華やかなパーティの招待客の間を通り抜け前に進み出てきた挑戦者は10名。

 縁なしフレームの眼鏡をかけた30代の女性を除けば、挑戦する人間は男ばかり。でもって、先ほど神津皓紀が言った通り未成年は平次だけで、他は20才以上の大人だった。

 さすがにパーティの参加者からは、問題に挑戦しようと言う者はなかったようだ。

 そりゃそうだろう。

 いくらエナシス夫人所有のビッグジュエルが自分のものになるかもしれないとしても、そう簡単に解ける問題ではないのだ。

 それでも、ダイヤを欲しがる女は渋る男に向かって、あなたって本当は頭悪かったのねとののしっていた。

 そばで聞いていたコナンは気の毒だなあ、とその男に同情するが、所詮は他人事だと首を小さくすくめると壇上の方に顔を向けた。

 丁度、挑戦者である5人が壇上へ上がる所だった。

 前もって渡された番号順に挑戦者が壇上へ上がり、用意されたボードに答えを書いて、必要であれば説明もできることになっている。

 平次は次のグループだったが、そばにあの神津皓紀の姿を見たコナンはキュッと眉根を寄せた。

(あいつ・・・・)

 何故か気になる。

「え?・・・わっ!?」

 じっと皓紀を見つめていたコナンは、突然後ろから抱き上げられ身体が浮き上がったのでビックリして声をあげた。

 誰だ?と驚いて後ろを振り返ると、ホテルのロビーで平次に声をかけてきた刑事がニッコリとコナンに笑いかけた。

「ああ、ごめんごめん。びっくりさせちゃったな。こうした方がよう見える思たから」

 有田が笑いながらそう言った。

 ビシッときめたスーツ姿の有田は、コナンもよく知るあの白鳥刑事に似た所があったが、ニコニコ笑っているその印象はかなり飄々としたものを受ける。

 平次も他人に警戒心を持たれない人なつこい印象があるが、これって関西人特有のものだろうか。

「ボンは平次くんの知り合いか?」

「うん」

 コナンもつられたように愛想良く笑って頷いた。

 どうやら有田刑事は自分のことを知らないらしい。

 前に大阪に来た時知り合ったのは、捜査一課の刑事たちだったから、二課の刑事である有田がコナンの顔を知らないのは当然かもしれなかった。

「平次兄ちゃんとは東京で会ったんだ。おじさんがね、探偵をしてるから」

 ウソは言ってない。

 たとえ、平次の上京理由が『工藤新一』にあったとしても。

「ああ、そうなんか。探偵ねえ」

 有田は一応納得したようだった。

 平次が上京した時偶然殺人事件に遭遇したらしいという話は耳にしているから、そこで知り合ったのだろうと有田は考える。

 有田がそれ以上のことを聞いてこないので、コナンはとりあえずホッとした。

 あまり、いろいろ聞かれたくはなかった。

 特に、見かけは小学生である自分が一人で大阪に来ていると知られ、面倒な説明をするのはできればゴメンこうむりたい。

 どうせ、ウソをつくしかないのだし。

 いや、それよりも蘭に連絡がいくのだけは絶対に避けたかった。

 もし、そうなった場合は“平次兄ちゃん”を有効に使わせてもらうしかないが、しかし今回無理を言ってるだけにどこまで許容してくれるかが問題ではある。

 ・・・・にしても、とコナンはこっそり吐息をこぼす。

 こっちへ来てからなんかよく抱き上げられるよなあ。

 子供扱いされるのには慣れた。

 実際、今の自分は誰が見ても7才の子供なのだし。

 最初は恥ずかしかった子供の振りも慣れると結構平気になるものだ。

 人間って奴はうまくできてるもんだよなあと感心する反面、慣れって怖いともコナンは思う。

(このままオレ、アホになったらどうしよう・・・)

 実は結構深刻な悩みだったりする。

 ほお〜と有田刑事が最初の5人が出した答えに目を瞬かせた。

 5人とも、あの問題を暗号だと思ったらしいが、かなり強引なこじつけにはコナンも苦笑するしかない。

(ハハ・・ま、あんなもんだろな)

