令嬢と苦学生
その4

下宿先のお嬢さんがお粥を持ってやってきました。

「さあ、礼府さん、あまり起きていては体に障りますわ・・・」
「長居してごめんなさい・・・私、お暇させていただきますね」
「え・・・襟居さん!早く良くなりますから、また、勉強会しましょう!」
「はい!楽しみにしていますね!お大事に!」

下宿先のお嬢さんに追い立てられてからだけではなく、帰り道、淑子さんの胸はドキドキしていました。

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礼府さんと勉強会をするようになって、同じ志の仲間が増えてきました。

「やあ、襟居さん!」
「しばらく勉強会は僕たちだけでするよ。礼府君は夏風邪だか、体調を崩してしばらく下宿で静養するそうだ」
「まあ・・・」
「礼府君、そういえば肺を患って兵役を免れたって言ってたくらいだからなぁ」

思わず見つめ合って、気恥ずかしくなってお互い目をそらした後、礼府さんが照れ隠しのように言いました。

「そうそう、この間の洋書の続編を見つけたんです。もし良かったらお貸ししますから・・・棚の上に大切なモノだけ置いてありますから、持って行って下さい」

そう言われて淑子さんは棚の上を見ると、大切な本と一緒に、夏だというのにマフラーが丁寧に畳まれて置いてありました

『!!・・・このマフラー・・・!!』

「ありがとう、襟居さん・・・早く良くなってしっかり勉強しなくては。
僕が肺のせいで逃れた学徒動員で亡くなった同級生の分までいろんな事を吸収したいですからね」
「そうね、その意気ですね・・・」

『襟居さん、こんなところまで来てくれるだなんて・・・もしかして僕のこと・・・』
『まあ、礼府さんてメガネを外すとこんなに美男子だったのね・・・』

礼府さんの部屋に通された淑子さん。

「礼府さん、こんにちは・・・お見舞いにまいりました。」

「ヤァ、襟居さん・・・寝間着姿なんか見せてお恥ずかしい」

「コレ、お見舞いに・・・滋養が付くように、卵たっぷりの洋菓子と、勉強会のまとめノート・・・皆、礼府さんが居ないと盛り上がらないって嘆いてましたわ」

淑子さんは仲間から訊いた礼府さんの下宿先を訪れました。

「・・・あの、ここは礼府さんの下宿していらっしゃるお宅でしょうか?」
「そうですけど、貴女、礼府さんの何なの?」

下宿先のお嬢さんは淑子さんを一瞥して言いました。
「・・・同級生です。お見舞いに参りました」
「へえ。女の帝大生なんて居るのね」