実績は国民や地域住民に感じられないところから発生するものであることを心すべきである。

※議員定数削減論の論拠の一つに経費面からの議論が多いが、議員報酬が高すぎると受け止められているとすれば、議員活動の実績との対比論と受け止めるべきであり、議員の自覚に期待するところが多い。しかし、国および地方自治体とも議会費は歳出総額に比して全国平均で1%前後であり議員を半減してもこれによる節減金額は大した金額とは言えない。それよりも各行政について無駄はないか、節約できないか、民間委託の方が効率的ではないか、などを徹底的にチェックする議員を増やす方が重要であり効果的である。

大阪府議会の現況と議員定数問題に対する松室猛の主張

市町村議会議員は単一選挙区(市町村単位)ですべての議員を選出するが、都道府県議会議員は府県域の中で選挙区を設け選出している。その大半は単一の行政区であるが若干の合併選挙区もある。このように議員定数を考える場合の基礎的条件がかなり異なることから同一に論ずることは正しくないと考える。ここでは大阪府議会議員の定数について論じることにする。
大阪府議会の議員定数は現在113名であり、地方自治法の定数120名を昭和54年以降、府条例で7名削減して現在に至っている。
大阪府議会は現在58の選挙区から議員を選出しており、選挙区の大半は単一行政区であるが、次に示すとおり4選挙区は合併選挙区となっている。
泉大津市・泉北郡(忠岡町) 定数1名
高槻市・三島郡(島本町) 定数5名
箕面市・豊能郡(能勢町、豊能町) 定数2名
南河内郡(太子町、河南町、美原町、千早赤阪村) 定数1名

単一行政区の定数を調べてみると、
1人区 33選挙区(合併選挙区、2地区を含む)
2人区 15選挙区
3人区 3選挙区
4人区 2選挙区
5人区 3選挙区
7人区 1選挙区
11人区 1選挙区
    計58選挙区 113名

大阪府議会議員定数を大阪府の人口で割れば、77,851人に1名の割合で選出されていることになる。
しかし、選挙区(行政区)の人口にかなりのバラツキがあるため選挙区単位で比較すれば決して比例代表的な結果にはなっていない。一票の重さを比較すると浪速区(最小)と富田林(最大)では2.48倍の格差を生む結果となっている。国政選挙をめぐる「一票の重さ」の論議を思い出すが、たとえバラツキが合っても直ちに違法性を云々することは妥当性を欠くと考えるが、代表制民主主義の本旨からして可能な限り選出根拠の合理性を確保すべきである。

格差が生じている理由の一つに単一行政区で基準の数値に達しないからとて、直ちに隣接市と合併選挙区とすることの是非は、大変難しい政治論議を巻き起こすので、手つかずになっていることも格差を拡大している原因の一つである。しかし、現実論として理解はできても一票の重さの議論には対抗できないであろうし、この論理は府民感情になじまないものである。
公職選挙法の定めもさることながら、成熟度の高い都市部とそうでない過疎地区とでは面積や交通・情報のアクセスなど、あらゆる条件に違った要素があるので、単純平均での配分や、基数に満たないのに、単一行政区というだけの理由で、まず1議席配する方法は非論理的である。特に郡部にだけ合併選挙区(強制合区)を設けている現在の方法は著しく妥当性を欠くものであると考える。但し、前述したとおり議席配分は住民登録人口だけでよいのか、大都市はそこに住む人のためよりも、利用する人のための施設が多いのが普通であり、そこを利用する人と居住者との整合性のある情勢の展開を考えれば登録人口など大した意味を持たないのではないだろうか。
議員の選出数の数字的な根拠と、実態に合った選出根拠とは往々にして二律背反的な論議となるが、今こそ大都市圏特有の行政需要に見合った定数配分の方法を打ち出すべきである。