 アレが実はパズルなのだと気がつく人間はまずいないだろう。

 自分だって、あいつがいなきゃ気づかないままだったかもしれない。

 いや、いづれは気がついたろうが、それはずっと後になってからだったろう。

「考えるもんだなあ。けど、どれが正解なんだ?」

「全部違ってるよ」

「え?」

「だって、あの問題を解けるのは平次兄ちゃんだけだもん」

 それと、もしかしたらあいつが・・・

「そうか。平次くんだけか」

 有田は嬉しそうな顔でコナンを見る。

「平次くんはホンマ頭がええからなあ」

 有田が大阪府警に入った時、平次はまだ小学生だったが、それでも頭の回転の良さには舌を巻いた。

 最初、何も知らない頃はなんでこんな小さな子供が署内をチョロチョロしてるんだと眉をひそめた有田であったが、先輩刑事から平次が本部長の一人息子だと教えられ、そしてお守までまかせられてからやっと彼の特異性に気づいた。

 分析能力が並ではないのだ。

 しかも勘が良く、人の嘘を見抜くことにも長けていた。

 平次が西の名探偵と呼ばれるようになったのは、単なる珍しさや話題性だけではないのだ。

 そういえば、東京には東の名探偵と呼ばれる、やはり高校生探偵がいるという噂を耳にしたことがあるが、最近はどういうわけか毛利小五郎という私立探偵の評判を聞くことの方が多い。

「そういや、ボンはどこからきたんや?」

 突然の質問にコナンはギクッとなるが、答えないわけにはいかないので「東京」とだけ答える。

「やっぱそうかあ。言葉がそうやからな。じゃあ、毛利探偵って知ってるかい」

「おじさんだけど?」

 コナンが答えると有田は、ああ!という顔になった。

「やっぱりそうなんか!平次くんが東京で会った探偵いうんは毛利小五郎だったわけなんやな!」

 そうか、そうかと有田は何度も大きく頷く。

 「・・・・・・・・」

 なんか勘違いしてるようだが、まあホントのことを言うよりいいかとコナンは肩をすくめた。

 二人がそんな会話をしているうち、最初のグループと入れ替わるように平次が壇上へと上がっていった。

 そして、同じグループだった神津皓紀が、故意か偶然か平次と隣り合わせに並んだのを見てコナンは顔をしかめた。

 いったい何故こんなにも気になるのかわからない。

 あいつが、パズルという言葉を口にしたせいか。

「なんだ?」

 壇上の5人がボードに答えを書き始めた時、先ほどとは違った困惑したような声が会場内のあちこちから漏れ出した。

 5人の中でどう見ても学生にしか見えない2人が、奇妙な記号と数字をボード一杯に書き連ねていったのだ。

 隣あわせたその二人は、僅かなズレはあるものの全く同じものを書いていた。

 平次の方がやや書くのが早く、皓紀が追うようにして答えを書いているようだが、互いにボードに集中しているため、同じものを書いていることに気づいていないようだ。

「どうなってんのや?」

 有田も、この奇妙な光景にはかなり戸惑っている様子だった。

 もしあの二人が同じ解釈で問題を解いているのだとしたら、全く同じものになってもおかしいことではない。

 カンニングという疑いが浮かばないのは、彼等が書いているものが異常とも思えるほど特殊で、簡単には写せないものだということがはっきりしているからだ。

 彼等と同じ壇上に上がっていた他の3人はとうに書き終えているのに、平次と皓紀はまだボード上にマジックを走らせていた。

 いつのまにか会場にいる人々の関心は全て二人の年若い青年に向いていた。

 ボードが半分記号と数字で埋まっても、まだ書き終わる気配はない。

(やっぱ、さすがだぜ服部の奴)

 一心に答えを書いている平次を見つめるコナンの顔に満足そうな笑みが浮かぶ。できないとか、時間が足りないとか文句を言っても、やはりやる時はやる奴だなとコナンは西の名探偵を改めて見直す。

 問題は平次の隣にいる男だ。

 神津皓紀だと?キッドじゃないとすれば何者なんだ?

 コナンが眉をひそめながら見つめていた皓紀の手がふと止まった。

 書き終えたというのではなく、何かを考え込む様子。

 皓紀はマジックを逆に持ち、コンコンとボードをノックする。

 わからなくなったのか?と思い彼の前にあるボードを覗き込んだコナンの瞳が大きく見開かれた。

(あの野郎!まさか・・!?)

