令嬢と苦学生
その7〜ずっとあなたが好きだった
賢一郎さんが、淑子さんをぎゅっと抱きしめました。
「淑ちゃん!子供の頃から、ずっと好きだった・・・
・・・ホントは、僕がお嫁に欲しかった」
「・・・!」
「だから、大好きな淑ちゃんには、幸せになって欲しいんだ」
その頃、賢一郎さんも家で母上にこんな事を聞かされました。
「母上、僕、卒業して父上の会社に入る頃には淑ちゃんをお嫁にもらいたいと思ってるんだけど・・・」
「まあ、賢一郎さん、何を仰ってるの?お隣の淑子さんはもうご両親の決めたお相手がいらっしゃってよ」
「!!!」
「留学だなんてステキですね。きっとあちらでは進んだ学問が勉強できるのでしょうね・・・礼府さんはどうなさるの?」
「僕は天涯孤独の身で田舎から出てきたし、顧みるものは何もないから、やれることは何でも挑戦してみようと思います
」
『留学・・・礼府さんと最先端の事が学びにいけたらどんなに楽しいかしら』
賢一郎さんが淑子さんから腕を離して言いました。
「淑ちゃん、僕は淑ちゃんにちゃんと打ち明けたよ・・・
だから、今度は淑ちゃんが、自分の気持ちをちゃんと打ち明けるんだ
・・・いいね?」
「・・・賢さん・・・」
植え込みからガサッと音がして、お隣から賢一郎さんが現れました。
「淑ちゃん、お邪魔するよ・・・」
「賢さん・・・」
「話は聞いたよ・・・淑ちゃん、ご両親の決めた人と結婚するって・・・?
淑ちゃん、彼奴のことはいいのか?
・・・彼奴のこと、好きなんじゃなかったのか?」
淑子さんたちも、そろそろ進路を考える時期が来ました。
そんなある日、教授に呼ばれて、こんな事を言われました。
「留学の枠がある。行きたい者は考えておくように」
綾子さんは淑子さんと別れた後、賢一郎さんに電話をしました。
「賢さん、本当に淑子さんの事を愛しているのなら、力になって頂戴」
夕暮れ時。淑子さんはお庭で物思いにふけっていました。
『いつまでも、楽しく勉学できる訳じゃない・・・お父様とお母様のことを考えたら、礼府さんのことは諦めなければならないのかしら・・・』
淑子さんに呼び出された綾子さん。
「どうしたの、淑子さん?」
「卒業したらお父様の会社を継ぐ方と結婚しなさいって
・・・礼府さんは留学に行かれてしまう・・・
綾子さん、私どうしたらいいの?」
淑子さんが大粒の涙をぽろりとこぼしたのを見て、綾子さんは驚きました。
「・・・淑子さん・・・礼府さんのことが、好きなのね?」
淑子さんは黙って頷きました。
淑子さんは家に帰ってお母様に打診しようとしましたが、お母様は言いました。
「淑ちゃん、遅くに生まれた一人娘だから好きにさせてきたけれど・・・
今度お見合いをするのよ、淑ちゃんの卒業まで結婚は待って下さるそうだから。
お父様のお仕事を継いでくれる方ですからね・・・
お父様とお母様を安心させて頂戴」
「!!!」