大阪府は未曾有の財政危機からの脱却のために一般職および教職員の大幅削減を年次を追って具体的に提示している現況からして、平成11年度の統一地方選挙からの実施は周知期間の問題もあり、時間的に無理であるとしても、この際、次次回の選挙を目指して抜本的な見直し路線を明確に示す必要がある。
然からば、大阪府議会の定数はどうあるべきかの具体論についてであるが、まず大阪府の地理的位置づけから考える必要がある。大阪府は47都道府県の中で二番目に小さい面積であることや交通網が整備されていることなどから行政効果が行き届きやすく、その水準もかなりの成熟度に達している。
他府県との単純比較はさしたる意味を持たないが、小さな場所に人口が密集していることから府県行政に関する代表民主制としての議員の数、即ち人口に対する議員の数は他府県と比して少なくても良いと考える。
単純に数字を比率で示すと、人口の10万分の1くらいが良いと考えるが、急激な変化は混乱を招くだろうから現実論として東京都と神奈川県の中間位の人口比、即ち8万5千人に1名の議員が適当だと考える。

平成7年の大阪府の国調人口は8,797,268人だから8万人に1人の議員とすれば103.4議席となる。微調整を含めて105人前後が議員定数として妥当なところではないだろうか。
具体的には行政区を基本とする各選挙区の実態をを勘案し、配分しなければならないが、大阪府が実施している従来の方法である各選挙区毎の人口を一人当たりの人口で除し、配当基数を算出し、議員一人当たりの人口に達しない選挙区について、当面どこまでが許容範囲かを真剣に議論する必要がある。
その結果、総定数が若干増えることがあってもやむを得ないと考えるが、考え方としては人口比をどの数値とするかをこの際明確に提起すべきである。

具体的に、現在の配分方式を前提に定数を105議席に絞ったと仮定すると次の選挙区で定数減となる。

大阪市域部     
  住之江区  2名→1名   
  
平野区    3名→2名
衛生都市部 
   堺市   11名→9名  
  八尾市  4名→3名
  松原市 2名→1名  
  大東市  2名→1名
 
  東大阪市 7名→6名         
・・・・減員数8名

この算定方式の最大の問題点は
  
浪速区の基数 0.586・・・・1名
  住之江区基数 1.658・・・・1名
  門真市の基数 1.677・・・・2名

となる点である。

大阪市域部で0.6に達しないのに1名の議員を配さねばならない根拠は希薄である。従って隣接行政区との合併選挙区の検討が必要であろう。
さらに問題なのは住之江区と門真市の定数である。0.021の差で1名が2名になる矛盾が生じる。
この問題点は放置できないであろう。
単一行政区を重視する現行の議員配分方式では最低基準として0.6以上、複数区は0.8以上とするなどの基準を設定し、さらに選挙区の地理的、人口動態的な諸条件などの地域特性をどのように勘案すべきかを徹底的に議論をすべきである。
十分な協議を前提として選出基数(人口対比)と配当基数を明確化し、許容範囲を熟慮検討することが当面の急務であろう。その際の一つの具体例として35万人以上の単一行政区の議員は基数計算の特例を設けて減員するのも方法である。逆に人口の少ない行政区は大胆に合併選挙区とすべきであろう。大阪市内の場合は合併選挙区にしたところで地域特性に違いが生じ難いだろうから、また、郡部においても地理的、時間的条件が極端に悪化しない限りためらうべきではない。
これらの作業を前置しない単純な数値だけで定数を決定すべきではないと考える。

定数削減は現職議員の死活問題となる案件であるが、財政再建プログラム(案)に示された行政サイドの並々ならぬ対応と決意を感じるとき、議会人も襟を正し前向きな議論をしなければ府民の政治離れを議員自らが加速させる結果となるだろう。この決断ができないのなら行政の広域化など、議員としては発言できないはずだ。
定数と選挙区割りの作業を議員自らが行うことは前述の通り大変難しい問題がある。衆議院選挙に関して小選挙区比例代表並立制を採用した際に、区割りについては議員以外の第三者が原案を示した経緯があるが、これにならって「大阪府議会議員定数と選挙区割り検討委員会(仮称)」を設置し原案策定を委託するのも方法であろう。
来春の統一地方選挙には周知期間の問題もあり間に合わなくとも、平成15年の統一地方選挙には断行する方針を示すべきである。

議員のエゴや政党のエゴがまかり通るほど府民の議会に対する対応は甘くないことを知るべきであろう。

 〔平成10年8月28日  大阪府議会議員 松室猛〕

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