 不安にかられたコナンは、有田の腕の中から身を乗り出すと平次に向けて大声で叫んだ。

平次兄ちゃん!そいつの頭殴っちゃえ!

「え?え?な、なんやあ?」

 突然とんでもないことを言われた平次はギョッとなって、後ろを振り返った。

 そしてやはり目を丸くした有田刑事に抱っこされているコナンを見つけた平次は、何言うとんのやという顔でにらんだ。

 だが、コナンは気にとめることなく先を続ける。

「そいつだよ!平次兄ちゃんの隣にいる奴!思いっきり殴りとばしちゃってもいいから!」

「おまえな〜そないなこと、できるわけないやろ!」

 なんで、いきなり・・とそこで初めて隣を見た平次は、途中までだが自分と全く同じ答えが書かれているボードに瞳を瞬かせた。

(こいつ、やっぱり・・・)

 これがパズルだとわかっていたのだから、当然同じ答えを出すだろうとは予想していたが・・・しかし、それはコナンも同じだった筈だ。

 なのに、何故いきなりあんなことを?

 コナンの咎めるようなきつい視線と、戸惑ったような平次の視線を受け止めていた神津皓紀の横顔が、フッと緩んだ。

 皮肉っぽく口端を引き上げた笑み。

 コナンは、唐突に変化した気配に背筋をゾクリと震わす。

 それは覚えのある気配だった。

「平次兄ちゃん!そいつは・・・!」

 え?と平次は再びコナンの方に顔を向ける。

 いったい、あの東の名探偵は何に動揺しているのか。

 瞳を伏せた皓紀がクスッと笑う。

そいつは怪盗キッドだっ!

 なっ・・・!

「なんやてええーっ!」

 平次の驚愕の声が響き渡ると同時に会場の明かりが一斉に消えた。

 途端に悲鳴があちこちから上がる。

「皆さん落ち着いて!その場から絶対に動かないように!」

 有田がパニックを押さえようと必死に声を張り上げる。

 しかし、突然真っ暗になったことで、まったく視界がきかない。

 そこへ、不用意にホテルの従業員が扉を開けたものだから人々はその廊下の明かりめがけて殺到した。

 怒声と悲鳴に会場内は余計パニックに陥る。

 明かりはすぐについた。

 消えていたのはほんの数分というところだが、なにかをやるには十分な時間。

「大丈夫か工藤!」

 さすがに暗闇の中では動きが取れなかった平次は、明かりがつくと真っ先にコナンの姿を探した。

 実は、明かりが消えてから平次は神津皓紀が立っていた場所めがけてとびついたのだが、その腕が捕らえるべきものは既にその場にはなかったのだ。

(あんにゃろう〜!)

 まさか、奴がキッドだったとは!

「平次くん!怪我はないですか?」

「ああ、有田はん。大丈夫や」

 有田は良かったとホッとしたように頷くと、暗闇の中必死に庇っていた小さな子供を平次の手に渡した。

「けが人はおんのか?」

 コナンを受け取った平次が有田に聞く。

「暗闇の中でのパニックでっから、数人の怪我人は止む追えないでしょうね」

「宝石は?」

 コナンが有田に問いかけた時、エナシス夫人がカン高い悲鳴を上げた。

「ダイヤが!ダイヤがないわ!」

「なんやてえ!」

「出口を全て封鎖だ!誰も外には出すな!非常階段と、後は屋上へ向かえ!」

 キッドは屋上からの逃走が多い。

 前もってホテル近辺にヘリを待機させてあるので有田は不審者の有無を無線で確認した。

 ダイヤをまんまと盗みだされたとはいえ、テキパキと指示を下す有田はさすがというか。

 おい、と平次の腕の中にいるコナンがその小さな手で彼のシャツの袖を引っ張る。

「あの女がいないぞ・・・」

「あの女?」

 平次はまわりをみまわすと、あッと声を出した。

「ドクターオハラか!」

「・・・・・・・・」

 


