令嬢と苦学生
その5
今日は、淑子さんのお宅で新年会です。
「今日は淑子さんのご学友の礼府さんがいらっしゃるんでしょう?」
「淑子さんの想ってらっしゃる方がどんな方か、楽しみだワ!」
「・・・イヤだワ、綾子さんも椎名さんも、からかわないで頂戴!
私、礼府さんのこととても尊敬してるのよ、おかしな事言わないで頂戴ね!」
賢一郎さんだけが笑っていなかったのに、綾子さんが心配そうな顔をして見つめていました。
綾子さんの視線に、賢一郎さんは気づいていませんでした。
「そうそう、淑子さんはカフェでどんな洋菓子を戴いても”美味しいけれど、あの時の干し柿くらい美味しく感じたモノはなかったわ”っておっしゃるんですものネ!」
「まァなんて偶然!淑子さん、念願が叶って良かったわネ!」
綾子さんと椎名さんがそう言って笑うと、淑子さんは恥ずかしそうに笑いました
。
「喜んでいただけたら僕も嬉しいです」と礼府さんも嬉しそうに笑っていました。
「皆さんのお口に合うか分かりませんが、代用教員をしてたときの生徒達が、田舎で作った干し柿を送ってきてくれたんです・・・どうぞ」
「まあ!干し柿!・・・小さいときに疎開した先で、どうしても甘いものが食べたいってワガママを言ったときに、ばあやが食べさせてくれたのが干し柿だったんです・・・懐かしいわ!」
そう言って、礼府さんと淑子さんはニッコリ見つめ合いました。
礼府さんが新聞紙にくるんだ何かをもってやってきました。
「襟居さん、お招きありがとう・・・僕のような田舎者が、こんな立派なお屋敷に・・・恐縮しちゃいますよ」
綾子さんと椎名さんは礼府さんのマフラーを見て確信しました。
『あのマフラーは、いつか淑子さんが一生懸命編んだ・・・!
やっぱり淑子さんは・・・!!』
賢一郎さんがお隣からやってきました。
「やあ、淑女諸君、あけましておめでとう!・・・はい、お年始。舶来のクッキーさ」
お盆の上には、色とりどりのクッキーが載っていました。
「まあ、賢一郎さん、ありがとう!」