令嬢と苦学生
その6〜ステップと恋の行方
門の前で淑子さんに会った賢一郎さんは、やはり声をかけました
「淑ちゃん!今度、パーティーをしようと思うんだ。礼府君も誘ったけど、もちろん淑ちゃんも来てくれるだろ?」
「まあ!賢さん、喜んで!」
「淑ちゃん、成人のお祝いにしてたネックレスなんてとても素敵だったよ、あんなのつけて、うんとおめかししていらっしゃい」
「賢さんは可哀想な人ね。こんなに素敵なレディが目の前にいるのに・・・
賢さん、私たちも踊りましょう?」
賢一郎さんの手を引いて、綾子さんは踊りの輪の中に入っていきました。
「綾子さん!これ持ってて下さい!」
淑子さんは装身具をすべて外して綾子さんに手渡すと、ドレス一枚で礼府さんを追いかけました。
賢一郎さんが、キャンパスで礼府さんに声をかけました。
「礼府君!今度学部を超えて学生達の集いをしようと思うんだ。君も是非来ないか?淑ちゃんも誘うしさ」
「・・・それならば、是非」
「じゃあ、”学生らしい”格好をして来てくれ給え」
「ああ、ありがとう!」
議論の後、淑子さんは何度も礼府さんとダンスを楽しみました。
「フフ、礼府さん、いつノーベル賞を取っても大丈夫ね・・・(その時は、私がこうして一緒に踊れたらいいのに)」
「アハハ、襟居さん・・・(こんな素敵な女性と一緒になれたらいいけれど)」
二人が踊るのを、賢一郎さんと綾子さんが眺めていました。
「ほら、お似合いだわ、淑子さんと礼府さん・・・賢さん、お兄様として、淑子さんの幸せを認めてあげたらどうなの?」
賢さんは黙ってカクテルを飲み干しました。
踊り終えた後、礼府さんと襟居さんは富井さんと物理の応用について大いに議論を交わしました。
「ほら、賢さん見て。淑子さんたち、楽しそうにやってるじゃない・・・
会は大成功ね」
「・・・」
二人とも、同じ事を考えていました。
『このまま時が止まればいいのに・・・』
「待って!礼府さん!学生服、おかしくないわ。
だって私たち学生だから華美にする必要なんてないんですもの」
「湯川博士だってノーベル賞の受賞パーティで夫人と踊られたのよ・・・礼府さん、いつか、ノーベル賞の受賞パーティに行く練習だと思って・・・私と踊って下さらない?」
真顔で淑子さんが礼府さんを見つめてそう言うと、礼府さんは思わず吹き出しました。
「襟居さんも、そんな突拍子もないこと言うんですね・・・」
二人はお店に戻って皆と一緒に踊りました
。
「大丈夫、私の背に手を回して、揺れてれば・・・」
「ありがとう、襟居さん。こんな異国のパーティーみたいなの、初めてです」
椎名さんが富井さんと踊りながら二人を見つめていました。
『淑子さん、素敵!お似合いよ・・・』
「襟居さん、皆さん、すいません・・・失礼します」
礼府さんがしょんぼりと帰っていこうとしました。
「待って!礼府さん!」
淑子さんが止めましたが、礼府さんはドアの向こうに消えていきました。
『やっぱり、”学生らしい格好”って言ったら、彼奴学生服で来たぞ・・・』
「ご、ごめんなさい・・・学生の集いって聞いたので、こんな華やかな会だとは知らず、こんな格好で・・・」
『恥ずかしくてすぐに帰るはず。淑ちゃんだってきっと幻滅するさ』
少し遅れて礼府さんがやってきました。その姿に皆息を呑みました。
「!!!」
賢一郎さんだけは、思惑通りだと思いました。
パーティーの当日。
「淑子さん、私の婚約者の富井さん・・・父の会社で大型電算計の開発をしているの。是非淑子さんや礼府さんのお力を借りたい、お話がしたいって」
「ええ、礼府さん、アルバイトが終わったら寄りますって仰ってたから、もうすぐ来られると・・・」