 光量を落とした薄暗いスィートルームに浮かび上がる白い影。

 それほど長身ではないが、スラリとした体型とシルクハットのせいか実際よりは大きく見える。

 純白のスーツに白いマントというその姿は、現在日本の警察では忌々しい象徴であり、彼を知る者にはおなじみのコスチュームだ。

 世間を騒がす優雅な怪盗の手には、巨大なダイヤが二つあった。

 一つは先ほどパーティ会場でエナシス夫人から奪ったもので、もう一つは彼女の部屋に保管されていたものだ。

 二つを見比べていたキッドはニッと笑うと、先に手にしたダイヤを開いているケースの中に納めた。

 よくできているが怪盗キッドの目をごまかすにはまだまだ不十分だ。

 甘いんだよ、とキッドはククッと笑った。

 彼の白い手袋をはめた手の中ではダイヤがころころと転がっている。

 数千万だろうが億がつこうが、キッドにとって手に入れるべきものでないものはなんの価値もないものだから扱いは結構雑だ。

 宝石マニアにはとんでもないことだろうが。

「やはりここにいたのね」

「・・・・!」

 いきなり明かりがついた部屋でキッドは瞳を細め顔をしかめた。

 部屋にいた邪魔者はとっくに自分の足下に転がっている。

 まさか、こんなに早くここへやって来る者がいようとは予想外だが、それでもキッドの顔には慌てた様子は微塵も見られなかった。

 完璧なポーカーフェイス。

 たとえ何者であろうと、この自分を捕らえることはできないという絶対の自信。

 怪盗キッドは確保不能の存在なのだ。

 もし、自分を捕らえられる者がいたとすれば、それは一人だけ・・・・

 キッドは部屋に入ってきた金髪の女を見つめた。

 彼女は明かりの下に映し出されたキッドの顔に歓喜の表情を浮かべていた。

 いつもなら計算してわざと逆光で陰にしはっきりさせることのない顔立ちだが、今は煌々とした明かりが彼の端正な顔立ちを浮かびあがらせている。

 それはシルクハットとモノクルだけでは完全に隠すことのできない強烈な個性だった。

「やはりキッドはあなただったのね。ビッグジュエルばかりを狙う怪盗がいると聞いた時、もしかしたらと思っていたのよ。だって、ジェレミーと一緒にあのパズルを解いたあなたですものね・・・・・もう何もかもわかっているのでしょう?」

 ドクターオハラは笑みをうかべながらキッドにそう言った。

「必ずあなたに会えると思っていたわ、シン」 

「・・・・・・・・・・・」

 キッドはかすかに眉をひそめ首を傾げた。。

「人違いではないのですか、ドクターオハラ。私はそういう者ではないが」

「あら、とぼけるつもり?あいにくと、わたしは記憶力はいい方なのよ。たとえ5年たっていてもあの時の子供の顔を忘れたりはしないわ」

 彼女の秘蔵ッ子がどこからか連れてきた東洋人の少年。

 単なる遊び友達だと気にもとめていなかったが、実はとんでもない天才だった。

 ジェレミーが最後まで解くことができなかったパズルの秘密をシンが解いたらしいと聞いた時はどんなに驚いたか。

 怪盗キッドの推定IQが400だというデータが本当であるなら、アレを解いたというあの子の話も信じられる。

 だからこそ、日本にきてパズルに懸賞をつけネットに流したのだ。

 それを見れば必ず彼が現れると思ったから。

 そうして彼女の思惑通り怪盗キッドは現れた。

「あなたが欲しいのはそんなダイヤではなく、これじゃなくて?」

 オハラはキッドに一枚のフロッピーディスクを見せた。

「ジェレミーの・・あの子がシンに残したメッセージよ。約束だったんですって?」

 可愛いこと、と彼女は笑う。

「でも、わたしがあの子に望んだのはこんなものじゃないのよ。わかるでしょ?」

「・・・・・・・」

「取り引きしましょう、シン。あなたにとっても十分にメリットのある取り引きよ」

 キッドはフッ・・と笑った。

「おかど違いですね、ドクター。あなたは取り引きの相手を間違えている」

「ジェレミーのことはもうどうでもいいというわけなの?」

 キッドは肩をすくめた。

「あいにくと、そんな男のことは知らないんでね」

「・・・・!なんですってっ!?」

 ドクターオハラがキッドのその言葉に目を剥いた時、コナンと平次の二人が勢いよく部屋の中に飛び込んできた。

 すぐに彼等の目に映ったのは、あの目立つ白い怪盗。

「キッド!やっぱここやったか!」

 おや、と彼等の方を見たキッドがクスリと笑う。

「東西の名探偵が揃い踏みではいささか分が悪いな」

「何抜かしてんねん!堂々とオレらの前に現れやがってからに!工藤が言うた時思いっきり頭殴ってやるんだったわ!」

 そりゃ残念、とキッドがククッと喉を鳴らすと、平次は思いっきり渋い顔になった。

 相変わらずムカツクやっちゃ!

「観念してさっさとお縄につき!その方がおまえのためや!」

「面白い理屈だなあ、そりゃあ」

 キッドは声を上げて笑うと、平次の傍らに立ってじっと自分を睨んでいる小さな子供に視線を向けた。

「見せ場はこれからだ。そうだろう?名探偵」

 キッドの右手が静かにあがるのを見たコナンがハッとなる。

「服部!気を付けろ!」

「何!」

 キッドに飛びかかろうとしていた平次は、突然目が眩むような閃光に足を止められた。

「閃光弾か!」

 ベランダへ出るガラス戸が左右に大きく開きそこからキッドの姿が消える。

「野郎〜ッ!逃がさへんで!」

 平次はすぐにベランダに飛び出すと、まず空を見て何もないのを確かめてから下を覗き込んだ。

 この部屋は32階にあるが、すぐ下に突き出た庭園が造られているので飛び降りれなくはない。

「奴は下か!」

「待て、服部!」

 慌ててコナンもベランダへ出たが、平次はその前に下へ飛び降りていた。

 あいつ・・・!

 コナンはベランダに身を乗り出して下を覗き込むが、真っ黒に見える庭園内にキッドの姿はおろか、平次の姿も見ることはできなかった。

 さすがにこの身体で飛び降りるのは無謀なのでコナンは諦める。

 (まあ、キッドのことは服部にまかせておけばいいか)

 捕まえられるかどうかはわからないが、もともとここに来たのはあいつが目的じゃないのだし。

 そんなことを口にしたらキッドは機嫌を悪くするかもしれないが、今のコナンには別にどうでもいいことであった。

 確認したいことはあるが、それはいつでも直接会って確かめることができる。

 キッドの正体はとうにわかっているのだから。

 あまり会いたくはない相手だが、しょうがない。

(あのバカ・・・・)

 部屋に戻ろうと向きを変えたコナンはギョッとして後ずさる。

 いつのまにかドクターオハラがすぐ目の前に立っていたのだ。

「坊や。あなた、シンの身内?」

 え?とコナンは瞳を瞬かせる。

「会場で見た時から気になっていたのよ。本当にシンにソックリ。ああ、ごまかしはなしね。こんなに似ていて関係ないなんて言わせないわよ」

「・・・・・・・」

「怪盗キッドも身内かしら?彼もシンによく似ているものね。てっきり、わたしは彼がシンだと思っていたのだけど」

 オハラは小さなコナンの身体に手を伸ばすとベランダの上に座らせた。

 すぐ下に庭園が見えても高いことには違いない。

 彼女の手に肩を掴まれたままのコナンは緊張する。

 まさか、ここから落とすなんてことはしないだろうが。

「ねえ。シンはどこにいるのかしら?知っているんでしょう?シンはあなたのお兄さんなのかしら?」

 違うよ、とコナンは首を振る。

「あんたの言うシンなんてどこにもいない」

「いない筈はないでしょう。わたしは5年前に会っているのだから。ああ、彼怒ってるのかしら?彼にはひどいことを言ってしまったから。でも、わたしはあの時はジェレミーが全てだったのよ」

 全て?それで、何故あいつが死ぬんだ。

「教えて。シンはいったいどこにいるの?」

 この女、何が目的だ?

 ボクも・・・とコナンは口を開く。

「知りたいな。どうして、あいつが死んだのか。あんたが殺したのか?」

 オハラは顔をしかめた。

「何を言ってるの?わたしが誰を殺したって言うのよ」

 なんなの、この子の目?子供の目とは思えないわ。

 目の前の子供に何故かオハラは違和感を覚える。

 しかし、どう見ても彼女の目に映っているのは小さな子供だ。

 あの日のシンよりもずっと幼い子供。

「坊や、いったい何者?」

 そう問われたコナンはニッと大人びた顔で笑った。

「江戸川コナン。探偵だよ」

 

 

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